121 愛は盲目 5

俺達が殺人現場である一軒家から出てくると、待っていたかのように捜査官達が次から次へと家に雪崩れ込んでくる。
その中の一人、さっき俺達と入れ違いに現場から『追い出された』刑事たちの一人「おい、現場を荒らすなよ?」って言ってた年配の刑事がバトウに向かって、
「公安絡みの事件なのか?」
と溜息混じりに言う。
どうやらバトウとは知り合いらしい。
「あぁ、口外禁止だ」
バトウは人差し指を口に押し当ててからそう言った。まるで小学生どうしの「誰にも言うなよ?」という口約束で広がっていく噂のように、バトウは躊躇なくバラしやがったな。
「世田谷でもこの家は周囲から離れててある意味陸の孤島だ。犯人は土地勘のある奴のように思えるんだが…」
その年配の刑事はそう言って持っていたタバコに火をつける。
「犯人は土地勘のある日本人とタッグを組んで殺人を犯してるのかもなァ…」
それとなく回答っぽいことを言うバトウ。台湾人が云々って言うなって言われてるのに…。
「その日本人は自分じゃ手を下さないのか?」
「手を下すにもキモっ玉も小さくて力も弱いと俺達は踏んでいる。で、あんた、タバコ辞めたんじゃなかったのか?」
「胸糞悪い事件が起きててタバコ吸わずに居られないってのが人間ってもんだよ。誰だって同じだろうがよ、あの子も可哀想に、現場見ないで外で真っ青な顔して座ってたよ」
あの子?
あぁ、ミサカさんのことか。
年配の刑事はそのまま(タバコを咥えたまま)家に入ろうとするのでバトウがそれを止めた。
「もし『岸田富子』って名前が捜査線上に浮かんできたら…」
それだけ言ってバトウは後の言葉を言わなかった。これは協力してるって周囲に思われるのが厄介な事になるからだろう。
年配の刑事は手をフラフラと降ってから現場へと入っていく。
俺はバトウに一言モノ申す。
「言っちゃいけないんじゃなかったの?ハラマキのオジサンに怒られるよ?」
「関係者以外には言っちゃダメなんだろう?」
「関係者じゃないじゃん、さっきの刑事さん」
「ばーか。これから関係者に格上げになるんだよ」
「…」
そう言いながらもバトウはさっそく俺達が今しがた乗ってきた車のほうへと歩いて行く。途中で座り込んでいるミサカさんの頭をポンと叩いて「ほら、いくぞ」と言って。
「行くって、行く宛があるの?」
俺がその後をついて言う。
「オヤジから連絡があった。どうやら岸田をしょっぴけたらしい」
これにはトズサが驚いた顔で返す。
「連行出来たのか?どうやって?」
「どうもこうも、いつもの『手』だよ」
いつもの手?
「あいかわらず乱暴だなぁ…」
「いつもの手って何なの?」
俺がトズサに聞くと、
「そりゃアレだよ、とりあえず逮捕してから『おたくは家でテレビの録画や違法にアップロードされたネット上の著作権データを不正にダウンロードしてるだろう!』って捕まえるのさ」
「ええええええ!!!」
「大抵のやつはネット端末の中に断片化された著作権保護データが入っているもんなのさ、本人の意識してないところでね。で、それを利用して別件逮捕してから本筋について問いただす」
不当逮捕じゃん!!!」
俺が不当逮捕不当逮捕と大騒ぎしている時にバトウは、
「お前も気をつけとけよ?あんまり騒いでるとトズサにロリコン容疑で逮捕されるぞ?」
と俺をからかうのだ。
ヤバい。俺が捕まると不当逮捕にならない…!!
ケイスケに貰ってる違法で発売禁止になったロリコンアニメとかのデータがごっそりMapProのデータサーバ内に入ってる!!!
別件逮捕で云々しようと思ったら本格的に犯罪に絡んでいやがったって警察がドン引きするゥゥゥ!!
「どした?お前も顔が真っ青になってるぞ?」
バトウがニヤけて言う。
車の後部座席では血を見てから顔を真っ青にしたミサカさんと、家に違法なデータを格納しているという事実が警察にバレやしないかとビクビクして真っ青になっている俺の2名が震えていた。