121 愛は盲目 9

「警視庁のOBが狙われてるってさ、どうなんだろう?最初の世田谷のと共通点があるのかな?」
俺はラブホテルの惨劇があった部屋をバトウと共に出て、廊下を歩きながら話し掛ける。
「テロリストが警察に恨みがあるっていうのはあながち間違ってはないからOBが狙われたことについて違和感はないな。最初の世田谷の一件だって、調べたら警察関係者なのかもしれないな」
「でもさ、今、警視庁で働いてる人じゃなくてOBなんだよね」
「あぁ。そこは気になってる。だが調べる時間がないんだよ。次に誰が狙われるのか…調べるのは警察のほうの仕事だしな」
「その警察が調べた事だって、政府の命令で『無し』になっちゃうんでしょ?っていうか、まともに調べることの許可が降りるのかどうかも怪しいよね。可哀想に。仕事が無駄になる」
「可哀想なのは俺達のほうだよ、ま、それは後の話だが…っと…トズサから電脳通信だ」
しばらくバトウが無言で歩く。
俺はその横を、彼の顔の変化が無いか見ながら歩く。
険しい顔になった。
こりゃまた殺人現場が見れるのかァ?
「岸田が連れ去られたらしい」
「え?テロリストに?」
「おそらくそうだ。ワゴンの中に引き摺り込まれた。いまトズサとミサカのねぇちゃんが車で追跡して、廃屋まで追い詰めたらしい」
「突入しちゃうの?」
「そりゃ俺達の仕事だろう」
そうきたか。
やっぱりそういう展開のほうがすっきりするね!どこで誰が死ぬかわからないのを追い掛け回すより、悪の根本を立つほうがいい。
バトウの車に乗り込んで手荒過ぎる運転で助手席で身体を揺さぶりまくられながら、140㌔は超えるであろうスピードでトズサとミサカさんが見つけたという廃屋まで到着した。
都内にある汚らしい下町の一画に使われていない工場と事務所があるのだが、その周囲には既に他の警察車両が(お手伝いとして)勢ぞろい。ドロイドも勢ぞろいしていた。
しかし皆の顔は全然不審に満ちた表情をしている。
何のための突入準備なのか、誰を追っているのか、何も伝えられてないのにとにかく現地に集まらなければならない、ってなると不審な顔でその命令を下したでろう公安の連中を見るのは仕方がない。
「いよぅ!」
バトウが元気よく、突入部隊のリーダーっぽいゴツイプロテクターを装備した警察官の背中を叩いた。
「なんだ、アンタか」
どうやら知り合いらしい。
「犯人が中にいるんだな?何人だ?」
そういうと訝しげな顔をして、
「まず犯人の定義を教えてくれないか。俺達はどんな犯罪を犯した『犯人』を追い詰めてるんだ?』
「とりあえず人さらいだな」
「誘拐犯か」
「まぁ、あんたらは奴等がこの廃屋から逃げ出そうとしたら捕まえるか出来ないのなら殺すかしてくれりゃぁいい」
「随分と大雑把なことをいう。あんた、法律っていうのを知ってるのか?あんたの言葉を射殺命令ととっていいんだな?」
「あぁ!いいとも。俺が『法律』だ」
そんな話の後、バトウはハンドガンを装備して、俺はブレードをいつでも引き抜けるように構えて、建物の中へと侵入する。
薄暗くてそこらじゅうから炭?のような臭いが漂う廃屋。どうやらここが廃屋になった理由は火事になったかららしい…っていうのがなんでわかるのか、そこら中に燃えカスが広がっているからだ。そんな中でも壊れた屋根から雨水が落ちて、雑草が根を張っている。
「よく気をつけて進めよ?あいつらはパイプ爆弾を使うからな」
「よく知ってるんだね」
「あぁ。前に殺られたからな。ま、戦時中の、しかも俺のおじいちゃんの話だがな…」
「それで、そのパイプ爆弾って何なの?」
「爆弾の中に金属片が詰まってて、それが爆破時に不規則に吹き飛ぶんだ。お前のブレードで弾丸を弾くのは数に限りがあるんだろう?もし近くで爆発させられたら…」
「ん〜…あたしはバリアがあるから、とりあえず大丈夫だけど、他の人はアレかなぁ…」
「おいおいおい、他の人って俺の事か。俺はアレなのか」
「そうそう、アレになる。スーパーで売ってる奴に」
「ホルモンミックスか?」
「いや、焼肉ファミリーセット」
「どっちも同じじゃぁねぇか」
そんな話をしながら廊下を進んでいくと、中国語っぽい言葉が聞こえる部屋の近くにきた。どうやらテロリストがその部屋の中にいるらしい…激しい口調で話している。女の声は…岸田のような気がするな。なんて言ってるのかわからないけども、なんか今にも泣きそうな声で中国語で話してる。
バトウが無言で、
(俺が蹴破って扉を開けるから、お前は俺の前に出て攻撃の第一波を防いでくれ)というジェスチャーをする。ごめん、本当にそういう意味で合ってるのか知らないけどなんとなくそんな感じ。
バトウが足を構える。
3、2、1…
(ドンッ)
扉は蹴破られた。