106 愛なんてなかった 1

結局、警察の狙撃が行われるわけでもなく、その日の夜は納得の行かないまま眠りについた。ちなみにさすがに不眠不休でケイスケの家の周囲にいるわけではなかったようで、朝になれば姿を消していた。
それでもバスの時間には目を赤く張らせた牛塚が待っていた。
そして昨日と同様に…といっても昨日から俺は牛塚の存在を知っただけでひょっとしたらずっと前から登校時のバスで俺を追尾していた可能性があるから「いつものように」と言ったほうがいいかもしれない。
とにかくストーカーである牛塚は俺とマコトとナツコの登校を後ろのほうでジッと見つめていた。
登校して朝のホームルームが終わった。
なんか視線を感じる。しかしこの視線が牛塚のものとは違うのを俺は感じ取っていた。クラスメートの男子、キミカファンクラブの団員がチラチラと俺の方を見ているのだ。まるで申し訳なさそうに。
そういえば昨日の午後の授業の休み時間に俺が牛塚に待ちぶせ食らった時、コイツらは途中で逃げやがったな、今更謝ってこようが許してやんないわ。ったく、キミカファンクラブの癖にキミカの事を知らないっていうだけで逃げ出しやがって…。根性が足りない!
と俺が苛立ちを隠せす貧乏揺すりをしている時に、団員の1人が近付いてくる、が、他の団員は「やめろ!やめておけ!」と必死にそれを止めるではないか。なんだァ?俺に攻撃を仕掛けるつもりかァ?
「姫…一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
突然話し掛けてくる団員。
「ん?なに?」
「今日のパンツは何色でしょうか?」
俺は驚きのあまり椅子からズッ転げてたまたま側を歩いていたメイリンとコーネリアのスカートに手を掛けてしまい、そのまま引きずり下ろして2人のパンティーの色を確認してしまった。メイリンは黒、コーネリアは意外にもピンクである。
「Heeeeeey…何ヲヤッテルノデスカァ?」
「離せ変態」
言われても仕方のないことだ。
「突然びっくりするような事を言われて…。って何?パンツが何色かって?それがどう貴方達の人生に関係するの?」
「以前のファンクラブ内調査ではキミカ姫のパンティーは黒や白、ピンクなどが確認されていたのですが、この度、ずーっと清潔感のある白色パンティーが履かれているという調査結果が現れたのです。確かに我々ファンクラブ団員としてはキミカ姫に清楚な次メージでもある白のパンティーを履いていただく事は非常にありがたいのですが、キミカ姫の魅力を特定の色だけに当てはめるというのは、いわばアイドルに対してメイド服が似合うのでメイド服だけを着ていてくださいというものに等しく、そういう運命をたどったアイドルは本来なら様々なベクトルでの魅力が拡張されていく未来を閉ざすことに等しく、けっしてアイドル生命にとっては清純を貫く事が正しい事とは言えず、かといって大人びた世界を軽々しく受け入れる事については、」
「はい、この話はここで終わり」
俺はパンパンと手を叩いて話を遮った。
「つまり自分が言いたいことはですね!!キミカ姫には自分が気に入ったパンティーを履いていただきたいと思っております!」
最初っからそういえばいいじゃんか!っていうか、ファンクラブ内調査で人様のパンツの色を勝手に見てる時点でオカシイわ!
「だいたいその『ずーっと清潔感のある白のパンティーを履いている』って誰の調査結果なんだよ?(その人、殺しておくから)」
「今ちらっと最後に恐ろしいことを言われましたか?」
「いえ」
「まぁその…噂のようなものらしいのです。そこでこの度確認した次第です。ちなみに今日のパンティーの色は何色ですか?」
「ブルーです…」
「はい…。あ、もう一つ聞いていいですか?」
「なんだよォ…変な質問だったら(殺してあげるよォ…)」
「今、小声で何か、」
「なんでもない」
「えっとですね…キミカ姫が学業の後、素早く家に帰宅されるのはお稽古があるからと聞いているのですか…」
「そんな事言ったっけ…?まぁ、帰宅部の強化訓練があるけどね」
帰宅部は帰宅するだけですよね…」
帰宅部の練習以外はしてないよ!」
「う〜ん…」
「またそれも出所不明の噂なの?」
「はぁ」
なんだよ、急に。
色々な俺の噂がチラホラと流れ始める。
これは一体なんの前触れ?っていうか噂っていうよりも「アンダルシア学園の女王である『キミカ』には、こうあってほしい」的な理想像を感じるんだけど。そんな勝手な理想像をさも本当のように噂に流さないで欲しいよ、いちいち否定するのが疲れる。
「では、もうひとつ質問なのですが…」
「また噂の話ィ?」
「はい。キミカ姫は処女ですか?」
「」
俺はあまりにもインパクトのある質問が来たために思考停止し、それだけに飽きたらず、身体も動くことを止めて心臓すら停止した。
「殺スヨ…」
なんとか心臓を動かし、呪いの言葉を放った。
「い、いえ!噂です!噂なんです!」
「噂では処女って事になってるの?」
「はい、キミカ姫は処女であり、そして男性と経験を重ねたとしてもすぐに処女膜が復活し、永遠の美と共に永遠に処女であるという、」
「えっと…ちなみに『キミカ姫はウンチをしない』っていう噂も流れてたりするの?」
「あ、はい」
あ、はいじゃねーよォォ!!!
「処女とかいう部分はノーコメント…それとウンチは確かにしませんね…(ドロイドバスターなので…)」
「ふむふむ…ウンチはしな、エェッ?!」
「まだあるの?」
「えっと…あと、1年の女子でUさんが好きだという噂が、」
「そいつだァァッ!!!」
「え?」
「そいつが噂を流してるんだよォォォォォオオォォォォオオオ!!」
「Uさんっていう人を知ってるんですか?」
「ほら、昨日の午後休憩の時に自動販売機のところにいたアイツ」
「す、ストーカー野郎の牛塚ですね!!」
「あンのヤロゥ…(白目」
「キミカ姫!どうされるのですか?」
「コろシにィク…(黒目」
とりあえず俺とキミカファンクラブ団員達は昼休みにあのクソストーカー牛塚をひっ捕まえて拷問にかける作戦を実行に移す事になった。