121 愛は盲目 1

学校にいる時にケイスケから呼び出しがあって、職員室で話を聞いてみると、どうやら公安8課の原牧(ハラマキ)からの呼び出しだそうだ。そして急ぐらしい。
これもヒーローたる者の努めか…。
俺は学校を早退し「学校の隣にある公園へ来てくれ」とのことだったので待ち合わせ場所の公園でぼーっと立っていた。
急ぐというのにこんな公園までわざわざ足を運んでくるのだろうか…なんか俺は騙されてるような気がしてきたぞ。これでキミカの誕生日パーティだったとかいうオチなら俺はそういうのは寒いって思うほうだから早々に帰らせてもらうよ。公安8課のムサい男達が祝ってくれるとなると余計に。
と、その時、空の彼方から反重力コイル的な音が聞こえてきた。
何度かアサルトシップに乗ったことがあるから判る。軍用のものを公安8課も持ってることになるのか、それはそれで凄いな。
山の木々隙間から反重力コイルの照らす青い光が輝き、そしてアサルトシップが真っ黒い船体を俺の前に現れた。
見れば公園にたまたま犬と共に散歩に着ていたおじいさんが口をあんぐりと開けてその様子を見ている。
俺は、
「自家用のアサルトシップですのよ」
とお嬢様のように振舞った。そして
「あ、執事のセバスチャンですわね」
と、続ける。
「ゴツい執事じゃのぅ…」
犬を連れたおじいさんはそう言った。
俺がセバスチャンと勝手に呼んだのは公安8課の『馬頭(バトウ)』。あのただでさえムサ苦しい公安8課の中で、全身サイボーグ化していながらも趣味が『体力トレーニング』という、いったいこれ以上どこを鍛えるのか理解に苦しむ…とにかくムサ苦しい男だ。
「いよう。お久しぶりだな」
そう手を振りながら言うバトウ。
「ほほほ、ではごきげんよう
おじいさんと別れを告げて俺はアサルトシップに乗った。
バトウの顔はまったくもってごきげんだったがアサルトシップに乗ってからは周囲の空気がピリピリとした緊張に包まれていることに気がつく。どうやらそうとうな事件的なものが起きているらしい。
見れば公安8課のボスの原牧(ハラマキ)、警視庁テロ対策課のミサカさん、それから俺の知らない男が一人いる。その3名が俺がせっかく忙しいなかお越してやったのに無反応で気難しい顔してミッションコントロールのホログラムを見ているのだ。
「えぇっと…あたしを呼んだのはどういう用事で…」
「ん?おお、来たか」
気づいてなかったのかよ。
ハラマキは気難しい顔をして考え込むあまり、アサルトシップが降下して俺を収容して離陸するまでの一部始終は全く持って気づいてないらしい。それ以外の人間についても同様である。こりゃ震度10ぐらいの地震が起きてもあの世で初めて気づく鈍感さだ。それじゃぁ生きてはいけないよ?
「あぁ、キミカちゃんか」
と言ったのはミサカさんだ。
なんだよそのキミカちゃんか、って!もう少しいい反応してくれよ!久しぶりに会うんだからさ!
「へぇ、この子が噂の…」
そう言ったのはボサボサの髪をしてバトウさんよりも少し背の低いガタイのいい男だ。顔つきはとても公安8課の人間とは思えないぐらいに普通な感じだ。ハンサムの部類には入るかな。
「戸總(トズサ)は初めて会う事になるか。この子が例の『ドロイドバスター』のキミカだ」
ハラマキがそう紹介する。
「初めましてェ…」
「あぁ、どうも、初めまして、こちらこそ。意外と普通の女の子でびっくりしたよ。なんか公安8課との関わりがあるって言われるともっとゴツイイメージを想像しちゃったよ」
などと言う。
「身体は華奢だがナメていると痛い目に会うぞ?」
バトウがそうおちょくる。
「別にナメちゃいないさ。戦車を相手に互角に戦える…ぐらいの強さなんだろう?話には聞いているさ」
「戦車を相手になら互角どころか10角ぐらいでも大丈夫だよ」
そう俺がドヤ顔で言ってみせると、
「そろそろ作戦の話をしたほうがいいな」
ハラマキが俺をスルー。
「え、っちょ、今のスルー?!互角の『互』は五分五分の『五』とは違うんだよ、馬鹿かおめーは!とかそういうツッコミは無いの?!」
慌てる俺をミサカさんは、
「んもぅ、キミカちゃん、今回はいつもみたいにギャグな話じゃないんだから…」
「いやいやいや!いつだってあたしは真面目だよ!真面目に考えぬいたギャグをここぞという時に…」
「このメンツでキミカちゃんにツッコミ入れる人がいると思う?」
「それはバトウさんが」
「おい、俺はツッコミ役かよ」
と話していると、
「そろそろいいかな?」
ハラマキが場を制す。
はい、すいませんでした。
…。
ハラマキがパネルをぽちぽちと操作して俺達に見せてくれたのは、本当にとんでもないものだった。例えて言うのなら俺のように耐性がある人ならまだしも、こういうのに慣れてない人は食事が喉を通らなくなるだろう…。
そう、殺人現場を鑑識が撮ったものだ。
若い…20代かそこらの女の胴体がそこにあり、首や手足は並べて置いてある。そして気になっているのは、膣に異物が押し込められているという状況…レイプされた後なのだろうか、白濁した液体が膣から流れ出ているのだが異物により膣の内部に傷が多くあるのが想像できるほど、大量の血液が流れ出ている。
気になったのは、どうも周囲の看板などを見る限りそれは日本ではない。日本語の漢字に近い漢字的な文字が並んでいるところから察すると中国語か何かと思われる。
ミサカさんはなるべくそのホログラムは見ないようにして横を(わざとらしく)向いている。
俺は最初の感想を言ってみる。
「どしたのこれ…Ogrish.com(オグリッシュ)から拾ってきたの?」
「これは台湾当局から渡された鑑識の画像データだ」
「た、台湾か…」
なんだかんだ言って台湾も中国語圏だからなぁ…こういう凄惨な事件もよく起きてるって聞くし。マコトの済んでる国も日本とは違った意味で危険なところだなぁ…。