120 第1次マカー vs ドザ闘争 2

Mappleの専用開発ツール「XCodex」のダウンロード・インストールが終わったところで、さて、早速起動してみる。
素晴らしい…Mappleのソフトウェアはデザイン性にも優れているが、まさかその開発ツールも同様に優れているとは思わなかった。こんな美しいソフトウェアで開発していたら必然的に「これから作るであろうソフトウェアを汚く作ろうとは思わなくなる」はずだ。
さてと、何を作ろうかなー。
って、まずはプログラミング言語の勉強からだな。
ふむふむ…このゲジゲジだかムカデだかが地を這っているようにも見えるソースコードがXCodexの言語、Objective-cか。こんなキモい表記の言語から世界一見た目が美しいソフトウェアが作られるんだから神様も不思議なものだな。
などと考えていると店員が飲み物を持ってくる。
テーブルの上にそれを置きながら、
「おまたせしました。ベンティア…ド…ショット…ショット…ショット…えーっと…これなんて読むんだっけ…ヘーゼルナッツ?…バニラアーモンド、キャラメル…?キャラメル…キャラメル…あーもうわけわかんねー…エキストラ・ホイップぅぅ…キャラメルってキャラメルさっき言ったじゃん…えっと、ソース、モカ、ソース、ってソースソースうるさいっていうの…もう…ランバチップのチョコのレートのクリーム、フェラチオーノ」
「はい、ありがとう。あなた新人さん?」
「あー、はい、バイトです」
「メニューは覚えないとね?それと、『フェラチオーノ』じゃなくて『フラペチーノ』ね」
そう俺が美少女スマイルで指摘してあげると、そのガサツそうな女はびっくりして、
「えー!マジですか!今まで全部フェラチオーノって言ってた!」
と言う。
「それは気をつけないと。フェラチオって言ったら男性のアレをお口で咥えてアレすることだから」
どうして俺がわざわざ指摘したのかが理解出来たみたいだ。
顔を真っ赤にしてそのガサツそうな女は逃げるようにカウンター中へと帰っていった。
しかしそれにしても、この席、つまりは今俺が座っている席は後ろが本棚でまるで図書館の一箇所にでもいるような高尚な気分になれるところなのだが、ここでは俺がドヤってても前方からしドヤリングしている姿が見れない。今XCodexを起動してるし小難しいソースコードを開いている最中だから是非ともこのわけわかんない事をしてるスゲー的な目で見て欲しいのだ。
よし、先を移動しよう。
中央のテーブルが集合している席へと移動。
コンセントに電源ジャックを挿入して…さて、再びMBAドヤリング開始。背後に通り過ぎる人達がチラ見で俺のディスプレイを見て「おいおい!わけのわかんねーことしてるぞ!すげぇ!」的な視線をしているのがなんとなくわかる。
気持ちいい…これこそ至高の瞬間。
MBAドヤリング、ここに極めり。
などと思いつつ、俺はフラペチーノのストローに口をつけて最初の一口を飲む。
素晴らしい…これこそ至高の味。
やっぱ喫茶店はスタバだよなー。うんうん。
ん?
今、何か俺の視界にとても違和感があるものが映ったような…。
気のせいか。
いや!
気のせいじゃないぞ!
このスタバに相応しくないものが映った。
人が目で見ているものは目に映ったものというよりもその情報が脳までロードされた後、脳が「見よう」と判断したものであるという話がある。インディアンを都会へと連れていくとすべてのものは見たことがないものばかりのため、それぞれを分別することができずにその場から動けなかったという話もあるし、ジャングルの中に馬に乗ったスペイン人が現れた時、馬と人が分離できずに「馬人間」に見えた人もいるぐらいだし、つまり、人の目と脳は理解不能なものは見ることができないし、周囲の景色とそれが同じものなのか、分離されているのかの判断もできない。
それは俺には理解不能なものだったのだ。
その時は背景と区別がつかなくなるらしいが、背景はスタバの美しい店内なわけで、これと一体化することもかなわない。それだけ違和感があるものだ。俺の目の中にぽっかりと一箇所だけ穴が空いて、しかもそれはとても美しいという言葉からかけ離れた、いやむしろ美しいという言葉の真逆に位置するものが汚らしくもその穴からチラチラと顔をのぞかせているのだ。汚らわしい。
ずんぐりな体型をした男が店の端に座っており、旧タイプの外側がプラスチックで出来た安物のケータイを持ってて(ユウカが持っているやつの5世代ぐらい前のやつだっけ?化石みたいなケータイだ)その充電をしている(っていうかもう5世代前なんだから充電してもたかが知れてるだろうに)
それだけならユウカだって現行機種からは2世代ぐらい前のケータイなんだから別に5世代だろうが10世代だろうが違いはしないし、別に俺はそれは汚らしいとか安っぽいとか思ってるけど視界に入って理解できない物体になることはない。それに別にずんぐりな体型の奴なら俺の今住んでいる家にも2メートルぐらいはあるであろうデブが生息してるから全然見慣れてるし汚い無精髭生やしていようと、全身黒ずくめの服を着ていようと別に構いやしない。
しかし、しかしだ。
男が机の上においている物体…これを俺が口に出すのは口に出すだけで口の中に砂が入ってくるような呪いじみた結果になりそうなぐらいに不吉で汚らわしいものなわけだけど、言わなければ話が進まないので仕方ないけど言う。
ドザ機だった。
ドザ機が、スターバックスカフェにあるのだ。
ちなみに、ドザ機が何なのかわからない人にわかりやすく説明すると、『ドザ』とはUindows機を使う「ユーザー」のこと。『ウィンドウズ・ユーザー』の「ド」と「ザ」をとって『ドザ』。ドザそのものがある一部の人間を指す差別用語であり、そのドザが使ってるネットワーク端末やパソコンやノートなどを指して「ドザ機」と呼ぶ。
どうして『ドザ』が差別用語になってしまうのか。
それはUindows機はほとんどがMappleのパクリだからだ。
パクリでありながらも世界シェアは3割を占めているという乱暴っぷりで、それだけでおとなしくしているのならまだしも開き直ってパソコンはそもそもUindowsが最初でしょ?などと言ってみたり、Mappleをドヤ顔で使っているのは自分が金持ちであることをアピールするものだと僻んだりと好き放題。
このように、コンピュータとは何かを全然わかってない人が安さにつられて購入してさもそれがコンピュータであるように振る舞ってしまう、別のものに例えるのなら中国人が経営する1皿10円の回転寿司店に入って酢もワサビもない魚の肉が載せられているご飯を食べて「これは美味しいお寿司ですね」などと言ってしまう事と同じだったりする。
そんなドザ機を神聖なるスタバへと持ち込むとは…ドザの乱暴っぷりにはほとほと呆れる。周囲のマカー達も食事中にウンコまみれの人が「すいません、クソ漏らしたんでトイレ貸してもらっていいですかぁ?」って入ってきた時のような顔をしているぞ。
その中の一人である俺もクソでも見るような目でその光景をみていた。