118 自由研究『戦車について』 6

お風呂でシャワーを浴びた4人。
クーラーの聞いた部屋で涼んでいた。ジュースはなかったがお茶があったので冷凍庫で冷やしてそれを飲んだ。
そろそろ時間か。
「それじゃ設置しにいきますかー」
と俺がいう。
ユウカ妹もさすがにまた布団ぐるぐる巻をするだけの根性はないようだ。ワンピース姿でいるので「あれ?ユウカ妹はどこに行ったの?」って時々言ってしまうほどに別人がそこにいるような感覚になる。
それから30分ぐらいかけて学校へと到着。
バスも使ったので汗を掻くことは殆ど無かった。
「サテ、ドコニ設置スルノデスカ?」
「広いところは運動場かロータリーか…そこぐらいかな。中庭はちょっとまずい。色々と木をなぎ倒して置かないと設置できない」
「ソレジャァ、ロータリーニシマショウ」
「OK」
部活を終えた生徒が帰るなか、俺達4人は校門から少し歩いて学校に来る生徒以外の人の玄関前(ロータリー)でキミカ部屋(異空間)から大破した戦車を取り出す。
(ズゥゥゥーン…)
コンクリートがメキメキ・ピキピキと音を立てて凹む。
「コレモ必要デスネ」
コーネリアは地面に触る。
すると光り輝いてピキビキと立て看板が現れる。
そこには英語で何か書いてある。
「これってなんて書いてあるの?」
「作品ノTitleト作者ノ名前デス」
「日本語で書かないと!」
「ソンナノワカリマセーン」
と「お断りします」のAAと同じ格好を取るコーネリア。
「ちょっと待ってよ、コーネリア、ここに名前もタイトルも、とにかく何記載されてない状態の看板を作って」
「OKey!」
再びコーネリアが物質変換能力で道路の一部を看板に変える。
そこで俺はブレードを取り出して(0.000012秒)名前とタイトルを掘って(0.000044秒)ブレードを締まった(0.000012秒)
「オミゴト」
タイトルには在り来りな名前「戦争と平和」。
そしてユウカ妹のクラスと名前を掘ってあげた。
「ンンン…」
コーネリアは何か納得いかないらしい。特にこの俺が勝手に思いついたタイトルと戦車を見比べて「大破シタ戦車デハ、戦争ノ悲惨サハ再現デキテイマセーン…」などと言うのだ。
「じゃあどうすれば戦争の悲惨さが現れるんだよ?」
「人ガ死ンデナイカラ駄目ナンデス」
「いやいやいや、人とか殺しちゃ駄目だし!芸術のためでも!」
「何モ本当ニ殺ソウトイウノジャアリマセン」
そう言ってコーネリアは地面を触って再び物質変換能力を使う。
地面からもこもこと土が盛り上がったかと思うとそれがどんどん人の形に…っていうか「人」になっていくんだけど。
おいおいおいおい!!誰だよこのオッサンは!!俺の前にはアメリカ軍の軍服らしきものを着ていたように思えるオッサンが一人、もう殆ど炭化した状態で横たわっているのだ。
「こ、これ誰なの?」
俺が恐る恐る聞いてみる。
「親戚ノオジサンデス」
「え、ちょっ、」
「戦争デ死ニマシタ…私ガ遺体ヲ確認ニ軍マデ足ヲ運ブト、炭化シタ状態デ、安置所ニ在リマシタ…。デモ一体ジャタリマセンネ。司令タイプノ多脚戦車デハ乗員ハ最低デモ15人ナノデ、」
おいおいおいおいおい!!!
おいおいおいおいおいおいおい!!!
次から次へと親戚のオッサンの炭化したのが道路から出来上がってるぞおい!死体だらけじゃねーかおい!!
「Hey。驚イテナイデ設置ヲ手伝ッテクダサイ」
「えええぇぇぇぇええぇぇ?!」
…。
死体を全て戦車のコックピット内に設置した。
しかしまだ『リアリティが足りない』というコーネリアは一部の死体に小型の爆弾を仕掛けて爆発させ、手足を吹き飛ばしていた。
親戚のオッチャンに何してんねんこの人…。
こうして作品「戦争と平和」が出来上がったのだ。
ロータリーの真ん中に戦車の残骸。
看板にはユウカ妹のクラスと名前、そして、日本人の作者なのに何故か戦車はアメリカ製。そのコックピットには罰当たりにも炭化したコーネリアの親戚のオッチャンの遺体…。
「り、リアリティありすぎだよ…」
マコトがドン引きする。
「って、何してるんだよコーネリア!!」
コックピットの中で設置している遺体の一つの手にハンドガンを握らせて、そのハンドガンはこめかみに向かって今にも発射しそうになっている。つまり、これは自殺か。
「燃エサカル戦車ノナカ、死ヲ悟ッタ兵士ハ、敵ニ殺サレルグライナラ自ラノ手デ…ト、自害ヲシテイルノデス…」
「あんた親戚のオッチャンに呪われるよ…?」
「コノ悲劇ヲ繰リ返シテハナラナイ…」
「はいはい…って!ハンドガンに実弾が入ってない?入ってるよね?!それ、本物の銃だよね?!」
「Yes!!」
「駄目だよ!誰かに盗られたらどうするんだよ!」
「ソイツヲ殺ス」
「今、この悲劇を繰り返してはならないとか言ってたよね?!」
とにかくハンドガン(実弾あり)は駄目だ。
没収。
俺はキミカ部屋へと吸い込んだ。
コーネリアは唇を尖らせてぶーぶー英語で言っていた。
…。
さて、こうして一仕事終えた俺達は家へと帰った。
翌日、「学校に戦車がある」「しかも中に同じ姿をした遺体が複数ある」とマスコミや警察、南軍、米軍までやってくるという大騒ぎになった。テレビには「戦争反対」というプラカードを持ったユウカ妹が戦車の前に座っているシーンが映っている。
そういえば、奇しくも今日は終戦記念日だった。
俺は静かにテレビの電源を落とした。
そうすれば自分がこの件とは一切関係がないような、そんな立場になれる気がしたんだ…。