118 自由研究『戦車について』 3

ユウカ妹のいう「戦車でもいい」とはどういう事か?
「自由研究に実物大の戦車を持っていくのもOKってこと?」
俺が聞いてみると、
「うん。本当は戦車の研究として、持って行こうと思ってたの」
「なるほど」
つまりユウカ妹はなにもプラモだけ提出しようとしてたわけじゃなくて、色々な研究レポートがあって、その一つとしてでぃあごすてぃーにの付録で戦車を作ってみました、って事なのだ。
「ソレナラ話シガ早イデスネ。戦車ナラ何デモOK?」
「うん」
コーネリアはさっきよりもヤル気を出して地面に手をついて再び戦車を作り始めた。でぃあごすてぃーにの付録の戦車はそもそも日本軍のものだったが、今度はコーネリアが詳しいアメリカ軍の多脚戦車を創るつもりでいるらしい。
「HeHeHeHeHe…我ガアメリカ軍ノ軍事力ハ世界一ィィ…」
そう言いながらコーネリアが作り終えた戦車は多脚戦車の中でもドロイドタイプのではなく司令タイプという奴で中には司令室があり、軍事作戦の拠点としても使用されるものだ。
日本軍は海軍と空軍に力を入れるのでこういう陸戦ガッチリな司令室付き戦車というものは存在しない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!すっごーーーい!!」
目の前で巨大な戦車が作り上がるのを見て大喜びする布団グルグル巻き少女のユウカ妹。
「すっげぇ…」
俺も驚く。
「な、なんかめっちゃ目立っているような…」
困惑するマコト。
「HeHeHe…目立タズシテドウスルノデスカ?軍事力ノ差ヲ魅セツケルノモマタ戦略ノ一ツト言ワレテイルノデス」
「ねぇねぇ?これうごくの?うごくの?」
ユウカ妹は興奮気味にコーネリアの周囲をトタトタと走りながら聞いている。どうやら戦車を動かいてみたいらしい。
「動クシ搭乗モ可能デスヨ…ククク…」
マッド・サイエンティストのような怪しげな笑みを浮かべるコーネリア。余程の自信作らしい。
「動かして!動かしてー!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら哀願するユウカ妹。
「デハ、スイッチオーン!」
スイッチ?
いや、電脳通信で制御しているっぽいな。どこにもスイッチらしきものはない。
暫くするとブォーンという音と共に、地響きや空気の揺れ、それからあの半重力コイルの青白い光がピカピカと周囲に漏れる。これだけ重いものだから半重力コイルなしには自分で動く事ができないのか。電力消費をもう少し上げるのなら足はいらなくなるな。
「HaHaHaHaHa!!GoGoGo!!」
上機嫌なコーネリア。
公園の遊具を踏み倒し、側に違法駐車しているナンバープレートの無い車を踏みつぶして多脚戦車が街をゆっくりと歩き始める。
「うわ、なんかマズイんじゃないの?!」
マコトが心配している。
「ナンバープレートがない車だからOKだよ」
「いや、そうじゃなくて!!」
「遊具のほう?」
「そっちでもなくてー!!」
その時だった。
空高く、雲よりも上の方から光がチカチカと輝くのだ。その光の点滅に遅れてから音が「ドンッ!ドンッ!ドンッ!」とようやく届く。が、音が届いた時にはもう既に、
戦車に着弾していた…。
爆風でコーネリアは茂みの中へと弾き飛ばされ、俺とマコトは近くに違法駐車していた(ステッカー貼付済み)のワゴンの横っ腹まで弾き飛ばされ、ユウカ妹はゴミ捨て場(粗大ごみ)の布団が丸めて置いてある中へと弾き飛ばされた。
「い、いやぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!」
泣き叫ぶユウカ妹。
俺達の目の前で戦車が何者かに爆撃されたのだ。
「キミカちゃん!あれ!」
マコトが続いて空を指差す。
そこには2機のハルバード(半重力コイル式の戦闘機)がF1サーキット場のようなキィーン!!という音を立てて空を横切り、期待から発射された4発のミサイルを俺達が一生懸命作った戦車に発射。
「あ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁあぁ゛ぁぁぁぁぁッ!!!」
そして着弾。
公園の遊具も砂場もトイレも瓦礫の山と化した。
泣きながら炎に包まれる戦車に向かって走りだそうとするユウカ妹を俺はグラビティコントロールで掴んで離さないようにした。
「あれは南軍の戦闘機じゃん…」
「じゃあ、さっき空の上のほうから何か撃ってきたのは?」
「あれも南軍の早期警戒機・爆撃機だよ、多分」
燃え盛る多脚戦車。
「ファァァァァァァーッック!」
コーネリアは中指を遥か空の彼方へ向かって立てている。
「きっとレーダーに不審なものが入って、しかも何故か国境付近じゃなくて国内のどまんなかだったから速攻で叩き潰しにきたんだね」
マコトが丁寧に解説する。
そうか。
南軍、ちゃんと仕事してるんだな…。
と、その時俺に電脳通信が。
軍からの緊急連絡回線だ。
…やべぇ。
『キミカちゃん?今、時間ある?』
ミカトさんだ。
『ごめん、ちょっと時間はないかも』
『テロリストがコントロールしていると思われる多脚戦車が出現したのよ。軍の早期警戒機が検知して攻撃を仕掛けたんだけど、まだ他にも現れる可能性が、』
『大丈夫、大丈夫、それはないよ』
『?』
『まぁ、次に出てきたら呼んでよ、向かうから』
…。
と、とにかく…。
「これは放置したらヤバいから吸い込んどくね」
俺は多脚戦車の残骸をキミカ部屋(異次元空間)へと吸い込んだ。
「コーネリア、公園のほうを直しといて」
「K」
「ここであたし達が居たことがバレたら後々ヤバイことになるし」
とりあえずユウカの家まで戻るか…。