119 遺作 1

そろそろ夏休みが終わるかという時期だが、夏は相変わらず続いており、下手に暑さを知っているだけにこのまま学校に行く事になるという事実を受け止めて、いっそ夏休みが終わったと同時に秋になればいいのにと思う今日この頃いかがお過ごしでしょうか。
そんな事を考えているとカリカリと机にペンを叩きつけるような音が聞こえてくる。マコトが血眼になって机と向き合っているのは決して締め切り間際の漫画家でも小説家でもなく、そろそろ夏休みが終わるけど宿題が終わっていない学生でした。
「早く終わらせておけばいいのにー」
と俺。
「キミカちゃんが既に宿題終わってるなんて!!キミカちゃん、そういうキャラじゃないのに!!」
「え、ちょっ、なにそれ、主人公キャラは馬鹿で特技が何もなくて色々な道具を出してくれる耳のないネコ型ロボットに助けてもらう系って前提…あたしは優等生組なんですよ?おほほほ」
「ネタ的には夏休みが終わる頃にまだ宿題が終わってないで大慌てになってがほうが後で色々面白いじゃないかァァァ!!」
「…手伝わないよ?」
「えぇぇぇぇえぇ!!」
「あたしの宿題ならコピペしてもいいけど、全部同じ答えにしたらどっちが写したのかわからなくなるから適当にハズしてね」
「ぼ、ボク、夏休みの宿題を可愛い女の子に一つ一つ教えてもらうのが夢だったんだ…」
そう言いながら「にへぇ」という笑顔で俺のほうを見てくるショートカットの美少女…しかし、残念ながら俺には人に親切丁寧に色々教えてあげるような先生肌気質は持ち合わせていない。人にはそういう「誰かに教えたい派」と「教えるの面倒臭ぇ派」の二つが存在するが、俺はそもそもクールな性格をしているので自分のおかげで誰かが喜んでいるか感謝しているか、そういう反応をしているのを見てもなんとも思わない、つまり後者のほうである。結局時間を損したな、ぐらいにしか…。
「はぁッ!」
と、俺はドロイドバスターに変身、驚くマコトをよそに、そのまま透視能力を使って1階にある冷蔵庫からアイスキャンディーをグラビティーコントロールで取り出し、そのまま2階まで運んだ。
そして変身を解く。
「な、なんていう能力の無駄遣い…」
マコトが相変わらずのツッコミをしてくる。
「ドロイドバスターに変身するということイコール正義の行為を行わなきゃいけないという固定概念に支配されていては、これからの激動の時代を生きていくことは難しい…」
「な、なるほど…」
「っていうか、早く宿題終わらせないと!」
「うわぁぁぁあぁぁ!そうだったぁぁあぁあぁぁ!!!」
そんな会話をしながらも俺はぺろぺろとアイスキャンディーを舐めていると携帯から電話が。着信音からすると後輩の誰かだな。
『はい、もしもし』
『おねぇぇぇぇさまぁぁぁぁん!!』
この声はメイか。今にもエクスタシーを迎えそうな声だな。
『どうしたの…またテレフォンセックスとか、』
『違いますわ!明日はお暇ですの?今の時期ですから…宿題は終わらせていらっしゃいますの?』
『大丈夫大丈夫、全部終わってるよ』
『では、わたくしと一緒に日帰り旅行などいかがですか?』
『いいよぉ〜』
『ふたりきりで…といきたいところなのですが…残念ながらユウカ先輩とナノカ先輩がセットなのです…』
本当に残念そうな声を出すなぁ…。
『どこへ行けばいいの?』
『明日の8時にわたくしの家まで。そこからは執事が運転する車で広島の恐羅漢に行きますの。夏のスキー場はまた違った美しさがありますわ。そこで昼食を頂いて、温泉に入って帰りますのよ?』
『いいねぇ…了解!8時にメイの家だね!』
『お待ちしておりますわ!』
…。
電話を終えてから、マコトがジッと俺のほうを見ている事に気づく。ジッというよりジトーっと言ったほうがいい。
「え、えっと、明日、あたしは外出、」
「ボクを置いて…外出するんだね…」
「ま、マコトはまだ宿題があるじゃん?」
「今、テレフォンセックスがどうとか言ってたじゃん!!何をするんだよおぉぉぉぉおおぉ!!(号泣)」
「いや、メイだよ!メイとユウカとナノカだよ!!もう!あたしが男と一緒にどっか行くなんてありえないから心配しないで」
「うっうっ…キミカちゃんが側にいてくれるだけで、宿題に対するヤル気も倍増するのに…」
「いやいやそれはないない」
「なんでだよォォ!!」
「部屋にシャツとパンツ一丁の女の子がウロウロしている時点で普通の男なら気になって集中できないはずだよ。そう、まるでパソコンの画面の背景の壁紙をエロゲのエッチシーンにしていたら集中できなくて気がついたら一人エッチばっかりしていたという感じに…」
「た、確かにそうだ…いや、ちょっと待ってよ…キミカちゃんが部屋にパンツ一丁でウロウロしていた時にボクが宿題をしていたのが殆どなわけだから、ボクが今まで宿題がまともに出来ていないのは、キミカちゃんがパンツ一丁でウロウロ、」
「よーし、ちょっとスタバに行ってくるかなー」
「ちょっ、キミカちゃぁぁぁーん!!」
泣き叫ぶマコトをよそに俺はドタドタと2階の階段を駆け下り(途中で器用に服を着ながら)スタバへと出掛けるのだった。