119 遺作 2

翌日、朝8時前にメイの家に到着する俺。
「おねぇぇぇぇさぁぁまぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うわっ、ちょっッ」
俺はてっきりメイは屋敷の玄関から走ってやってくるものだと思っていたらそれが油断そのものであったようだ。茂みに隠れていたメイが飛び出てきて草の葉を散らしながら俺に抱きついてきたのだ。
「わわわわわ!!」
「はぁはぁ!!おねぇさま!おねぇさま!お久しぶりです!!おねぇさまがいない夏休みの長い間はまるで時が止まってしまったかのように重苦しい空気に支配されていましたのよ?」
「お、お久しぶりです…」
さっきまで涼しいバスの車内に揺られていたとはいえ、メイが抱きつけてわずか15秒程度の間で汗がダラダラと出てきた。
「アッッッツィ!!」
グラビティコントロールでメイの身体を引き剥がす俺。
「まぁ!またおねぇさまの不思議な力ですわ!」
さっきも抱きつかれる衝撃を和らげるために使ったけどね…。
「他のみんなは?」
「もう揃っていますわよ?さささ!さっそく出発しましょう!」
と、いうわけで、今日はメイの執事さんの運転する車に揺られて広島県の恐羅漢(きょうらかん)へと出掛けることになっていた。
ネーミングはちょっとアレだけれども広島県及び山口県民にとっては冬のレジャースポットとしては代表的なスキー場が沢山ある場所。夏場でも涼しい高原地帯ではあるが、だからといって海や河などが夏場のレジャースポットとして人はそちらに行くため、夏場はあまり好んで来る人は少ない。よって、島根県との境目にある恐羅漢近辺の街では冬場だけはやたらと人が出入りするが夏場は閑散としていて「せっかくの夏休みなのになんだこの寂れ具合は」と言われることもあるほど。俺はそういう寂れ具合が凄いところは大好きなんだけどもね。
高速道路を2時間ほど車で走り、それから一般道を1時間、でようやく恐羅漢へと到着した。
車から降りる4人の女子。俺とユウカ、メイ、ナノカ。
相変わらずユウカは地味な目立たないオトナの女子が着ているような服を好んできている。高校生という若さでしかもおっぱいも大きいんだから俺みたいにワンピースでも着てればいいのに。
「キミカ、相変わらずハレンチな格好をしてるわね」
と俺をジト目で睨みながらユウカが言う、っておいおい、高校生がワンピースを着てて何がハレンチなんだよ、じゃあ一体どの年齢ならこれを着てもいいのかァァァーン?
「だいたいワンピなんて小学生でも恥ずかしくて着ないわよ、あんた、いつも私のことをビッチビッチ言ってるけど今のアンタの格好のほうがよっぽどビッ、」
と言いかけたところで、
「それ以上おねぇさまの悪口はこのメイが許しませんわ!例えユウカ先輩であろうとも!!!」
と口を突っ込んでくるメイ。
と、ここで俺は俺で報復攻撃をしておく。
「ま、ワンピが似合わなくなるのはオトナになってからだよね。成長の早い人は高校生になる前にさっさとオトナ(おばちゃん)になっちゃって、ワンピもおろか女性として着れるであろう服は何一つなくなってしまいにはOLみたいな格好でしか街を歩けなくなるわけだから、そういう人は本当に可哀想ですね、あたしはまだまだ若いから若さを満喫しているだけであって、やっぱりババアの自覚がある人はそういう若い人が無意識のうちに憎くなって攻撃をしt」
と俺が言ってる最中に既にユウカの攻撃が始まっていたので、俺は華麗にそれらを交わしながらも、
「ほらほら、自覚があるからそうやってムキになるんだよ、オバサン!あーあ、年増の女は恐ろしや恐ろしやァ!!」
と攻撃を全て見切って交わした。
「あ、あんた武道でもやってるの?!あたしのジャブを全部交わすとか普通あり得ないわよ!本気で殴ってるのに一発も当たらない!」
本気で殴ってるんかい!!
とんでもないクラスメートだなぉぃ。
さて。
俺達はロープウェイがある高原の公園へ車でやってきたわけだが、どうやら執事さんはこれから広島市街に用事があるらしく、俺達は夕方までここで過ごすことになるらしい。それでもあれだけ暑かった平地の気温に比べれば高原のそれはじつに過ごしやすい…のか?微妙に涼しいけどやっぱり夏は夏のような気がしなくもない。
思ったとおりにロープウェイ駅周辺には家族連れの子供などはあまりおらず、喧騒が苦手なカップルやご老人達など、お盆休みなど人が多くて出掛けることができなかった人達が集っている。
チケットを購入して列に並ぶ。
「今日はおねぇさまの為にお弁当を作って来ましたの!」
「ほほぅ〜楽しみだなー!」
本当に楽しみだよ。
「あ、あら、メイも作ってきたのね」
と慌てているユウカ。
「あら?ユウカ先輩も作っていらしたのね?」
「ま、まぁ、食べるの大変だったら残してもいいわよ」
「大丈夫ですわよ、4人で食べますもの」
そんな会話を聞きながらナノカは、
「あまるわけないよー!あたしが残ったら全部持って帰るから!」
それは余ってしまって後の処置ではないのか…?
それにしてもユウカが弁当をねぇ。
「な、何よ?」
「え、いやなんでも。ユウカのお弁当は食べたことないなー」
「べ、別にアンタの為に作ったわけじゃないんだからね!みんなよ!みんなで食べる為に作ってきたのよ!」
「はいはい、ツンデレさん」
ツンデレじゃないっつぅぅの!!」
ふとメイが俺の腕をぎゅっと掴んできた。そして、
「おねぇさまはレディの嗜みとしてお料理とかは作られる事はありますの?」と聞いてくるのだ。
「料理かぁ…学校でしか作ったことないかな?」
「キミカっちの料理は美味しいよォ!」
ナノカが言う。
「ほ、ほんとうですの!?メイも食べてみたいですわ!」
「そ、そうかな?あたしの料理食べた人は片っ端から気絶してるんだけど…」と俺は言う。そう、少なくともナノカ以外は全員、俺の料理(チョコレート)を食べた後に気絶した。っていうかにぃぁなんて今まで食べたチョコを全部ゲロにして吐き出したほどだしな。
「美味しかったよぉ?あのチョコレート。食べて気絶した人は外国人ばっぱりだから、きっと日本っぽいチョコレートだったんだよ」
どういうチョコなんだろうか、日本っぽいってのは…。
そんなこんなで、俺達はロープウェイへと乗った。