122 ハード・ターゲット 3

パイプ爆弾によるテロの現場に俺達4人は来ていた。
バトウの説明では火薬の中に金属片が入っているタイプの爆弾で、爆発と同時に複数の金属片が周囲に飛び散る、とのことだ。だから現場は想像していたものよりも凄惨なものになっていると覚悟はしていたが、まさか『跡形も無い』ぐらに消し飛ぶとは思わなかった。
あいも変わらずバトウは白い目で警察連中に見られているが今度はトズサも警視庁の仲間らしきものに絡まれていた。険悪なムードでもう近寄る事もできない雰囲気。
それに加えて、被害者となった人達の友達や家族や知り合いが泣きながら、野次馬の中にいる。早くこの不幸な現場から立ち去ってしまいたいのだろうが、目の前の友達や家族の『残骸』を残して去ることができないのだろう。
爆発の中心には肉片が散らばっていてもうそれが人間の形を象っていたことは想像できないほどに細かくなっている。『幸い』にも金属片によって粉々にならなかった人達も身体が半分だけの状態で現場に転がっていたりもする。
ショーウィンドウも車の窓ガラスも木っ端微塵で、地面や車のボディ部分には直径5ミリ程度の無数の穴が大量に空いている。金属片と言っても相当に細かいものらしい。
俺達の捜査が終わるまで警察は何もできないという話になってはいるものの、この惨劇をいつまでも一般市民に見せているわけにもいかず、警察は警察でブルーシートで周囲を覆い始め、外から見えなくさせた。それでも大量の血が道路に流れ出ているところまでは隠せない。
「これが『無かった事』にできるのかねぇ…」
バトウが言う。
「マスコミも今回の一件は報道してるだろうけど…またテロリストの誰かの犯行だということになるのかな」
誰が殺されたのかすら分からない、結局は収穫なしだった。後で血液鑑定などの結果で殺されたのが羽柴という男になるのだろう。しかし鑑定結果に出るのは巻き込まれた他の住民も一緒だ。
「もう少し早く見とけば…」
トズサが悔しそうに言う。
アクセスログのタイミングは絶妙だった。時刻を見る限り、俺達が廃屋を襲撃した時にアクセスしていたと思われるからな。
あのノートパソコンがなくなった今はもう警視庁のサーバに侵入することもできないだろうから犠牲者はこれで…ん?
あのパソコンからだけなのか?
ログインIDはメールでファイルとして送られてきたし、もし他の人間も同じログインIDでアクセスしてたら?
「あ、あのさ、さっきのノートパソコンでもう一回警視庁のデータベース見たら、閲覧履歴が更新されてたりしないかな?」
俺は今の疑問をぶつけてみる。
「どういうこと?私達があのノートパソコンを押収したからそれはないんじゃないの?」
「いや、あのノートパソコンってさ、ログインIDがメールで送られてきたからね、もしかしたら他の人間にも同じように送ってて、その人がまた警視庁のデータベースを見てたら…次に犯罪が行われる場所に先に行けるんじゃないのかな」
「お前頭いいな?」
バトウが俺を久しぶりに褒める。
「でしょ?」
そう俺はドヤ顔で言う。
ミサカさんは、
「閲覧履歴なら私も見れるわ。管理者権限があるからね。ちょっと待ってね、今見てみるから。っていうか、急いで来ちゃったからアカウント凍結しとくの忘れてたわね」
そうか。
アカウント凍結させときゃもし他の端末から同じログインIDで情報を見ようとしてもログインでき無くなるはずだったね。
電脳通信をしているミサカさん。
突然顔が険しくなる。
「どう?わかった?」
トズサがミサカさんに聞いてくる。
はっとしたミサカさんは既に顔面蒼白となっているのだ。普段から鬱病が激しいので時折そんな顔をするのだが、今回のは格別に変色が激しかった。
ミサカさんはトズサの顔を見てから、
「お、落ち着いて聞いてね」
と言うのだ。トズサに。
「ど、どういうことだ?俺?俺が関係してるの?」
「えっと、もうアカウントは凍結させたわ。その、なんていうか、最後の閲覧履歴に、トズサさんの個人情報が…」
みるみるトズサも顔面蒼白になっている。
さすがにバトウはこの状況では冗談を言えないようだ。
「俺の車に乗れ。そのほうが早い」
俺達3人に向かってそう言うバトウ。
「トズサは家に電話を掛けろ!奥さんは家にいるんだよな?」
「あ、あぁ…」
「ぼさっとしてないで早くしろ!」
車に乗るやいなや、バトウはアクセル全開で出発した。トズサの自宅がどこにあるのかは知っているのだろう。
トズサはトズサで電話を掛けている。
「出てくれ…出てくれ…!!」
念仏のようにそう唱えながら電話を待つトズサ。
「あぁ!よかった…神様ッ!」
電話の声が漏れる。どうやら奥さんはまだ無事でどうしたの?的なことを電話越しにトズサに言っている。
「俺だ、俺。いいか、誰が来ても絶対にドアを開けるな!俺が今からそっちに行くからな!俺が電話で開けてもいいと言ったら、そしたらドアを開けてもいいから!絶対に開けるなよ!」
それから電話を切るトズサ。
バトウは運転しながらも、
「今、警察官を向かわせた」
そう言った。
「あぁッ!クソッ!なんで俺なんだ?!クソッ!」
慌てているのが伝わってくる。
車の中はいつになく緊張していた。