118 自由研究『戦車について』 2

ユウカから電話を受けてからずっと戦車のカタログなどを見ていた。
紙か何かで、それが無理なら粘土か何かで細工をしてやろうとも思ったが、カタログを見る限り、絵心すらない俺が3次元の立体を組み立てるというのには無理があるようだ。
いっそのことどこかのプラモ屋にでも問い合わせて同じものを買えばいいのじゃないかなんて思いもしたけど事前にでぃあごすてぃーにで作るって宣言してるからなぁ。しかもこの会社では他のプラモのパクリなんてのは絶対にやらない。へんなところは拘ってるんだよなぁー
さて、どうやってこれを作るものか…作る?作る…造る…創る…?あぁ、そうか。こういうのを作りる人が一人いるじゃないか。一人どころか俺の知り合いには3人はいる。
コーネリアにキサラにソンヒ。
それぞれがドロイドバスターの物質変換能力所有者である。
ソンヒはまず手伝ってはくれなさそうだから有力なのはキサラとコーネリア。ただキサラはああでも学校の先生なのだから卑怯な手段で宿題をちゃっちゃと終わらせる事に対して何かしら言ってきそうではある。もし仮にでも少し賢い人なら「そもそも自由研究をでぃあごすてぃーにの付録に頼ってんじゃねーよ」ってところに気づいて指摘する可能性がある。だから唯一頼れるのはコーネリアだけなのだ。
真面目じゃない性格の人はこういう時に頼れるなぁ…もしコーネリアがボケじゃなくてツッコミ役だったら「ナニシテンネーン!」とうい感じで宿題ハ自分ノ力デヤレ!と断られることになってたよ。
さっそくコーネリアに電脳通信。
『コーネリア!明日暇?』
『WOW!ナンデスカ突然!ビックリシター!』
『ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど…世界中の人の中で知る限りはコーネリアしかできないことだよ!』
『私ハ明日モLOS(Load of shangri-la:ネットゲーム)デMPKスルノデ忙シイデーッス!!』
こんのやろうまだMPK懲りずにやってたのかよ。
いつかバチが当たるぞォ…。
『MPKなんてやってたらGMゲームマスター)にマークされてアカウント剥奪させられるよ?っていうかあたしが通報しといたし』
『Noooooooo!!』
『それが嫌なら明日、手伝ってよ、ユウカの妹が夏休みの宿題を手伝って欲しいんだってさ』
『イイデショウ…チナミニ何ヲスルンデスカ?世界デ私シカデキナイ事トハ?』
『そりゃもちろん、ドロイドバスターの物質変換能力の、』
と、俺はここでこれまでの経緯を説明した。
『ワカリマシタ。明日ノ朝10時、学校ノ校門前デスネ?』
『うん、しくよろー』
というわけでさっそく翌日、朝10時、学校の校門前に俺とマコトとコーネリア、そしてユウカ妹が集合した。
「ショ…正気デスカ?」
コーネリアは校門前にいる布団をグルグル巻に身体に巻きつけて足以外見えないユウカ妹がフラフラと左右に揺れているとんでもない姿を見て恐怖に震えていた。すでにギャグの域を超えているのだから仕方がない事だ。俺もユウカの家に迎えに行った時、ユウカ妹がこの格好で出てきたからはっきりいって見ているだけで気分が悪くなった。
気温は35度は超えそうになっている。というのがまだ朝の10時だ。これからどんどん上昇するというのに、この格好…。
辛うじて夏を感じさせるものといえば、ユウカ妹の足が素足に下駄というカジュアルな格好だったことかな。…若干涼しさを感じさせる…のかな?いや、全然…。汗が滝のように流れでてきてるぞ。
「それ脱ぎなよ、本当に熱中症で死んじゃうよ?」
マコトが心配してドロイドバスターのエントロピーコントロールでユウカ妹の布団を冷たくしてあげてる…が、そんなに能力は続けて使えないのだろう、すぐに中断して今度は自分の身体を涼しくしている。羨ましい能力だな、いつもクーラーが周囲にあるなんて。
「ら、らぁぃじょぉぉーぶ…らぃじょーぶ…」
本当かよ…。
それから俺達は公園へと向かった。
若干は風が出てきているもののまだまだ暑い。あまりの暑さに公園に普段からいるであろう親子連れなどは見かけない。無人の公園は砂漠の中に浮かぶ蜃気楼のようにゆらゆらと遊具などを揺らしていた。
公園にたどり着いてからユウカ妹は身体を折り曲げて布団の中から何かを吐き出した。
でぃあごすてぃーにと未完成のプラモ戦車。
足の指でプラモの未完成部分を指差して、
「ここの部品が欲しいの」
とユウカ妹が言う。
「んじゃ、コーネリア先生!頼むよ!」
汗を腕で拭いながらコーネリアに言う俺。
「OK…」
コーネリアも汗を拭いながら公園の地面に手を添える。そして、ドロイドバスターの物質変換能力で地面をゆっくりと変えている。これがいずれプラモ戦車の部品へと変わるのか。
「ん?」
ゴゴゴゴゴゴ…という音と共にゆっくりと地面が鉄の塊に変化していく、が、なんだかプラモ戦車の50倍ぐらいの大きさなんだけど。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってよコレなんなの?めっちゃ大きくない?部品がめっちゃ大きくない?プラモの部品だよ?」
「Heeeeeeyyyy…キミカガ戦車ノ部品ガ欲シイトイウカラ、」
「ちょっとタンマ。ターンマッ!戦車の部品っていうのはプラモデルの戦車の部品であって実物大の戦車の部品じゃないんだよ!」
そう俺が説明する間にもユウカ妹はプラモ戦車の未完成部分の部品とコーネリアが産みだした本物っぽい戦車の部品をあわせこもうとしてる、って、それ無理だから!実物大と50倍ぐらい大きさの差があるから!接合することなんて物理的にありえないから!!
「Oh…無理デスネー」
「エェェ?!なんで?!」
「私ノ物質変換能力ハ『アカーシャクロニクル・ライブラリ』ノ能力ヲサポートトシテ使ウコトデ、物質ヲ変換シマス。コレニハ、失ワレテイル部品ガ一度デモ作ラレタ事ガアルモノジャナケレバナリマセン。コノ戦車ノプラモデルハ試作品ハ作ラレテナイノデスカ?」
し、試作品…作られてなさそうだ。
そういえばコーネリアの能力は物質がどういう構造をしているのか事前に勉強して頭に叩きこんでおくか、アカーシャクロニクル・ライブラリの能力で物質の構造をアカーシャクロニクルから参照して創るしかできなかったな。今思いついたものをそのまま創るということは無理だったのだ。例えば、ええ感じにこの戦車プラモの欠落部品を創るとか。
「ん〜…やっぱ無理なのかぁ…」
と俺が腕組をしていた時、ユウカ妹が一言言ったのだ。
「戦車でもいいよ」
戦車でもいい?せんしゃでもいい…。
え?