115 ロード・オブ・シャングリラ 6

俺はベッドの上で電脳ジャック(ネットゲームと自分の電脳を接続するコード)を外して、
「サーバが落ちたァァァァ!!」
と叫んだ。
ここはシャングリラの世界ではない、現実の世界のケイスケの家、俺の部屋。隣のベッドにはマコトが電脳でネトゲに接続している、が、さっきコネクション・ロストしたからそろそろ…。
案の定、マコトは電脳ジャックを外した。そして、
「な、なんなの?夏休みで学生が多いから落ちたのかな?」
とマコトは言った。
「きっとそれだ!」
「いや、キミカちゃんが前に多重・影分身の術をやった時もコネクション・ロストにならなかったっけ?」
「いや、それはないよ(即答)」
「即答しなくても」
それからLOSに接続しようとしてもConnection Lostの状態だった。が、30分ほど経過してから接続してみると簡単に繋がった。
でもさっき俺達が居た海蛇の洞窟とは違うダンジョンである。
「ここはどこ、わたしはだれ?」
俺が周りを見渡してみる、するとどうやら牢獄のような場所…でもさっきまで海蛇の洞窟にいたんだからこれはおかしい。バグじゃないのか?こんな変なダンジョンに飛ばされるなんて。ま、装備は全部無事だからよかったとしようか。
すると、鉄格子の向こう側に誰かが立っているのに気づいた。
「えと、どなたさまですか?」
俺が問う。
「私はゲームマスター『リンフォン』です」
「はぁ…」
げぇむますたぁ?
「あなたは自分がした事を理解していますか?」
「はぇぁ?」
「思い出してみてください」
「えっと…(なにいってんだコイツ?)海蛇の洞窟で…釣り人の中国人に出会って、」
「その後です」
「MPKのアメリカ人に出会って、」
「まだまだその後です」
「電脳ジャックを外してからコンビニに行って、」
「リアルの話はいいです。電脳ジャックを外す前です」
「サハギンと戦闘してたよ?」
「その戦闘中に何をしましたか?」
「影分身と火遁の術…っていうか、それがどうしたっていうんだよ?何は変な事したっけ?」
「あなたは不正に入手したソフトウェアでロード・オブ・シャングリラの世界へと接続し、ひとつのアカウントで複数のプレーヤーが同時に操作をする行為をしましたね?」
「いやいや、一人だってば!!」
「そんな冗談が通用すると思っていますか?あなたは最大で256体のキャラクターを『同時に』操作していたんですよ?そのせいでサーバが一時的に閉塞し、再起動せざるえませんでした」
し、知るかそんなことォォォ!!!
「罰として財産を没収します」
「なな、な、な、なんだってー!!!」
「と、思いましたが、なんですか、全然貯金がありませんね…。今回は警告のみとします。次からは不正行為を行わないよう、よろしくお願い致します。それではエレクトロック・アーツ・インダストリーのロード・オブ・シャングリラを引き続きお楽しみください」
な、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!
と、俺は牢獄の中で叫んだつもりだったが気づいたら海蛇の洞窟の正面入口にいて、そこで叫んでいた。
周りにはジッタ、マコト、はつみが居る。
「どうしたのキミカちゃん?」
「今、牢獄に行ってた…」
「牢獄?夢でも見たんじゃないの?」
「ハッハッハッハ!!キミカの姉御は都市伝説の『牢獄』が存在しているとか言い出すのか、なかなかおもしろいジョークだな!」
そう言って俺を馬鹿にするのでジッタの小人の身体を持ち上げて上下左右にブンブンと揺らしながら、
「ほんとうだってばァァァッ!!GMに説教されたんだよ!」
「ちなみにGMは名前なんていう?」
「アイフォンだったかな…」
「リンフォン?」
「それだ!」
「うわぁ…」
やめろ…そんな目で俺を見るな…やめろ!!
横で聞いていたはつみが、
「それって不正なマクロツールを取り締まるGMだよ。前に友達が不正ツール使ってるのが発覚してアカウント停止されてた」
と言う。
「っていうか、友達にそんな人がいるの?!」
「」
そっちはスルーかい!
「もうヤル気なくした…街に戻ろうよ」
「えええぇぇええぇ!!ボクの装備は!?」
「全部コーネリアっていうルーターが盗ったんじゃないの?」
「持ちきれなくて残ってるかもしれないじゃないかァァァァ!」
「いや、あいつならマコトの死体の位置をルーンに記憶しておいて街にテレポートしてから荷物を置いた後に、またやってきてルート(死体から装備を漁る事)してると思うよ」
「なんて執拗な!」
とにかく、なんだか今日は疲れたから街に戻って装備を少し修理してからログアウトして寝るって事にしたよ。うん。
マコトがなんだか色々と理由をつけてもう一度あの海蛇の洞窟の深くへと入って自分の装備を回収したいとか言ってたけど、さすがにこれだけの事があってからあのモンスターの大群と戦うような精神力を持っているのは金にガメツイ「めいりん」だけだと思う。
俺達はメインの街「ティリス」へとワープした。
しかし…。
ティリスは火の海に包まれていたのだ。
あの美しい町並みはシハーの大量の軍隊が押し寄せて瓦礫へと変えてしまっていた。俺達がちょっと街から離れた隙に。
「酷い…酷いよ、こんなの!」
マコトが悔しそうに地面にパンチしながら言う。
「鍛冶屋のおっさんも死んでる!」
と驚いてるのか嬉しいのかわからないような顔でジッタが言う。
一方ではつみはぼーっとした顔で、
「あーあ…また襲われてる。最近、夜遅くにシハーが攻めてくるようになってから廃人が揃えなきゃ街を防御できなくなってるね」
と言った。うわぁ…超、興味なさそー。
マコトは立ち上がった。
そして俺達に向き直り、
「戦おう…ボク達の国を守るんだよ!美しいティリスの街を…取り戻すんだ!!まだ、遅くはないと思うよ!!」
中二病臭い事を言い始める。
「えー…」
と俺が言う。
「俺様は…そろそろ落ちるわ。明日バイトだし」
いうが早くジッタはあっちゅうまにログアウトした。
「え、ちょっ、」
慌てるマコト。それから俺の方を見る。
「えっと、あたしは明日朝早くからスタバに行かなきゃ…」
「えええぇぇええぇ!?」
しかしはつみは違った。
「私は手伝ってくる。朝までやるよ。暇だし」
はつみが言う。
さすがはネトゲ廃人である…。
「ボクも行くよ!」
マコトがはつみについていこうとする、のを俺は後ろから、
「マコト、明日は日曜日だよ?ニチアサでお面ライダーブラック見るんじゃなかったの?」と言うと、
「ウワァァァ!!そうだった!ごめん、もう寝るね、おやすみ!」
言い出しっぺのマコトがログアウトしやがった。
続いて俺もログアウトした。
あー、しかしそれにしても、多重・影分身の術使えなくなったかーくそー!あれでインチキで敵を倒しまくってたんだけどなー!