116 ヲタク・ロックンロール 4

外からの拡声器の警察の声。
それだけがここで聞こえるBGMだった。
ヲタクは自らの疑問を続けた。
「僕は馬鹿だから利口に自分の人生を選ぶなんて出来ない。気づいたらヲタクになってたんだ。『好き』だけが理由だから、好きに理由なんてつけられない。それがダメなのかな…日本じゃアニヲタは生きてちゃダメなのかな?みんな、自分が好きなものを隠して生きていくのが当たり前なのかな。一生懸命苦しんで生きていますっていうのが日本人の美学なのかな…わからないよ!!わからない…」
持っていたアニメグッズを抱きしめながら泣いているデブ。
俺はその様子が俺自身が初めてMapBookAirを買った時の自分とダブってしまった。
そう、あれは冬の寒い時だった。
朝から並んだMappleストア前の行列。
インタビューを受ける。
どうして好きなのか?
どうしてMapBookAirが好きなのかと聞かれる。
「好きに理由が必要なんですか?」
と言った俺に質問したマスコミは少し引きながら、
「好きだから好きなんですよ」
次の俺の笑顔の答えに少し笑う。
そのセリフは「乗り遅れるなこのビッグウェーブに」と共にヨウツベのトップ動画に上る事もある程に人気となった(そりゃドロイドバスターの2次元美少女がMapBookAirを語ったのだから宣伝材料として使われてる分もあるが…)
それからはずっとMapBookAirと一緒だった。
学校の登校・下校はもちろんの事、授業中も、オフの時の喫茶店でも、寝るときでも、どんな時も俺の側にMBAは『居てくれた』
好きなものだからずっと側にいて欲しい。
それによって作られる世界が自分の世界となって、自分の人生となって、自分のサガとなる。
当たり前のようで、誰もが気づいていない事。
『あなたは、あなたが愛するそれを、良いときも悪いときも、富めるときも貧しきときも、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで、愛し慈しみ守ることを誓いますか?』
問われるまでもなく、誓う。
無意識下のうちに。
何故なら、好きだから。
それ以上の理由が必要なのか、逆に聞きたい。
デブは泣きながら言う。
「何かを好きになっちゃダメなのかな…」
この一言で俺の中の何かがブチっと音を立ててキレた。
ような気がした。
「ダメじゃない…」
「え?」
「人が何かを好きなるのは自然な事だよ。人の『好き』は自分以外のどんな人間にも否定できない。人の好きが人の人生だから。人が生きる理由なんだから。それを否定するのはその人の生きることを否定すること。生きることを否定するのなら、人は『好き』を守るために戦わなきゃいけない!!」
「え?え?」
「あなたは好きなんでしょ?アニメが!フィギュアが!あなたが愛してるそれを壊された、だから戦った。間違ってないよ!!」
俺はキミカ部屋から武器を出した。
次々と異次元空間から武器が大量に出されてくる。ドロイドバスターとしての武器もそうだけど、コーネリアに作ってもらったMKとかAKとかMGとか色々と米軍用の武器も。
デブの前にはサバゲーマニアもびっくりの武器達が揃っていた。
「僕は…僕は…」
「何も愛していない人は何も信念を持ってない。だから誰かと自分を比較して上だとか下だとか言ったり誰かにあわせて同じだと納得して『自分が生きていてもいいんだ』と安心する。だから彼らはあなたみたいな何かを愛してる人達を否定するんだよ。自分にそれが出来ないから。『キモい』って一言で否定して、自分がそんな連中よりも優れているという唯一の価値観を担保しようとする。そんな信念も愛もない人間のクズに遠慮はいらない!!」
「僕は…戦う!!僕は戦うよ!!」
デブは武器の一つを手にとって言う。
俺とデブは防弾チョッキを着て顔にはマスクをつけた。あと、俺は服装でさっきの警官にバレそうなのでキミカ部屋の中に何故か入っていた初音ミンクのコスプレ衣装に着替えた。
俺はレールガンでデブはMG172対戦車ライフル。アメリカのパトリオット社が開発した対ドロイド用(兼戦車用)の40口径ライフルだ。
2階のブラインドを蹴り窓を破壊した。
そこから銃口を覗かせてクソ警察の車両を次から次へと破壊する。
「オラオラオラ!!今更謝っても絶対に許さないぞオラー!!」
叫ぶ俺。
隣ではデブがMG172対戦車ライフルでドロイドをバリアごと突き破って破壊する、破壊する、破壊しまくる。
「死ね!死ね!死ね!!!死んでから死ねェ!!」
逃げ惑う通行人、逃げ惑う警察官。
あぜんと立ち尽くすドロイド。
その日、アキバは戦場と化した。