105 S-Day 5

牛塚は他の生徒と違ってバイキング料理を運んできてはいない。
手に持っているのは自前のお弁当だろうか…。学食はタダなんだからそれを食べればいいのに、っていうか学食は『学食を食べる人しか来てはならない』ってルールがあるのに学食食べないで自前の弁当持ってきてるこの女は何なの…?
「先輩!ここ、開いてます?」
と俺の横の椅子を指さす牛塚。
「いや、開いてないよ!」
その俺の返答に同席しているユウカやナノカやナツコは「うわぁ…苦しい言い訳してるなぁ…」などと言いたげな顔で苦笑い。いや、そこ笑うなよ、笑うところじゃないから。ストーカーと話してるシーンだから、笑う要素無いから。
「誰か来るんですか?」
「えっと、居るんだけど居ないような、そういうクラスメートが1名ほど居て、それを認めちゃうと厄災が始まってしまうというか…」
「それは死者を殺せば収まる厄災ですね!」
と言い、強引に椅子に腰掛けやがった。
そこでマコトがようやく助け舟を出してくれる。
「やめろよーゥ!!迷惑してるだろう!!」
「そんな!迷惑してるんですか…?」
「だってストーキングしてるし」と俺が返すと、
「してません!私、ストーカーじゃないです」
と言い出す。
マコトはさらに続けて、
「じゃあなんで今朝のバスの時居たのさ?キミカちゃんの家の近くに住んでないじゃんか!」
「いつもお散歩してから学校に行ってるんです!」
嘘だぁ…こいつは大嘘つきだぁ…。
「嘘だァ!!」
鬼気迫る顔で反撃するマコト。
「嘘じゃないです!!そっちのほうがよっぽどストーカーじゃないですか!いっつもいっつもキミカ先輩にベッタリしてて」
おいおい、マコトをストーカー呼ばわりかよ。
「キミカちゃん、なんとか言ってやってよォ!」
と叫ぶマコト。しかし以外にもコーネリアが口をはさみ、
「マコトハコノ前キミカノリコーダーヲ吹イテイマシタァ…」
とマコトを指差して言う。
おい。
「え、ちょっ、黙ってるって言ったじゃないかァァァ!!」
って、事実なんかい!!
ガクガクとコーネリアの肩を掴んで揺らすマコトをよそに、さっさと自分達の空気を作りたかったのか、牛塚は周囲の空気は全部無視して、
「キミカ先輩の為にお弁当作ってきたんです!」と言い出す。
「え?学食があるからいらないよォ…」
「こんな栄養バランスがとれていないもの食べちゃダメですよ!」
余計なお世話だっちゅぅねん。
イソイソとお弁当を広げる牛塚。
目がギラついてて怖い。これがマジキチストーカーか。
「ん…んんん?!」
マジキチストーカー牛塚が持ってきた弁当は本当にマジキチだった。コーネリアと言い争いをしていたはずのマコトがそれを止めて弁当に目が釘付けになるほどに。
まず主食…本来ならそこにはご飯が入るはずの場所、そこにあったのはこんにゃくゼリー3個。おかずは…ソイジョイ(朝食の代わりなどに使われる事もある栄養食)そしてカロリーメイト。あと、カラカラと音がしたから何が入ってるのかと思えばビタミン剤がある。
これは…食事といえるのか…?
「Hey…What…Is…コレハ軍隊ノ食事デスカ?」
「栄養バランスを考えた食事です!」
何が「栄養バランス」だよ…。
こんな食事が出てきたら多分運んできた奴の腹に思いっきりパンチをブチ込んでケツの穴からクソを捻り出させるぞマジで。
「これでちゃんと300キロカロリーになってるんですよ?」
だからなんなんだよ!!
300キロカロリーがどうかしたのかよ!!
「もぐもぐ」
メイリンが早速やらかしてくれた!ストーキング野郎が俺に向けて作っていた弁当(作ったっていうよりも、入れたと言うべきか)の一部、ソイジョイを取り出して食べたのだ。
そして一言、
「学食より不味い」
と言い放つ。カッケー…メイリンさんカッケー!
「ちょっ、何してるんですか!!これはキミカ先輩の為に作ったんですよ!なんで貴方が食べるんですか!!アアアァァァ!!(髪を掻き毟るストーカー)もう最悪!せっかく300キロカロリージャストにしてたのに貴方のせいで250キロカロリーになってしまったわ!!」
叫ぶマジキチストーカー牛塚に学食に来ていた生徒達の視線が集中している、が、まったく気にする様子はない。
ユウカは、
「それが健康的だってどういう基準で決めたのよ?」
とニヤニヤしながら弁当を見る。
「し、知らないんですかァ?!この栄養食品はシンプルだけど一日に必要な栄養素がちゃんと全部入ってるんですよ!!」
「でも300キロカロリーって成長期の高校生の食べる量としては少なすぎるとは思うわ、ダメダメじゃん、これはダイエット食よ?」
「いーえ!私が実践して健康的だったんだから健康的なんです!」
あくまで自分の言ってる事が正しいと決めつける牛塚。しかし、一日に必要な栄養素っていうフレコミは何処のマスコミもやるけども、アレは他の食事がある上でという原則があったはず。
俺は、
「人類にはまだ未開の栄養素があるのにどうしてこれで一日に必要な栄養素が全て入ってるって言えるんだよ、栄養素の中には新鮮なものの中にしか存在できないコエンザイムみたいなものもあるんだよ?」
と言ってあげる。
「だ、だって…!!私、先輩の為を思って!」
うわぁ…うぜぇ…。
そこでマコトが間に口をはさみ、
「実際に色々な国の料理はバリエーションが多いところが健康的に過ごせているんだから、一概に必要な栄養素を絞ったものはダメだと思うけどな。健康オタクのひとりよがりだよ」
「フンッ!あなた、台湾人なんですってね!台湾の料理なんて何が入ってるかわからないです!キモチワルイ!!」
「ガーン…」
台湾料理をバカにされるとメイリンも黙っていられないようだ。そもそも中華料理の一端でもあるしね。メイリンが参戦。
「おい、中華料理の一端である、台湾料理馬鹿にする、お前、中国4000年の料理文化をバカにしてる。カロリーメイトソイジョイも、まだまだひよっこ、そっちのほうがキモチワルイ」
「中華料理なんて足があるものはテーブル以外はなんでも食べちゃうゲテモノ食文化じゃないですか!キモチワルイ!」
確かにそれはキモチワルイな。
そしてこの争いの中には決して踏み出そうとはしないコーネリア。料理の不味さで言えばイギリスと肩を並べる程に適当だからな、アメリカ料理は。いや、アメリカ料理という分野が存在しているのかすら怪しい。言われて食べてみたらメキシコ料理だったり中華だったりする。
アメリカ料理は不味いな」
と突然メイリンが話題を振ってくる。
「Hey…ドウシテ私ヲ巻キ込ムノデスカー?」
「不味いからだ」
「不味クテモ、ミンナ食ベテ生キテル…!!」
我慢して食ってたのかよ。
そこでようやく親衛隊が登場してくれた。
キミカ親衛隊とメイの姿がちらっと食堂に見えた。すると牛塚は動物的な感で危機を察知したのか逃げ出そうとする、が、あっという間に親衛隊に拘束されて両腕を掴まれたまま連れて行かれた。
「任務ご苦労です」
俺はメイに敬礼をする。
「おねぇ様がご無事でなによりですわ!」
メイが敬礼で返す。
ひとたび災難は去ったのだが…また来そうな気がする。