121 愛は盲目 6

岸田をしょっぴいた(連行した)という話をハラマキさんから聞いた俺達は岸田の家から一番近い世田谷の警察署に足を運んでいた。
おそらくはトズサが言うとおり、本来の目的とは別の理由で警察署まで足を運んでもらったわけであって、事情を知らされていない警察官達は「たかが◯◯をしただけなのに、公安の連中が来てる」という驚きの目でジロジロと俺達を見ていた。
取調室に入ると、ふてくされた顔をした俺の年齢から見ればオバサンに見える女が椅子に腰を下ろしていた。
事前に決めてはいたが、取り調べをするのはトズサだ。
一応補佐はミサカさん。
俺とバトウはコミュ障なので話が続かなかったり、相手に丸め込まれる可能性があるからだとか…って余計なお世話じゃん!
まず最初にトズサが聞いたのは本筋とは異なることだ。
「家にも事務所にも行ったんだけど居ませんでしたよね?どこにいらしたんですか?」
ふてぶてしい態度で岸田は答える。
「それは私を『逮捕』した警察官に聞けばいいんじゃないの?」
「あなたが逮捕された場所じゃぁなくて、あなたがどこで何をしていたかを聞いているんですよ」
「それをいちいち言わなきゃいけないんですか?」
「場合によってはね。まぁそれはいいでしょう、とりあえずは。あなたはこの男を知っていますか?」
トズサは写真を取り出して(残念なことにこの警察署の取り調べ室にはホログラム表示装置は無いらしい)取り調べ机の上に置いた。その時、トズサは写真ではなく、ずっとふてぶてしい態度をした岸田を見ていた。おそらく、岸田の表情の変化を見ているのだと思う。
岸田は汚いものでも見るような目でその写真を見ると、
「誰ですかこれ?」
と回答した。
これにはミサカさんが途中で口を出した。
「恋人か何かじゃないんですか?」
「…」
無言で俯く。
ミサカさんは自らの予想が的中した事で「やっぱりね」とでも言いたそうなドヤ顔的な表情をしている。
でも俺がトズサと一緒にじぃーっと岸田の表情を観察したけども、写真を見た時に全然表情が変わらなかったけどな〜…。
「私とこの人の関係がどうだっていうんですか?私は海外の様々な戦闘地域で活動しているジャーナリストですよ?あなた方が想像している以上の出会いがあって、一つ一つ覚えてはいられません」
「この男と出会った場所は覚えていますか?」
「いえ」
「この写真の背景にある建物は?」
「中国の重慶ですね。おそらくはそこで出会った一人じゃないかしら?沢山の人と出会ったから覚えてませんけど」
そこはすんなりと答えるんだ。
「この男は台湾で犯罪を犯して、今日本に逃亡していると我々は聞いています。で、その手引きをしたのはあなたではないかと疑っています。知っていることを話してください。今こうしている間にもこの男は日本で殺人を犯しているんです」
トズサも本題をすんなりと答える。
岸田は「はぁ?何いってんのこの人?」とでも言いたそうな顔をしてから、
「私が手引きを?どうして?」
「彼にとっての日本人の知り合いがあなただからですよ」
「全然、身に覚えがありません」
すかさずミサカさんが話に割り込んで、
「この男に脅されたとかじゃないんですか?」
しかしその一言の後も岸田の表情は変わらず、
「いえ、この男とは会っていませんから、脅されるもなにも…」
トズサとミサカさんは顔を見合わせる。
それから岸田を取調室へ残してから俺達4人は外へとでた。
これからどうするのかを検討するために。
「知らないって素振りだな。顔の表情も殆ど変わらないし、嘘をついているようには見えないなぁ…」
とバトウ。
「あれは絶対に恋人同士よ」
というのはミサカさん。
トズサは、
「とりあえず泳がしてみるか。警察や公安が調べてるって話を岸田がどこかでリウ・イエに言うかもしれない」
「それってもしも恋人同士だったら、って話でしょ?」
俺がトズサに質問する。
「そりゃ恋人が誰かに追われてると不安になるからな」
「でも恋人同士じゃないのなら、今はとりあえず動かないんじゃないかな。こうしてる間にもまたリウが殺人を犯すかも知れないのに、泳がせ何もなかったら…」
「はかせようにも本人がだんまりなんだから、結局同じことさ」
「いや、そこは秘密警察みたいに髪の毛切ったり腹パンしたり鞭でしばいたり爪剥いだりして吐かせたらいいんじゃないの」
「「「…」」」
「とりあえず、泳がせてみるか」
え、ちょっ、今の俺の意見はスルー?!
「なに?なんなの?あたし何か変なことを言った?」
まるで3人は俺が存在しないかのように完全に俺の話をスルーしてスタスタと警察署から出ていった。