105 S-Day 4

給食の時間。
アンダルシア学園食堂。
俺は周囲に特別な警戒を払いながら野菜ばかりのバイキング料理の行列の後ろへと並んだ。確かメイの話だと牛塚ってストーカーは俺が取った料理と同じものを選んで盛り付けも合わせるらしい。
しかしその姿は見えない。
もう俺は列の真ん中あたりまで進み既に盛り付け用のお皿・お盆などをキープして後は料理を乗せるという段階まで来ている。
「さすがに来ないか。メイはちょっと神経質になってるだけかな?」
なんて言いながら普段と同じように野菜ではなく肉っけの多そうな料理を皿に盛っていく。そんな俺に張りあうようにメイリンは同じ料理を皿に俺の3倍ぐらいの量で盛り付ける。
そしていつものテーブル席にいつものメンバーが陣取る。俺、ユウカ、ナノカ、ナツコ、メイリンにコーネリア、マコト。大所帯である。
ちなみにライスのお皿は「茶碗」というものが存在しないため、形がまだ似てて許せるスープ用の皿にご飯を盛りつけて食べている。箸も無い為、マイ箸を自宅から持参して食べる。
「それで、どうなの?ストーカーは来てるの?」
とユウカ。
「シィー!聞こえたらどうするんだよ!」
俺が注意するもニヤニヤと反応するだけだ。
コイツは人の不幸が楽しいらしいな…それともモテない自分に比べてヨリドリミドリの五月ミドリ状態の俺がその能力故に、俺を猛信してる信者のうち1名に苦しめられているという現実を見て「キミカがモテるから悪いのよ?反省しなさい」とでも言いたげな顔だ。
「モテる女はつらいわねぇ〜」
とニヤけるユウカ。
クッソゥ…言い返せない。モテるのは事実だしな。
「キミカっちを狙ってる女子は意外と多いと見た」
そう言うのはナノカだ。
「ファンクラブは男子だけだと思ってたよォ…」俺が返すと、
「1年の女子には人気あるみたいだね、キミカっち。でも同学年と先輩からは敵対視されてるみたいだよ、やっぱり見え方が違うのかな?」
「見え方ァ?」
「後輩とか同級生は可愛く見えるからキミカっちにとっての先輩は同級生は敵視するんだよ、ライバルが来たァ!って思って。そんで、後輩から見たらかっこよく見えるから攻められた〜いって思うんだよね」
「でも水泳部の女子はあたしの事は全然嫌みたいじゃん、レズっぽいからって。ま、レズだけどね」
「あ〜、水泳部の女子の後輩かぁ…。そうかも?みんなキミカっち目当てじゃなくて男子と男子のトンデモナイモノが目当てだからねー!」
「男子と男子のトンデモ…そこにノンケは存在しますか…?」
「…しません…」
「うわぁ…」
俺がもし男で水泳部に入部していたのなら水泳部の女子の一部は俺と誰か別の男をカップリングさせて脳内でセックスさせるんだろうな。可哀想に水泳部の男子諸君は…穴がもうひとつぐらい開くまでホモ・セックスさせられてるんだろう、彼女ら腐女子の妄想の中で…。
そこでマコトは、
「ノンケってなんなの?」と俺に聞く。
「えっと、『異性に恋する正常な男子』」
「え…えええ?!男子水泳部では…何が…行われているのォォ!!」
「チンチンにウンチが付いちゃうセックス」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!やめてよォォ!!キミカちゃん食事中になんてこと言うんだよォォォ!!!」と言うマコトに続いて「Heeeeeeyyy…」と白い目で俺を睨むコーネリアと「汚いやめろ」と制するメイリン。しかし、俺はウンチ系の話題には免疫があるからな、全然平気だぜぇ?それはいわゆる兵器だぜぇ?
と、俺はティッシュの先っちょに誰かが持ってきていたカレーのルーをつけて、その後丸めて、テーブルの上に放り投げ、
「ウンチの拭いた紙を置いたのは誰だよォ?!」
とキョロキョロしてみる。一部始終を見ていたメイリンは「キミカ、大人気ない、情けない」と言い、「アハハハハハ!!」とナノカは大喜び、ユウカは苦虫でも噛み潰したような顔でその光景を見ている。そしてコーネリアは「Hey…!!What…The…F…」と言いながらティッシュをつまんで投げたりもするし、マコトは必死それをかわして投げ返したりもする。そんな彼女らの反応を見て楽しむ俺。
しかしつかの間の安らぎもあっという間に終わってしまうものだ。それがカオスの中の平和であればあるほど僅かな時間に感じてしまう。
コーネリア・マコトが互いにキャッチボール…じゃなかった、投げたり投げ返したりしていたウンチ付きティッシュがたまたま俺達のテーブルに近づいてきていた女子に当たったのだ。
「ヒィッ!!」
と小さな叫び声を上げるその女子…しかし、その声を俺は忘れては居なかった。体育の水泳の時間で2年のコースまで強制的に侵入してきた女子「牛塚」だったのだ。
「ゲェッ!」
その牛塚を見た第一声は俺の「ゲェッ!」だった。