116 ヲタク・ロックンロール 5

順調に警察のパトカーとドロイドを片付けていたその時。
俺の視界の隅に一際大きな装甲多脚戦車の足が見えた。これは警察が軍から借りてるアレだな、前にニュースでやってた奴だ。
「ヤバイ!伏せて!」
0.5秒ぐらいの感覚でバリバリバリと機関砲による攻撃がビルのコンクリートを削る。ガラス片とコンクリートが周囲に飛び散る。
「ひぃぃぃぃいいぃぃ!!」
デブが泣き叫ぶ。
「ちッ…あのポリ公絶対殺す」
「どど、どどどど、どうすればいいの?」
「とにかく窓から顔を覗かせないほうがいいよ。胴体だけで葬式の主賓になりたくないならね!」
「あの大きなのは?」
「バリアがあってバッテリー車も奥に待機してるだろうから一時的にそれを削ぎ落とせるぐらいの強力な一撃を食らわせたらいいんだけど、歩兵用の対戦車兵器ではちょっとね」
後は俺がドロイドバスターに変身して始末するという手がある。
「キミ、詳しいんだね」
「まぁね、いつもああいうのと…って、その話はどうでもいいや。今、あなたを職質した警官はどこにいる?」
「えっと…さっきパトカーの中で話してた」
俺はビルの瓦礫の一つを手で少しどけて外の状況を確認する。ここからでも見える位置にあの職質警官が居て、パトカーの側で誰かと話をしている。もうひとりの職質警官はパトカーの中だな。
プラズマライフルを構えてパトカーの側に立っている職質警官の足元に狙いをつける。このまま打てば足を吹き飛ばしてガンタンクにする事は可能だが、さすがにフィギュアとガンタンク化はてんびんにかけると重すぎると俺は天使の様な心でパトカーの脇腹に銃弾を叩き込んだ。銃弾がパトカーの外壁を吹き飛ばして職質警官と側にいた警官の足に思いっきりダメージを与えた。やばい、2名もガンタンク化してしまったかもしれないけど終わったことはクヨクヨしてはダメだ。
「な、なにしてるの?」
「職質警官のうち1名をガンタンクに、」
「えぇぇぇぇ!!!」
「足なんてタダの飾りだよ」
「それはジオングだよ!」
「よし、次はもうひとつのやつをジオング化させよう。シャアが乗るんだ。彼ならオールレンジ攻撃を、」
「もういいよ!!誰かを傷つけたいんじゃないんだ」
「え〜?あぁ、そう…」
それからデブはフロアの中をウロウロし始め何やらイライラした様子だったがテレビを見つけると電源を入れてチャンネルを変える。平日のお昼だから昼ドラだとかタモさんの笑ってもいいかもしれないなどで客の笑い声が流れる。
と、その時、
ピコピコーンピコピコーンという音と共に画面の上部に緊急ニュース速報が流れた。そこには文字だけで「秋葉原でテロ発生、男が人質をとってビルを占拠」と表示されたのだ。
「ウワァァァァァァ!!!」
デブがそれをみて慌てる。
「どうしよう?!どうしよう?!」
と俺を見て泣きながら叫ぶ。
「って言われても…何にも…面白いネタは思い浮かばないや」
「違うよ!ボケろって言ってるんじゃないよォォ!!」
しばらくすると緊急ニュース速報から緊急ニュース番組へと切り替わって現場の状況をヘリの上から撮影している様子が流れる。そして慌ただしい声でキャスターが実況している。
『たったいま入った情報です。男は身長は180センチぐらい、体重は120キロはあるという巨漢です。女の子を人質に警察の銃を奪って建物に立て篭もっているという話なのですが…なんということでしょう。戦争です、戦争が起きています。いま、日本の東京、秋葉原の路上は戦争が起きています!!見てください、ドロイドや警察の車両が大破しています…拳銃を奪ってそれで大破させたのでしょうか、ちょっと考えづらいですね』
「拳銃で大破とか幼稚園生でも思いつかないよね、あはは」
「うぅぅぅぅ…(涙」
『たったいま追加で入った情報です!どうやら警察官が職務質問をした際に男が逆上して銃を奪って、側を歩いていた女の子を人質に撮ったそうです。男は非常に興奮した状態で、』
「ん〜…なんか、重要なところが省略されてる気がする」
職務質問されただけで逆上なんてしないよ!」
「フィギュアが壊されたってところが出てない」
それからなにやら専門家らしき男が出てきた。
なになに…アニメ系犯罪の専門家ァ?アホか。
『やはりアニメを見るという行為はですね、現実と非現実の境目を曖昧にしているのだと思いますよ。だからこんな風に派手にですね、暴れまくっているのですよ。警察官も怪我をしたそうじゃないですか?たしか足を撃たれて、ジオングになっているとか。発想がですね、アニメっぽいんですよね、足がないのをジオングと言ったりね』
そりゃアンタが今テレビで言ったんだろうが。
「お前もジオングにしてやろうか!」
と、俺が「あははァ」と笑っているその時、
「ウワァァァァァァ!!!」
デブが叫んだ。
「あ、顔が出てるよ!」
職質した時に写真を取らてたのかな?
デブの顔がテレビに出てる。
『こりゃねぇ、やっぱり狂ってますよこの人は。顔見てごらんなさい。目はつり上がってるしね、顔がぼーっと浮いてるでしょ。これ(ピー:放送禁止用語)の顔ですわ。アニヲタですしね』
そうとうな言われようだなぁ。
「人を顔で判断するなって事だよね、ほんと」
「うぅぅ…」
「あぁ!」
「?」
「いま、アイデアが閃いた」
「この現状を打破するアイデアなの?」
「インタビューを受けたらいいんじゃないのかな!」
「インタビュー?」
「そうそう、テレビは好き放題に言うけどさ主義主張があるって事をマスコミに言うんだよ!!だって悪いのは警察のほうなんだから。それが証明できたら味方についてくれるよ!」
「味方って…アニヲタの味方に誰がなるのさ…」
「でも自分が大切にしてたものを壊された事ってアニヲタじゃなくても共感できる話だと思うよ?」
「そうかな…」
「そうだよそうだよ!(と、俺はさっそくフロアにあるネット端末の一つを起動してマスコミのサイトへとジャンプした)」