105 S-Day 8

「ただいまにゃーん」
20時ぐらいにケイスケが帰ってきた。
俺はすかさずナツコとマコトにしたのと同じ質問をケイスケにする。
「ストーカーいなかった?」
「ストーカーァ?」
そうか、ケイスケはこの話は知らないんだった。
俺は嫌々ながらにもケータイ(aiPhone)に取り込んでいたストーカー野郎の写真をケイスケに見せた。
「ん?あぁ、そういえば…この人なら玄関の前で出会ったにぃ」
「マジデェァェ?!」
「誰なんですかぉ?」
「ストーカーだよ!!」
「キミカファンクラブの人間ですかぉ?」
「ちがーう!!そういうのとはまったく違うよ!!家までついてくるなんて!さっきバス停で降りたときは家に帰ったと思ったんだけどなぁ…くっそぉ…殺すか…」などと俺が言ってると、
「家の前をアンダルシア学園の制服をきた女子が通り過ぎただけじゃないのですかぉ?別に不思議な事でもなんでも…ないような?」
「アイツに朝からずーっとつけられてるんだよ、学食であたしが食べてるものにもケチをつけだしたし、本気で支配欲全快にしてきたような気がするよ。今日だけじゃないよ?今までもずーっとそれを繰り返してきたらしいんだよ!!あたしが気付かなかっただけで…うわぁぁ!!!考えただけで恐ろしい…恐ろしい事だァ…」
「えっと、まとめると、ストーカーは今までずーっとキミカちゃんについて回ってて学食の時にも食べるものにケチをつけてたけどキミカちゃんは気付かなくて、今になって気付いてどんだけ自分は周囲に意識しないで生きてきたのかと驚いてるっていう事ですかニィ?」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!違うよおおおぉぉォォォ!!」
俺はケイスケの肩を掴んでガタガタと震わせながら叫んだが、ケイスケは鼻くそほじりながら俺の話をまったく聞こうとしなかった。
「先生は今まで女の子にストーキングされたことがないからキミカちゃんの気持ちはぜーんぜんわからないですにぃ」
「ヌゥゥ……ん?!」
「?」
「今なんか物音しなかった?」
「気のせいですにぃ」
警戒する俺をよそにケイスケはステップを踏みながら家の中へと入り、
「今日のマコトちゃんの料理はなんですかにぃ?オッホォゥ!!今日はお寿司じゃないですかぉ!デュフフフヒィ…」
と言っている。
気になった俺は玄関から外へと出てゆっくりと門のあたりまで近づく。すると庭のほうから「にゃーん」と猫の声が聞こえる。
にぃぁが居ただけか。
ちなみにケイスケの家は門から玄関までは簡単な石造りだけど庭と道路の境目は木が植えてあるだけなのだ。だから道路に誰かいるのか気配でもわかるし、時々木々の隙間から見えたりもする。俺のみたところ今は道路には誰もいない。本当にケイスケとストーカーはすれ違っただけらしい。って言うことは今までここに居たってこと?
「にぃぁか、驚かさないでよもう」
とにぃぁがいるところまで庭に入っていく俺。
どうやらにぃぁは植え込みのあたりで何かを食べているみたいだ。人間の姿をしているとはいえ中の思考回路は猫なので時々こうやって野生のネズミなどを捕食していることがある。
「にぃぁ、何を食べてr…」
ん?なんでこんなところにピザがあるんだ?
にぃぁが食べているのは紛れも無いピザだ。デブ曰く正確には「ピッツァ」らしいがそれはどうでもいい、宅配の紙容器に入れられたピザがそこに置かれていてにぃぁは嬉しそうにそれを食べている。
「誰がこんなものを…ちょっ、にぃぁ、どいて」
にぃぁをどかせてピザ以外で何かないのか探してみる俺。
「特に何も…無いなぁ…ァ?…ああ?」
屈んでピザ入りの紙容器を見ていて俺、ふと顔を起こしてみると家の塀としての役目があった木々の間から誰かがじっと俺のほうを見ている。暗くて一瞬誰かわからなかったが、暗闇の中でニンマリと微笑むその顔はストーカーである牛塚以外の何者でもなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は思わず後方5メートルぐらい飛び退いた。
「先輩…そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか」
「なんでここにいるんだよォォォォォォ!!!」
たまたまここを通りかかっただけですよォ?」
「そんなわけないじゃん!!じゃあこのピザはなんなの?」
「フフフ…それはですねぇ…ピザじゃなくて『ピッツァ』って呼ぶものですよ?」ってそんなことどうでもいいんじゃコラァ!!
「どうでもいいよそんなことは!!!」
「先輩の家で飼ってる猫が可愛いからに決まってるじゃないですか〜。猫はピッツァも食べちゃうんですよォ?でも、このネコ、私の事嫌いみたいですゥ…酷いんですよォ?さっき引っかかれちゃいました」
と手の甲を見せるストーカー。
そこにはにぃぁの引っかき傷がある。にぃぁは彼女の事を本能的に危険だと判断したのだろう。しかし…つめが甘いな。ひっかくだけで終わらせるとは。ちゃんとトドメさせよコラァァァァ!!
「本当に…この猫は躾がなってないわ。先輩、こんな猫殺して先輩と似合う猫を私が買ってきてあげますね」
え?
何を言ってるの?…と俺の理解が終わらぬうちにストーカー野郎はとんでもない事をしたのだ。
…そう、にぃぁに向けてボウガンを放ったのだ。
俺はボウガンの矢をグラビティブレードで叩き落とそうかとも思ったのだが、にぃぁとは一度戦った事があるので俺が「攻撃行為」をしているとにぃぁに勘違いされるとまた戦わなきゃいけないのでやめておいた。たぶん、にぃぁはこの程度の攻撃は防げるだろうし。
案の定、にぃぁはボウガンの矢(ボルト)を口で受け止めた。
「え?」
とぽかんと口を開ているストーカー。
何かの間違いかと何度もボウガンの矢(ボルト)をにぃぁに向けて放つが全部を口で受け止める。ついには矢はからっぽになる。
「ニィィィィィィ…」
やばいな、にぃぁが攻撃をする前になんとかしないと。
「ほら、にぃぁ、家に戻るよ」
俺はそういってにぃぁの首輪から繋がっている手綱を手にとって引っ張り、家の中へと連れて行こうとする。それを唖然とした表情で見つめているストーカー牛塚の姿がそこにあった。