120 第1次マカー vs ドザ闘争 10

後日談。
男が警察で事情聴取をされたあの日から、例の2chのスレッドは突然書き込みが激減した。
まぁ勝手に人様の写真を撮ってネットにアップロードする、という行為を、俺が普段行っているスタバに来ていたドザ以外もやっていたわけであって、同じように警察にマークされるであろうことは言うまでもない、そんな中でまだドヤ顔を無断で写真に収めてネットにアップするなんて勇気のあることは誰もやろうとはしなかった。
それよりもマカーによって例のドザが日本のコンテンツの多くに同時に姿を表したという事が2chの話題としてフィーバーしていた。
街角の宣伝用ホログラムが突如として書き換えられてどっかのキモい男になってしまうという現象。初音ミンクのコンサートで主役である初音ミンクをさしおいてキモい男が現れて、それをお金を払って見ることになったファンの怒り。突如ネットに現れたどっかの誰かの顔がどんどん増殖して、いい加減もう笑えないしウザいだけという状況…。気がつけばドザ機はそのパソコンの中身にある画像が萌え画像だろうがエロ画像だろうが全部あの男で置き換わっているという絶望…。テレビ局はもうこの社会現象を無視できなくなっていた。
こうなってくると本人にインタビューなどがされるのは時間の問題だ。罰金を警察に払った後の『彼』を待ち構えていたのはマスコミのインタビューだった。
困惑しながらも、
「すいませんでした…反省しています」
とカメラの前で語る男。
「日本中の人があなたの事を知ったわけですが、そこのところについての感想等がありましたら」
「いえ、なんだか、恥ずかしいだけで…」
どういうわけか、そのインタビューだけでは終わらなかった。
どこかのテレビに出演した彼は「ほら、当時のあのモデル歩きとかやってくださいよー」などと芸人の司会者にお願いされていたりする。
「あれは僕がやったんじゃないです、誰かが僕の画像を勝手に使ってそれで…」と困惑しながら答える男。そりゃぁ全部マカーが作った3Dモデルだからなー。
「でも、企業広告ではあなたのおかげで売上が少し上がったということまで判明してるんですよー(会場笑い声)」
「え〜…それはなんか照れるなぁ…(会場笑い声)」
…。
テレビだけでは収まらず、『あのネットを賑わした一般人の男、ついにグラビアデビュー』というタイトルでコンビニに置いてある何かの雑誌の表紙に飾られてたりもした。
よくわからないけど、歌手デビューも決まっているらしい。
初音ミンクのコンサートをジャックしたと思われてるあの男(ドザ)は、もういっそのこと歌わせてやろうじゃないかと今まで初音ミンクの様々な楽曲を手がけてきた方々が彼のホログラムを使っていくつか曲を作って、なぜかそれが面白おかしく取り上げられたから…本人に歌ってもらおうという話になっているらしい。
しかも一部の話では鑑賞中のアダルトビデオの画像が突然あのドザに置き換えられて見ていた人は困惑しながらも興奮して自分でも何がなんだかわからなくなり、同性愛の道へと進んだ話すらある。
そんなのを朝のニュースで流している。
マコトはもぐもぐと朝食のハムエッグを食べながら、
「この人って、なんの人なの?芸人?」
と言った。
「ドザでしょ」
俺は答える。
「え?それだけなの?それだけで芸能人とかになれちゃうのかな」
「そりゃぁ…それだけじゃ芸能人にはなれないけど」
「なんでこんなに有名になったの?」
「う〜ん…それは、マカーが宣伝…したからかな?」
「へぇ〜…」
最初はみんな逆襲のつもりだった。
いつしかそれは度をこしてしまって、一つのコンテンツを成立させてしまった。どうしてこうなったのか…理由として一番妥当なのは、やっぱり、Mappleマシンがそこにあって、Mappleマシンが好きな人がそこにいたから…じゃないのかな。
俺はふと、あのドザが写真を勝手にネットに転載していたという、例のスレを見たくなった。あの時は興奮してイライラしてしまったのだが、こうやった改めて見てみると、スタバでMBAを使っている人達は目が輝いている。これをドヤ顔というのか…?本当に?
俺には、ただ人生を楽しんでいるごく普通の人に見える。
それからCoogleのキーワード検索で、ドヤ顔 スタバ MBAで検索してみる。すると、わりと先頭のほうに何故か俺がドヤ顔でMBAを使っている写真を見つけた。奴め、2chのスレッド以外にも画像をアップしてるのか。
どこにアップしてるんだ?
その画像をクリックするととあるサイトに飛ぶ。
MBAを使っている美少女の写真』
このサイトのタイトルどおり、俺以外にも美少女がMBAやMapple製品を使っているシーンの画像が並んでいた。
「へぇ〜…」
俺は関心してしまった。
おそらくは俺が普段から通っているスタバの画像なのだが、キサラや俺を含めて美少女達がMBAを使っているシーンを収めた写真が並んでいた。そして、そのどれもが『芸術的』なまでに美しかった。
「こういう写真も撮れるのか」
あのドザ、使っているパソコンはドザ機だが、ちゃんとした美的感覚を持ってるじゃん。