121 愛は盲目 2

ハラマキは淡々と説明する。
「画像にある女性…の遺体は『メイ・リュウ』。と、言っても日本ではそれほど有名ではないだろうが台湾では知らぬ人は居ないほどの有名人だ。女優としてもシンガーとしても。そして、彼女のもう一つの特徴としてあげられるのは『親日』ということだ」
グロテスクでオグリッシュ的な画像を前にしてよくまぁ淡々と説明できるな、ハラマキさんは…ミサカさんなんかまたうつ病が再発しそうな程に顔真っ青状態じゃないか。
「これから話すことが重要なところだから、よく聞いておくんだぞ?」とバトウが俺に向かってチャチャを入れる。
そもそも俺は最初っからマジメに聞いているっていうの!!
ハラマキは話を続ける。
「台湾は親日の国家だが、中国の同化政策のターゲットとしてとても近い位置にある。同化政策については知っているな?」
「へ?」
何、何なのよ…歴史の勉強しなきゃいけないのォ?いつから俺は頭脳系扱いされるようになったんだよ!面倒くさいから考えるのはハラマキのオジサンとかがやってくださいよ!
「…まずそこから説明しなければならないようだな…」
「はい、お願いします…」
…。
「大戦前、中国では『同化政策』が行われていた。目的は中国の領土を広げるためにある。攻め入る相手の国に多くの中国人がいるのであれば、政治的にも軍事的にも有利に立てるからだ。例えば話として、日本のとある県に外国人である中国人が流入し、県民の大半を占めていたとする。それは通常はあり得ないことだが、この際はあり得るあり得ないは無視するとして…、その県は日本の国でありながらも大半が外国人によって占拠されていると言っても過言ではない。もし、そこへ中国の軍隊が雪崩込めば…多少は占領しやすいだろう。実際にはこれほど単純な話ではないが、同化政策とはそういう背景がある」
「ふむふむ」
そういえばその話なら聞いたことがある。
中国の近辺にある国は「◯◯自治区」という呼び方で呼ばれていたりする。世界の地図は何度か塗り替えられた事はあるが、中国の周囲の国々は名前が自治区がついたり外れたりを繰り返したらしい。資源が目当てで戦争を幾度となく仕掛けた中国は占領をしては、ロシアや日本、アメリカなどが介入して、占領地を解放したりを繰り返したのだ。地図によって呼び方が違うというのも中々凄いものだね。
ただ、台湾は昔から『台湾』だと聞いてるけど。
「台湾でも同様に中国の同化政策の影響があった。同じ中国語圏ということもあり、多くの中国人が台湾へと流入、そして台湾の政治や世論を左右するようになっていた。台湾人にしてもそれは喜ばしい話ではないのは言うまでもない。そして台湾と日本は古くから政治的にも軍事的にも結束が強い歴史がある。流入した中国人達が同化政策を行う上で『親日派』の台湾人をどれほど目の上のたんこぶとして扱っているか、言うまでもないことだろう」
「それでメイ・リュウさんは親日だから殺されたの?」
「そうだ。しかし、今回は事情が少し違う」
「それが…あたしがここにいる理由…なんだね」
台湾当局はメイ・リュウ殺害の容疑で『リウ・イエ』という男を追っていたが取り逃がした。おそらく、リウは日本に潜伏していると思われる。手引きした人間が日本人にいるとの情報があるからな。台湾当局の要求は簡素かつ明瞭だ。リウ・イエを逮捕して身柄を引き渡すか、無理なら『死体』として引き渡して欲しいとのことだ」
なるほど。
しかし、自分等が取り逃がしたならこっちまで来て探して最後の最後まで自分達のケツは自分達で拭けよっていう…。
補足としてミサカさんが間に口を入れる。
「リウは中国系テロリスト『シェンロン』に所属しているとの情報も入っているわ。こんな風に見せしめとして人を殺すような人間よ。日本人なんて彼にとっては親日派以上の親日派なんだから、そこら中にターゲットがいるのと同じなのよ。一刻も早くこの男を捕まえるか殺害しなければ第二、第三の被害者が現れるわ」
「加えて、政府からの要求もある」
「政府からァ?」
「台湾と日本政府は密接な繋がりがある。国民同士にしてもそうだ。だが、今のキミカ君のように中国人による『同化政策』に理解の薄い人間が大半を占めることも事実、こんな状況で表向きには『台湾人』のリウが日本で殺人を犯せばどうなるか?日本人と台湾人の間に亀裂が生まれる可能性も否定出来ないのだ」
「つまり…」
「当案件は非公式で調査を行う事になっている」
なるほどォ…。
それで台湾当局が日本で捜査するのが難しいってことに繋がるわけだな。本来なら自分のケツは自分で…まぁ、それは置いといて。
「ミサカさんとトズサさんは?」
「ミサカ君は警視庁テロ対策課の代表、トズサは警視庁代表、そしてバトウは公安8課代表となっている。各自自分の職場に戻っても今回の事は…(そう言ってハラマキは人差し指を立てて口に押し当てて『黙れ』のジェスチャー)」
「あたしは…女子高生代表?」
「キミカ君は…そうだな、軍代表とでも言うべきか」
そこでまたあのウザいオッサン…バトウがチャチャを入れてくる。
「お前は『萌えキャラ』代表じゃねぇのか?」
「ほほぅ…この殺伐とした雰囲気の中で萌えキャラは確かに必要ですねぇ…ま、強さのランクでは言えば場外はあたしですけどね」
「歌って踊って殺してみせれる萌えキャラ代表か!羨ましいぜ」
と、いうわけで、早速捜査が始まった。