119 遺作 4

ドロイドバスターになれば今すぐにでもグラビティコントロールでこのロープウェイごと持ち上げて助ける事ができる。しかし、ここで変身すれば正体がバレる。
正体がバレたら後々大変な事になる。
「人の命がかかってるんだぞ!!」と、熱血漢な奴には言われるであろうが、残念ながら冷血漢な俺は今、人の命とドロイドバスターの正体がバレることを天秤に掛けていたのだ。
もし仮にこのロープウェイが落下したとすると、最低でも俺は助かる。って考える事は「最低」だとはわかっている。もちろん、他にも助ける事はできるが、全員を助けるのは無理だ。
ユウカやナノカ、メイを助ける場合は変身前のグラビティコントロールでもギリギリ。それをどうやるかというと…落下するロープウェイの中で俺を含めた4人の身体「だけ」をグラビティコントロールでロープウェイの上部へと持って行き圧死を免れるという手段。
最悪、俺のグラビティコントロールが限界になったとしても、下の人間がクッションになる。
ん〜…どうするか…。
乗客の顔を見てみる。
若い人は4人ぐらい。後はお年寄りか。これから日本を支えるべきであろう若い人達は助けたいが、今まで日本を支えてきた人達に死ねと気軽に言えるほどに俺は人生に落胆してはいない…。
俺はロープウェイの自動ドアにグラビティコントロールを使い、カギを破壊し、こじ開けた。
「なにやってんのよ?!」
それを見ていたユウカが俺に言う。
「下に行って助けを呼んでくるよ」
やっぱり俺には人の命に優先度をつけるなんて事ができない。
相変わらず、小さな男だ。
アメコミの脳筋ヒーローみたいに正義を成す為にこの世に起きるであろう全ての厄災を何とかしたいだとか、それこそリアリティのカケラもない馬鹿みたいな偽善者論をぶっ放している。
「あんた、正気なの?!この高さから落ちたら死ぬわよ?!」
「木々があるからクッションになって助かると思うよ」
「だから、それだって運じゃない?!見たでしょ?向こうのロープウェイは一度木に引っかかったけど落ちたのよ?!」
「でも国が交渉に失敗したら、あたし達のロープウェイもああなるんだよ?あっさりと人が満載されてるロープウェイの爆弾を稼働させて中の人を圧死させるのを厭わない連中なんだよ?」
「…」
「ま、大丈夫だって」
俺はユウカの肩をペシッとひと叩きした後、空へとダイブした。
木々に突っ込む直前、グラビティコントロールを働かせてショックを和らげて…あれ?グラビティコントロールが発動しな…。
アレレレレ?!
おいおいおいおいおいおいおい!!!
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!
(ズシャッ)
気がついたら俺は見事に木々の中へ突っ込んでいた。木の枝がクッションとなって俺をキャッチしたらしい。周囲には鬱蒼と生えている杉の木の葉や枝がある。
どれぐらい気絶してたんだ?
でも、上からロープウェイが降ってきてないってことは、テロはまだ次の爆発を行ってないってことになるし、つまりそれは時間もそれほど経ってないのだろう。
…っていうかなんでグラビティコントロールが発動しないんだ?
「いててて…傷だらけだ」
身体を起こそうとする、と、目の前にうごめく何かがある。
夏の山は色々な生物がごっちゃになっててはっきり言って怖い。俺もそれを前提にして目の前のうごめく生物を見ていたから一瞬、得体のしれないものに見えた。しばらくしてそれらがカラスか何かのヒナである事がわかった。
「はーい、そのまま、そのまま」

誰だ?!
俺は声のした方向を見てみる。
すると、そこにはスケッチブックに鉛筆でカリカリと何かを書き込んでいる女がいたのだ。カラスの巣に女がおる…。
カラスのヒナをスケッチしてるのか?
でも視線はヒナと巣と俺をそれぞれ見ている。
「えっと、ちょっと、」
そう俺が言いかけると、
「動かないで!」
「え?!」
「そのまま、動かないで。いま一番いい所なんだから」
え〜…。
いま一番いい所って言われても、俺は今一番悪いところなんだけど。テロリストが今にも俺の友達が乗っているロープウェイの接合部分を爆発させようとしてるんだけど。
「あの、あたしちょっと用事が…」
「…(カリカリ)…」
「上に、友達が乗っているロープウェイがあるんだけど、それがテロリストに爆発されかかってて、え〜っと…聞いてる?」
「…(カリカリ)…」
「上だよ、上。ほら、(俺は上を指差しながら)」
「…(カリカリ)…」
「上の方にロープウェイが見えるでしょ?」
「…(カリカリ)…何?ロープウェイ?あなたは確かに上から降ってきたけど。ロープウェイって何の話?」
「いや、だから、うえだよ、う…え?えぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇええぇぇぇ?!」
ロープウェイが無いぞ?!
え?なに?どうなってんの?
ロープウェイどころかロープもどこにもないぞ?!
ユウカ達は?!あれ?あれれれれ?!
「もう!あなたが叫ぶから!親が来たじゃないの!」
「親…?」
「おりよっと」
その時、カァカァと凄まじい警告音的な鳴き声を鳴らしながらカラスがバサバサと巣までやってきたのだ。襲撃だ。カラス襲撃。巣の真横に陣取っている俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
「うわっ、ちょっ、なにこれ?!」
「(カァカァッ!)」
「てめッ、突っつくな!!」
「(カァカァッ!カァカァッ!)」
「殺すぞコラ!」
「(カァカァッ!カァカァッ!カァカァッ!)」
「ちょっと、目を狙うな!卑怯だぞ!」
「(カァカァッーー!カァーカァッー!)」
「人間様をナメるとどうなるか…」
(ベキベキ…)
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」
枝が折れた。
俺は自由落下した。
が、グラビティコントロールを働かせてゆっくりと着陸。
その時、既に地面へと降りていたさっきの画家っぽい女が俺のほうを見上げている。ヤバいな、能力を他人の前で使ってしまった。
その画家っぽい女は驚きで身体が硬直している。そりゃそうだ、女の子が地面へと着弾したかと思ったらゆっくりと青白い光の波動を発しながらゆっくりと降りてきたのだから。しかし、その画家っぽい女は俺を見ながら変わった表現で俺の事を言ったのだ。
「かみさま…」