105 S-Day 9

落ち着いているのは庭までだった。
「いるよォォォォォ!!!外にいるよォォォ!!!」
にぃぁの手綱を持ってにぃぁを引き摺りながら家に上がり込んだ。そして俺は叫んだ。力の続く限りひたすら叫んだ。
そして食事をしていたナツコ、マコト、ケイスケにことの次第を伝えた、が、ケイスケは相変わらず、
「そんな、ごじょうだんを」と言っている。
「マジだから!冗談じゃないから!」
そう言って俺はケイスケの家の監視システムは把握しているのでスイッチを押して侵入者監視システムを起動、寿司を食べていた和風な雰囲気のテーブルは一瞬にしてミッションコントロール室へと変貌した。
そしてホログラム表示された家の前の道路には明らかにこの家の人間ではないストーカー野郎の牛塚が映っている。
「な、何をしているんですの?あの人」
「この家を覗いてるんだよ!!」
木の塀の隙間から家をじっと見ている変質者、いやストーカー。
「け、警察を…!」
マコトが言う。
「フヒヒ…ついにボクチンの事が好きで好きで家まできて見つめている女の子が登場したわけですにぃ…」
「と、ケイスケは胸に秘めた恐怖を隠そうとするのであった」
俺はモノローグを口に出して対抗した。
ったく、何を言ってるんだよケイスケは。
「いやいや!本気でそう思ってますにぃ!!」
「はいはい、警察に電話した後に黄色の救急車も呼びますね」
とりあえず警察だ。
警察を呼んだ後はあのマジキチ女に機動隊をぶつけてライオットシールドでボウガンの矢を交わしながら接近させ、警棒でボッコボコにして始末してもらうぞ!!
俺はaiPhoneで警察に連絡。
『すいません、警察ですか?』
『はい』
『警棒でボッコボコにしてください!』
『はい?えっと、何が起きているのかゆっくりと話してください』
『家の前にですね、ストーカーがいるんです!』
『はい』
『それで家の中を覗いているんです!!』
『はい』
『早く射殺して!』
『ストーカーというのは、家の前にいる女性は今までストーカー行為をされてきたんですか?』
『そうです!早く!!』
『例えばどのような事ですか?』
『えーっと…バス停で待ち構えてたり、学食にケチつけたり、歯を磨いてたら向かい側の旧校舎から見つめてきたり、自販機に行ったら自分が買おうとしてたジュースを既に買ってて、』
『何か危害を加えられましたか?』
『え?危害ですか?今言ったような事を…』
『それでは…危害になりません、被害届は受理されません』
『え?!ちょっ、じゃあどういう危害ならいいんですか?』
『例えば怪我を負わされたとか、あと少しで死にそうになったとか…。そういう証拠の残る危害です。警察は基本的に民事不介入なので、危害が加えられてからの捜査・逮捕となります』
『危害が加えられてからじゃ遅いじゃないですかァァッ!!』
『もちろん、その為にストーカー規制法というのがあるのですが、これも証拠が必要になります。家の周りにいて中を覗いてる程度では、この法にはあたりません…』
くっそ!!
役に立たねぇな!!
殺られた側は殺られ損じゃねぇかコラァァァ!!
俺は電話を切った。
静かに切った。
そしてテーブルの上にある俺に用意されたお寿司を食べる。
「キミカちゃん…警察はなんて?」
「警察は基本的に民事不介入だってさ…」
「じゃあ、殺されるまで待てって事なのォォ?!」
「う〜ん…」
「でも、それで相手を殺しても逮捕されちゃうんでしょ?」
「日本の法律が被害者には不利なものになってる…これじゃ今までストーカー被害にあって殺された人達が浮かばれないよ…」
と俺は渋い顔をしているが、ケイスケは、
ヤンデレたんはぁはぁ…」
などとてんで方向違いの事を言い出す。
「ケイスケはいいなぁ、モテない男は自由でいいよね」
「まぁキミカちゃんは殺す事はあっても殺される事はないと思いますにゃん。フヒヒヒヒヒ…」
「そりゃまぁ、そうだけどさ…後味悪いじゃん」
「あ、あと、あじ…」
ケイスケが驚いたように俺のほうをみている。なんだよおい、俺がまるで人を殺してもなーんとも思ってないような無神経残酷野郎とでも言いたそうな顔をしてるじゃないかよォォ…。
「キミカちゃんから『後味』という言葉を聞くことにn」
俺はケイスケの後ろから腕を回して首を締める。
「ぎゃぁぁあああぁぁぁぁぁ!!ぎぶ!ぎぶあっぷ!!!」
とにかく警察がダメなら何か策を練らなけれならない。本当に面倒くさい。これも人間関係だ。俺はただ自由に生きていたいだけなのに、それを邪魔するものがいる…許さない、絶対に許さない。