118 自由研究『戦車について』 1

aiPhoneの呼び出しアラームでクラスメートからの呼び出し音が鳴るとデジャヴを感じる。以前、ナノカから電話が掛ってきた時はお祭りの誘いだったからなぁ、今回もそれじゃないかとドキドキしていた。
確かに夏祭りは色々な地域毎に行われるわけだけど、まさかナノカはそれを全部制覇しようなどとは…思ってそうだよなぁ、そういうくだらない事には最大限の力を発揮しようとするタイプだから。
しかし電話の相手はナノカではなかった。
それはひとまず安心…しておくべきなのか。
もう一人のクラスメートの女子、ユウカからだ。
『もしもし…』
『どうしたのよ?元気ないわね?夏バテ?』
『なんかユウカから電話掛ってきたらどっと疲れが出たよ』」
『失礼ね!』
『何なの?』
『ちょっと妹のね、夏休みの宿題を手伝って欲しいのよ』
『』
『もしもし?聞いてる?』
『聞いてるけど聞きたくない…』
『何よ?何なのよ?嫌なの?』
『嫌に決まってんじゃん、ユウカの妹なんだからユウカが面倒見ればいいじゃんか、なんであたしにそんな役回りを押しつけようとするんだよ!ビッチ!』
『私だって色々と用事があるのよ?別に押しつけようと思ってるんじゃなくて、あんたのほうが詳しそうだと思ったから任せたいと思ってるのよ!っていうかビッチじゃないっつぅの!!』
『あたしのほうが詳しいって何なんだよ?』
『実はね、』
とダラダラとユウカが話をしたのは長いので割愛する。
要点だけを抜き出すと…。
まずユウカ妹は夏休みの宿題の『自由研究』の課題として『でぃあごすてぃーに』という毎週発売されるある雑誌に付録で付いてくる部品を集めて作る『電子工作』を提出しようとしていた。
まずそんなものを自由研究として提出するのがOKなのかどうかが疑問だが、とりあえずは先生の許可はちゃんと出たらしい(これがそもそもオカシイんだけど)
で、付録を集めて最終的には何が出来上がるのかといえば『戦車』だそうだ。しかもレガシー時代のパンツァーだとかM1A1なんとかっていうものじゃなくて『多脚戦車』。まぁでぃあごすてぃーには普段からこんな付録付きの本を色々出版するところだから全然驚かないけども。
で、ユウカがまず俺の顔を思い浮かべたか理由はわかった。
俺が教室でコーネリアやメイリン、マコトと共にアドバンスド大戦略をプレイし、美しいホログラム映像の中で多脚戦車が暴れまわっているのを見ればおのずと「こいつら戦争に詳しいんじゃね?戦車に詳しいんじゃね?でもコーネリアとかメイリンは変態だしマコトはなんだかんだ言って外国人だし、頼れるのはキミカぐらいじゃね?」と思うのに違和感は覚えない。
ただ、ここまでの話なら別に俺が戦車にどんなに詳しかろうと、でぃあごすてぃーにの雑誌を読んでいればユウカ妹なら一人で組み立ててしまうだろう。そういう雑誌だし。
ここで問題が起きた。
このでぃあごすてぃーにという雑誌、いざ景気よくスタートしたはいいものの、途中で廃刊になるケースがあるのだ。例えば今回は半分ほど戦車が出来上がったところで雑誌の売れ行きが怪しくなったのだろうか読者をほったらかしにして勝手に廃刊になってしまった。そんな雑誌を夏休みの宿題として使うなという神の思し召しである。
そこでユウカは俺に向かって『足りない部品を調達して戦車を完成させてほしい』と言ってきたのだ。って、えぇぇぇえ?!マジでぇ?!無理に決まってんじゃん!
『一番足りてない部品はユウカ脳味噌じゃないの』
『あんたマジで登校日に殺すわよ』
『普通に考えてどうやってやるんだよ?』
『どうやってやるって、ほら、オタクだったら何か色々とやってチャチャっと仕上げてしまいそうじゃない?』
うわぁ…。
アニオタなら漫画ぐらいすらすら描けるだろう理論って奴か…オタクと一般人の壁の厚さを実感した。
俺が戦争ゲームをプレイしていたというだけで既に軍事オタに認定されてて、しかも部品が欠落した戦車の模型を完成まで持っていけるスキルを持っていると勘違いしてる。凄い偏見だ。何か問題があったらオタクに任せておけばよくわからないキモい力で何とかしてしまうって本気で思ってそうだ。
『文句があるならでぃあごすてぃーにに言えばいいじゃん』
『それならもうやったわよ』
『それでなんて?』
『読者数が少ないのに赤字出しながら発刊するのは難しいって』
ごもっともだ。向こうは生活掛ってるからな。
『もう諦めたらいいじゃん』
『あんた、ひとごとだと思って随分と適当に言ってくれるわね』
『だってひとごとだし』
『別にそんな凄いものを期待してるわけじゃないんだから形になるようにしてくれればいいのよ。先生にも事情は話して廃刊になったから途中からは手作りですって話すから。私は戦車の事とかわかんないから適当に形になるようにもすることが出来ないのよ。今度何か奢るから』
『奢るって何を奢ってくれるの?』
『何か甘いものでも…』
『いらないよそんなの!一人でも全然手に入るものじゃん!』
『じゃあ何が欲しいのよ』
『んじゃ、ソープを奢って』
『ソープ?石鹸が欲しいの?それこそ一人でも手に入るじゃない?』
『いや、ソープランドの事』
『何なの?ソープランドって』
『えっと…なんていうか、大人の遊園地』
『遊園地に連れてって欲しいの?あんたもまだまだ子供ねぇ…』
『…』
『なによ?』
『なんでもない…』
この世にソープランドを知らない高校生がいたなんて…。