105 S-Day 6

学食での一件のあと、カフェテリアを騒がせたストーカー女が消え去って俺は安心し、いつもの食後の歯磨きをしていた。
教室の前には手洗い場などが並んでいたりもしてトイレまで足を運ばずとも歯磨きなどはそこで出来るようになっている。ただトイレと違って鏡は設置されてないのでもっぱら手洗い・掃除・歯磨き用になっている。ちなみに2年の教室は2階にあり、向かい側は化学室や家庭科実習室など授業で使われるだけの教室が並ぶ棟となっている。化学の時間で実験が行われるとなると教室移動は棟の間を移動することになるので休み時間を移動に使うこともある。これだけ大きな学校だからそれぞれの教室の間に距離があるのも仕方ないか。
だからか、向かい側の棟に授業以外で生徒が立ち入っているのは珍しいのだが、俺は最近気付いたのだ。こうやって歯磨きをしている向かい側の棟、ちょうど化学準備室があるのだが、そこにも手洗い場が設置してあるのだろうと。何故なら化学準備室で歯磨きをしている女子がいるのだ。今まで気にもしなかった。
気にしなかったほうがよかったかもしれない…。
何故か化学準備室で歯磨きをしている…牛塚が。ストーカーの牛塚が化学準備室で歯磨きをしてるよォォォォォ!!!しかも鏡のように俺の向かい側にいやがるよォォォォ!!!!
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は思わず叫び、歯ブラシを、はしたなくも手洗い場の中に落としてしまった。なんてこったもうこれは使えない!!!
牛塚はキミカ親衛隊に連行されたにも関わらず何故か解放されて化学準備室で歯磨きをしているではないか!
「姫、一体どうされたのでs」
と俺に話し掛けようとしたキミカ親衛隊、いや、キミカファンクラブ団員の喉元を俺は鷲掴みし、
「奴が…!奴がいる!!(迫真」
「え?そ、そんな、奴は…私がこの手で…この手で縛っておいたはず…!抜け出せるなんて…!!!」
「いいからここから向かい側の棟の化学準備室を見てよ!」
「…?」
俺は柱の影に隠れてストーカーからの視線を逃れた。親衛隊の男からは見えているはずだ。不気味に微笑み俺のほうを見ている真性マジキチストーカー牛塚が。しかし、意外な反応が返ってきたのだった。
「どこですか?」
「…え?…あれ??」
俺は柱から顔を出して見てみるもさっきまで化学準備室で歯磨きをしていた牛塚が消えている。この僅かな間に移動したというのか?
「姫はお疲れのようですね」
とキミカ親衛隊は余裕の笑みを漏らして俺の頭をぽんと軽く叩く。
「え?いや、だって、マジで…」
「ふふふ、大丈夫ですよ(微笑み)我ら親衛隊は姫に危機あらば世界の反対側から、いや、もし次元の異なる世界に居たとしても3次元の世界へと戻り、不躾者を叩き潰します!!」
ストーキング野郎につけまわされていたから俺は疲れてしまったのだろうか。でも確かに奴の姿はそこにあったんだ。化学準備室で歯磨きをしていた。コップにはビーカーを使っていた。
それから午後の授業が始まる。
休み時間に喉が乾いた俺はケータイを持って1階の休憩室にあるジュースの自動販売機に向かった。その間ももちろんだが警戒を解かなかった。なんか常に視線を感じるのだ。いや、今朝から色々とあったから余計に敏感になっているだけかもしれない…。
俺が自販機にお財布ケータイ(aiPhone)をかざそうとする、と、何故か既にお金は入ってて…しかも俺が飲みたかったジュースが既に選択されているではないか。
「なんだよもう、気前がいいなぁ…ふふふ」
と笑っていると、ヌッと自販機の脇から女が、いや、正確には「ストーキング牛塚」が現れたのだ…!!
「親ンン衛ィィ隊ィィィ!!」
俺が叫ぶと本当にどこに隠れてたのかっていうぐらいにキミカ親衛隊、いや、キミカファンクラブの団員達が集まってきた。
「「「「この不審者め!!」」」」
親衛隊はいっせいに牛塚を取り囲んだ。
「なんのようなの?!貴方達は!!私はキミカ先輩の為にここで待っていただけです!!」
ってか待っていた時点で不審者だろうがォラァァァ!!
「ここで待って何をしようとしてたんだよ!」
俺が聞くと、
「キミカ先輩は普段から5時限の終わりに喉が乾いてこの自販機に訪れていたから私は気を利かせて先輩が購入するであろうジュースを準備しておいただけです…フフフ…」
なんでそれがわかるんだよォォ!!!
キミカ親衛隊の男子は30センチ物差しを剣のごとく牛塚の首筋に突きつけながら、
「バカも休み休み言え!!キミカ姫がジュースを購入するタイミングを見計らって、しかも何を購入するのか既に把握していただとゥ?!そんな話があるか!!ここで何をしていたんだ!正直に言え!」
しかし牛塚は余裕の笑みを浮かべ、
「あら『キミカ親衛隊』と名高い貴方達でもキミカ先輩の行動パターンまでは読めていないのね?私はずーっと昔からキミカ先輩の事を見てたから何を欲しているのかもぜーんぶわかるんだから!これが格の違いって奴じゃないの?貴方達は親衛隊とか名乗ってるけど、キミカ先輩の何を見てきたの?そうやって威張ってるだけじゃない」
と言った。
「グヌヌ…言わせておけばこのアマ…」
「では質問、キミカ先輩が一番好きなジュースはなんでしょう?」
「え…?」
「えーっ?わからないのォ?(アヘ顔」
確かに俺の一番好きなジュースがあるわけだが、それはこの学校の自販機で取り扱っているようなものじゃないし、値段だって1000円以上する。しかしこの女、何故それを知ってるのだ?いや、カマかけてるだけか。本当は知らないのかな?
親衛隊の男は俺の方をチラチラと見ている。自分が俺の好みを知っていない事への懺悔の念たっぷりの悲壮感漂う顔で。
「ヒントは…スタバ」
とニヤリと笑うストーカー。
くそ…やっぱりこの女知っていやがるな!
「す、すたば…なんとかフラペチーノ…?」
「なんとかの部分は?」
「くっ…」
がくっと肩を落とす親衛隊。
「正解は、クワトロベンティクラシックキャラメルバニラアーモンドヘーゼルナッツアドジェリーエキストラチョコレートチップエキストラチョコソースエキストラキャラメルソースエキストラホイップエキストラシロップノンティーゆるめマンゴーパッションフラペチーノでしたァ!!!ざーんねーん!親衛隊の癖にキミカ先輩の一番好きなジュースも知らないだなんて!!」
いやいや、それ知ってるほうがオカシイだろう!!
「キミカ姫…すいません…不甲斐ないばかりです。我々は改めてキミカ姫の事を1から勉強しなおし出直します」
と言って去っていく親衛隊…っておい!去っていくな!