121 愛は盲目 3

「それで犯人の目星は決まってるの?」
俺が聞くと、ハラマキはホログラムに画像を表示する。
「これはあくまで犯人の顔のうちの一つということを知っておいてもらいたい。リウは全身をサイボーグ化していて顔はいくつも持っている。その中の一つはこのように台湾当局によって確認されたが、日本に来た時にはおそらくは変わっているだろう」
「じゃあどうやって見つけだすの?」
「奴を手引きした人間が日本にいると先ほど話したが、それが戦場カメラマン・ジャーナリストの『岸田富子』だ。岸田はアジア圏での内戦を中心に写真や記事を雑誌へ提供している。中国での内戦についての取材をしているおり、一度、シェンロンについての記事を書いて雑誌へ載せていた。今のところ日本人とシェンロンの間での接点は彼女しかないのだ」
戦争の悲惨さを伝えるはずのジャーナリストがなんでテロリストを日本へ手引きしてんだ?これだから女は…周囲の迷惑省みずだな。
「日本に手引きして独占取材でもしようってのか?」
バトウがハラマキへ質問する。
「あくまで今までの話は推測だ。岸田が手引きしたことも調べてみないとわからない。そしてこれからわしが話すことも推測の域はでんが、岸田とリウは恋仲ではないかと思われる」
「ほほぅ、根拠は?」
「戦争の悲惨さを伝えるはずのジャーナリストが対極にあるテロリストと行動を共にするのに、それ以外の理由が考えられない」
ミサカさんはこの考えには同意しているようで、ウンウンと頷いている。一方でトズサは、
「人質か何かをとられて脅されてるって可能性もあるんじゃないですか?」と言う。まぁ、それは一番無難なところだな。
が、一方でバトウは、
「雑誌に載せる記事や写真だけでは読者に戦争の悲惨さが伝わらないからって、日本国内でテロを起こそうとしたって可能性は否定できないんじゃないのか?ジャーナリストが記事を書くのは伝えたいことがあるからだからなぁ、その伝え方の一つとして…」
ふむ…。
その線はあるかも。
しかし俺はその一歩上を行く。
「きっと戦争の暴力的なシーンを沢山ナマで見てきたから毒されてきて、自分でも人を殺しまくってみたくなったんじゃないのかな、で、殺しのプロを日本に呼んで今度は自分がテロを起こそうと思っ、」
「いやいやいや、それはないって」
バトウがまっさきに否定する。
「可能性としてはゼロではないが、飛躍しすぎではないか」
ハラマキも俺の意見に否定的だ。
「ん〜…それはキミカちゃんが、自分ならそうするだろう、って思ってるって事なのかな」
ってトズサが…っておいおいおい!俺がそんな猟奇的なことをするタイプの人間だと思ってるのかよォォォ!クソがァ!
極めつけにミサカさんが、
「もう、キミカちゃんと一緒にしないでよね」
「なんでやねん!あたしはそんな酷い人じゃないよォ!!」
俺は顔を真っ赤にしてそれを否定。
「どうだろうなぁ?お前って意外と簡単に人とか殺すらしいからな」
「え…?」
「自分に銃を向けてきたなら殺してOKとか、人を殺した人には人権が無いから殺してOKとか思ってそうだしな」
「あれ?そうじゃないの?」
「「「…」」」
おいおいおいおいおい!
なんだよそのゴミ虫でも見るような目は!
「とにかく、まずはジャーナリスト『岸田富子』の事務所へ向かう。岸田から情報を聞き出すのだ」
…。
で、空港を経由してから小一時間ほどでジャーナリスト岸田富子の事務所(東京都内)へ辿りついた。
「あ」
入り口に貼られた紙。
「『…月…日から…月…日にかけてお休みを頂きます』か…」
トズサが読み上げる。
「この時期にお休みって計画的だね!やっぱりあたしの感が当たってたか!」
「考えすぎよ、偶然だってば」
と、ミサカさんが言うが、随分と岸田の肩を持つじゃないか。
「このまま帰るの?」と俺がバトウに聞くと、
「帰るわけねぇじゃねーか、せっかく来たんだしな」
「でも勝手に家に入るわけには」と、トズサが言っている間に、
(バスン)
俺はブーレッドでドアロックを斬って解除。
「おいおいおい…」
トズサが何か言ってるな。しかし俺もバトウもそれは無視。堂々たるドヤ顔で岸田の事務所の部屋へと入り込む。
「まだ岸田ってジャーナリストが犯人と関わっているって確証はないのに」まだなんかトズサが言ってる。
事務所の中はジャーナリスト的にも資料や写真で溢れかえっていた。そこらかしこに散らばっているものはおそらくは現地に行った時に迷わないように目的地に辿り着くためのものらしい。そう言う視点で見ればバックパッカー的な旅行者の前仕度のようにも見える。
「ん…?」
俺はふとデスクの上に置いてある写真に視線が繋がった。
戦地の写真などが並んでいるなかで、それだけは明るい表情で笑っている男女だが、ミッションコントロールルームで見せてもらった岸田というジャーナリストの写真とそっくりなのだ。
「ねぇ、これって」
俺がその写真を手に持ってみんなに見せる。
「ふむ…」
バトウが腕を組んで写真を睨む。
「中国のどこかの街での写真ね」
ミサカさんがそう言う。
「恋人…中国で?ん〜…やっぱり恋仲じゃないのかな。シェンロンのリウと。いくらジャーナリストだからって内戦がまだ激しい地域に恋人と旅行に行くのは考えられないし」
つまり、この写真に映っている男がミッションコントロールルームで見せてもらったリウ・イエの別の顔ということになるのか。