116 ヲタク・ロックンロール 7

17時、18時とアニメを見て過ごす。
途中、警察が何度か拡声器で投降しなさいとか言ってきたからウルサイ!と叫んで拡声器を撃ち破壊してあげた。
18時ぐらいから東京テレビのCM枠の中で、『特番:秋葉原立て篭もり事件の犯人が世間に物申す』のCM?が流れた。
どうやら東京テレビは緊急ニュース速報ではなく野球放送枠を全部特番として放送するらしい。
それから18時30分ごろ、警察がざわつき初めて窓から少し顔を出して外を見てみると東京テレビの車両とスタッフが忙しくビルの中へと入るところだった。警察はそれを止めているようだが、犯人にインタビューを申し込まれた云々の話をして警察を納得させたようだ。
「はい、1カメ、2カメ、テストー!OK」
スタッフが忙しく準備をしている。
やっぱりテレビにでるのだからそれ用の化粧などが必要なのだろうか、デブも中途半端な「アニヲタ」っぽい格好ではなくちゃんとしたテロリストっぽい格好に着替えさせられた。
俺は俺で「アキバを歩いていた善良な市民」ということでメイド服に着替えさせられてメイクさんやらが「化粧ののりがいいわねぇ」などと言いながらも俺を自分で見てもびっくりするぐらいに可愛らしいメイドさんへ変身させていった。
「はい、放送1分前!」「放送1分前〜!」
いよいよインタビューが始まる…。
メイド服の俺は椅子に腰掛け、隣にも緊張した趣で椅子に腰掛けるテロリスト風格好のデブ。異様な風景だ。
カメラの前にはアナウンサーの女性がいる。
「はい!放送10秒前!、9、8、7、6、5(手で合図)」
…。
「皆さん今晩あー!しりあがりです!今回はですねー、秋葉原!みなさんの大好きな秋葉原のとあるビルにお邪魔しています!!いま他のチャンネルをかけるとお分かりになれると思いますゥ、緊急ニュース速報で秋葉原立て篭もり事件やってると思いますけど、なんと!東京テレビではその犯人さんとお話する事ができました!今回は19時から21時までの2時間、テロリストの犯人さんの主義主張をですね、テレビの前の皆さんにですね、発表してもらいたいと思います!」
カメラがデブのほうへと向く。
デブ、軽く会釈。
「はいはい、この凄い戦争っぽい格好の人がテロリストさんです。で、隣のメイド服の女性がたまたまアキバの路上を通りかかってた時に、テロリストさんに人質にされちゃった人ですねぇ」
と、しりあがりアナが俺の方に近づいてマイクを向ける、と、指で俺の対面に設置してあるカンペを指すのだ。
そこには『怖かったにゃーん』と書かれてある。
え?なに?これ言うの?
「こ、怖かったにゃーん…」
「でもですねー、テロリストさんも何も怖がらせようと思ってこんな事をしてるわけじゃないんですよねー?主義主張があるわけですよね?(デブにマイクを向ける)」
カンペ機(正確な名称は知らないけど、電光掲示板にカンペが出てくる)には『はい』と書かれてある。
って、テロリストの主義主張までカンペ用意されてるのかよ!
「は、はい」
緊張して答えるデブ。
「では、その主義主張を皆さんに発表してもらおうかな、でも、ちょっとそれだと時間余っちゃうんで、テレビの前の皆さんは、本当にテロリストさんはテロリストさんなのか、まだわからないと思います。他のテレビ局を見てた人は結構前からマスコミのヘリとかから映像が見れたと思いますけどね、ここはテロリストさんにテロリストっぽい事をして証明してもらおうと思います」
すると、カンペには、
『外の警察に向けて発砲する』
とだけ書かれてある。
え、ちょっ、そこまで指示するの?!
まぁいいか、絵にならないとダメだからな。
「ちょっと待ってね、今、おっきい奴だすから」
そう言って俺はキミカ部屋からリッパーって呼ばれているガトリング砲を取り出した。重量は40キロかそこらで弾倉を装着すれば100キロは超える。なので弾倉は別に持って、撃つときも地面に固定させて撃たないと反動で身体にダメージを食らうという優れものである。
俺が軽々しく持っていたから油断していたのだろう、デブはその40キロそこらの重さのガとリンク砲を持ってふらふらとする。
「え、ちょっ、これなんかめっちゃ重くない?重くない?」
「重いよ?」
「これこのまま撃つの?」
「いや、固定させないと、まず窓の近くに持っていって」
デブがヨタヨタと歩いて窓の近くへと行く。
「あんまり顔を覗かせたら撃たれるよ。警察のスナイパー部隊が狙ってるだろうから」
デブがガとリンク砲を床に置いて、その周囲でメイド服の女の子が砲を固定させるというシュールな光景がカメラに収められる。
「なるほど〜、ちょっとだけ窓から離れたところに設置させるんですねぇ」としりあがりアナが言う。それから続けて「でも、それだとどこを狙っても壁とかに当たってしまいません?」と問う。
ま、それの答えは使ってみればわかるか。
「このまま狙うのは出来ないからですね、こうやって(俺はガトリング砲を持って壁に狙いをつけて)壁に向かって撃って穴を開けて警察に狙いをつけるんですよ(そのままスイッチを押す)」
凄まじい轟音が響いて壁が吹き飛んでコンクリートがその場に散らばった。そして貫通した弾丸が警察車両を鉄塊に変える。
「ほら、やってみて」
とデブに言うが、
「いま、めっちゃ身体揺れてたよ?それ大丈夫なの?撃つだけで反動で骨が折れたりするんじゃないの?」
と怖がっている。
「大丈夫大丈夫、骨が折れるとか漫画じゃないんだから」
その時だった。
なんかスナイパーライフルが俺に向かって照準をあわせている気がしたのだ。とっさに構えたブレードで俺に狙いをつけて撃ってきた弾丸を弾き飛ばした。
2発目、3発目、4発目。
全弾、弾き飛ばした。
警察が使ってるライフルは8発装填タイプだからあと4発は来るだろうと思ったが全弾使う前に殺すのは無理だろうと悟ったのだろう。撃つのは辞めたみたいだ。
「す、すごいです。メイドさんが何かスナイパーに狙われていたみたいなのですが、銃弾を弾き飛ばしました!!」
尋常ではない事態にしりあがりアナが驚いている。
「メイドなのでこれぐらいはできます。ほら、テロリストの人、撃ってみて。今ならスナイパーの弾はあたしが弾き飛ばすから」
「は、はい…」
デブがガトリング砲を撃つ。
今までの鬱憤を晴らすかのように、
「オラオラオラオラオラオラオラ!!泣いたって許してやんねーぞオラァ!!!フィギュア返せやコラァァァァァ!!」
凄まじい轟音と共に警察車両もマスコミのカメラもガトリング砲の弾のまえに鉄塊へと変わる。
その間にもスナイパーはデブに狙いを定めて撃ってきてるのだが、全弾をブレードで弾き飛ばした。
「あ、マスコミのヘリがいる!!あれも狙って!」
「えぇぇ?!アレも?!」
「どうせろくな報道してないんだからいいよ!ほらT豚Sって書いてある!あれは撃ち落としてもOK!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!きちがいの顔で悪かったなオラオラオラオラオラオラオラ!!」
夕焼けの空の中、ビルの谷間にT豚Sのヘリが火を吹いて、ゆっくりと不時着しているのが見えた。空中分解すればよかったのに。デブがヘタレだから上に向けて撃つのが辛かったらしい。