116 ヲタク・ロックンロール 3

「彼女は関係ないだろうが!離しなさい!」
警察官はもっともらしいことを言ってデブにハンドガンを向けている。が、その原因を創りだしたのは言わずもがな、警察官の職質だという事には気づいてるのか?周囲の連中は今までの成り行き見てたから白い目でアンタを見てるぞ。
身長は180はあるであろうデブは140ぐらいの身長しかない女の子(俺)を力を込めて後ろから抱きながら、
「フィギュアを元に戻せって言ってるんだよぉぉぉ!!!」
泣きながら言う。
シュール過ぎる…。
「そんな子供みたいな理由で罪を重ねるのか?!」
「アンタが道路に置かなきゃ壊れなかったんだぞ!!」
「もう終わったことだろう、大人なんだから我慢しなさい」
などというやり取りをしている。
っていうか警察官の『道理』は全然通ってないな。まぁ弁償しようと思っても簡単には弁償出来ないものだからな。
警察官は銃を片手にしてケータイで応援を呼んでいる。
ヤバいぞ、ヤバいぞ…ドロイド引き連れてやってくるぞ。おいおいおいおいおいおいおいおい、大変な事になってくるぞおい!!
ここで暴れたら目立つからなぁ…もし銃が俺に向けて発射されたらブレードで弾き飛ばすか。でもうまい具合に弾き飛ばさないと後ろのデブをバラバラに切り刻んでしまう可能性がある。
あっちゅうまに応援が到着した。
パトカー3台に蜘蛛タイプのドロイドが10体。一体どこにこれだけ待機してたんだよ、絶対に犯罪犯すのを待ってんだろう、と思ってしまうほどに用意周到に集まってくる。
さすがに多勢に無勢だ。デブは理解したのか…。
そのまま俺を引っ張って建物の中へと入る。
っておいおい…。
まぁ、建物の中へ入ったら後は逃げ出すのは簡単だな。こんなデブの豆鉄砲が俺に命中するはずもないし。
「出て行け!出ていけよォォォォ!!!」
泣きながらデブが叫ぶ。ビルの2階はオフィスになってて今日は平日なので社員やらがたくさんいるのだが、銃を持って暴れているデブを見て次から次へと悲鳴を上げて逃げ出す。
あっという間にオフィスは蛻のカラになった。
デブは急いでブラインドを全部シャットダウンさせて外から中が見えないようにした。つまり警察のスナイパー部隊に対抗する為だな。
「クソッ!クソッ!!どうしてこんな事に…!!」
デブは泣いていた。
オフィスの椅子の一つに座って泣いていた。
俺はブラインドの一つの電源を入れて外を見てみる。
「うわぁ…人が沢山集まってきてる。野次馬もテレビ局も来てるっぽいよ。警察も沢山…」
そう言うと、
「キミだって見てただろう?!あいつが悪いんだよ!!あの警察官がボクを職質しなかったらこんなことにはならなかったんだよ!」
そりゃごもっともだ。
「でも職質するって事は何か怪しいから…」
「違うよ!キミは分かってないな!あの警察官はここ(アキバ)管轄の警察官じゃない。他所から来てるんだ!!何をしに来てるか教えてあげるよ!点数稼ぎさ!別に職質して怪しいものを出すのが目的じゃない、みんな職質があるのは知ってるから例えオモチャであっても銃やナイフは持ち歩かない!警察だってそれは知ってる!だけど『抑止力』と称して職質してるのさ!!職質したって証拠があればそれで1点さ!何が街の平和を守るだよ!給料貰うことを正当化する為に、街の住人をダシに使ってるだけじゃないか!!!」
マジか…警察ダメダメじゃん。
「でもなんで管轄外な警察がここ(アキバ)までやってきて職質してるの?」
「弱いからさ!!アキバにやってくるのはヲタクぐらいで、そのヲタクには何やってもその場じゃ文句は絶対言わない。コミュ障が多いからね!!後でネットとかで文句言うけどほとんどの場合ネットの意見は無力さ!警察の職質がどうのこうのブログに書いてもそんなアニヲタブログを一般人が見てるわけないから身内でぶーぶー文句言ってるだけになるし、公的な掲示板に書いてても『アキバで』って書いた時点で『そりゃキモヲタが職質されるのは当然だろwww』って言われておしまいさ!!仕事が一番やりやすいんだよ!」
そうこう言ってるうちにアキバの路上は人で埋め尽くされていた。いよいよ警察は路上の人達を邪魔だからと進入禁止テープで外に追い出し始めたぞ。通れなくなってさらに人が集まってきてる。渋滞だ。
「うわぁ…アキバってしょっちゅうこんな事になってんの?」
と俺が聞く。
「そんなわけないじゃないか。キミは都民じゃないの?」
「県民だよ」
「そ、そっか…田舎からわざわざアキバまで出てきたのに、とんでもない事に巻き込んじゃったね…」
反省はしているらしい。しかし、外の警察官は反省する様子はまったく見せていないな。まるで自分は被害者だみたいなツラで上司に報告してるぞ。このくそったれ警察官が。
俺は窓から白い目でその警察官2名を睨む。
すると目が合い、上司に「あの人が人質です」みたいな事を言ってる。ここからは全然聞こえないがなんとなく雰囲気で。
外からは拡声器から「諦めて出てきなさい」とか「お母さんは泣いているぞ」とか在り来りな犯人説得セリフが流れてくる。
さすがに外を見てるのも飽きてきた。
「ねぇ、そろそろ外に出て行ったら?」
俺が言うとそのデブは何をしていたかっていうと、アニメグッズを机の上に並べながら泣いていた。
「ど、どうしたの?」
「うッ…うッ…うぅぅぅ…僕が悪いのかな…」
え〜…。
「まぁさっきのは職質した警官が悪いよ、周りの人もそう思ってるんだろうし。みんな白い目で見ていたよ?」
「そうじゃないよ…」
「は?」
「いいとしこいて結婚もしないし、彼女ももちろんいないし。そんな僕はアニメが好きで、ずっとアニメばっかりみてた。それでもグッズを買えないから仕事だって頑張ってやってる。でも、それも悪いのかな?僕はアニメを見る人生を送っちゃダメだったのかな…?」
なんとなくケイスケとかぶって見えた。
ケイスケはアニメ好きな自分はまったく否定はしなかったがあいつはあいつでこんな風に悩んでいる分岐点に遭遇した事もあるんじゃないのか。人っていう生き物は途中で自分が人生に対して何をするべきなのか迷う時があるとは言うけども、彼(デブ)にとってはこれがそうなのだろうか。