103 魂の在り処 4

到着は俺達のほうが早かったようだ。
そしてセッティングも完了。
どうやら頭につける検査機器は「ヘッドギア」と呼ぶらしい。どこかで見たことあったと俺の記憶の中とのマッチング検索をかけていたんだがそういえば前にユウカの頭に幽霊的な何かがついた時にも市内の精神病院で脳の中を調べた覚えがある。
「準備がいいな…知ってるのか?」
「前に友達が幽霊に取り憑かれた事があって…」
「それはそれで凄いな」
ソラはそれから携帯の端末を機械に添えつけてあるコンピュータに接続して通信モードをオンにした。これで遠隔診察をするのか。
「おい、デブ。こっちの準備は出来たぞ。ちゃちゃっとやってくれ」
『了解ですにぃ』
電話越しから聞こえるケイスケの声。しかしアニメっぽい甘ったるい声が後ろからBGMのように聞こえるからきっとこれは録画しているアニメを消化しているんだろうな。
『にぃぃ…』
ケイスケが唸る。
『ちゃんと機械と接続はしてるんですかにぃ?』
そして質問。
「接続してるぞ?」
『ヘッドギア外れかかってるんじゃないのですかにぃ?』
「いや…ちゃんとついてるよな?」
俺がつけたんだから間違いないはず。
もう一度確認するがヘッドギアはちゃんと高倉のオバちゃんの頭にすっぽりとくっついてる。ちなみに過去にユウカを診察した時と同じようにしてるから付け方も間違いないはずだ。しかし…
『本当ですかぉ?なんだか…あれ…?』
「どした?」
『こりゃ…凄い事になっていますにぃ…』
ケイスケが言う。
また幽霊だのなんだの恐ろしいものが映像データとして残されてるんじゃないのか?俺の時もそうだったっけな、後で映像をダイジェストとしてデータディスクに録画して観せてくれって言ったのに全然やってくれなかったしな!今思い出したよ!そういえばそうだ、俺が幽霊に取り憑かれた時は頭の中のデータに本当にあった呪いのビデオ制作委員会も真っ青な恐ろし映像が記録されていたはずなのに!!
『キミカちゃんの頭みたいにスッカラカンですにぃ』
「おい」
俺は思わず電話口のケイスケの声にツッコんだ。
『いや…キミカちゃんの脳よりかは少し詰まって、』
「おーい」
『とにかく、自我のデータが損失してるにゃん』
「それは大事じゃん、あたしの脳は自我があるからね!」
『キミカちゃんの脳は自我というか脳みそがスッカラカンに、』
「殺ス…」
『ひぃぃぃぃぃぃぃッ!』
スッカラカン
自我が喪失している状態…。
それが俺よりもまだ脳ミソが詰まっているということか…!!というのは置いといて、とにかく高倉のオバチャンはそういう意味で通常とは異なる状態なのだろう。
以前、ユウカが脳を何者かに乗っ取られた際には残留思念のようなものだった気がする。またはそれを「幽霊」と呼ぶのかもしれないが、あの時とは状態が異なる気がするのだ。
俺はそれについてケイスケに聞く。
「まえにユウカとかが幽霊に身体を乗っ取られたような事があったじゃん?あの時とは状態が違うっぽくない?」
『え〜…ビッチさんがですかぉ?そんな事ありましたかにゃん?』
「あったよ!」
『あぁ、確かあの時はちゃんと脳の中が見れて記憶の断片も見れていましたにぃ。キミカちゃんはまた幽霊がどうのこうのという線だと思ってるのですかにぃ?』
「うん」
『でも精神病の類でもこういう兆候は見られるから一概には…』
この前起きたケースだと記憶の中に残留思念が持つ記憶を書き込まれた。強制的に。でも今回のケースは自我が損失している。これは消されたという事なのだろうか…。
「さっきからケイスケが言ってる『自我が無い』状態って、自我の領域が真っ白に上書きされているような事を言うの?」
と俺は質問してみる。
「コンピュータで例えるのなら脳がCPUとメモリーで自我はプログラムのようなものですにぃ。そのプログラムが身体を動かしたり、想像したり、夢を観たり。もちろん、心臓を動かしたり肺を動かしたりするのは自我以外の回路がやってるので自我が無くても人は生きてはいけますが基本的な事しかできなくなるにゃん。自我は人によっては複数あるし、変化もするけど、基本的には記憶や経験から作られますにぃ」
つまり、自我が消えてるっていうのは経験や記憶を残したまま自我っていうプログラムが起動されていない状態…っていう事か。
う〜ん…。
俺とケイスケのやりとりを聞いてマコトは震えながら、「きっと祟りだよぉ!!呪われてるんだよぉぉぉ!!」と叫んでいる。
「信者カラ金ヲ巻キ上ゲタカラデスネーッ」とニヤニヤしながらコーネリアはメイリンを見る。
「私、金を巻き上げてない」
きっぱりとメイリンはこの事実を拒否した。
ふと思ったのだが…
仮に呪いだとしてどういう理由なのだろうか?
自我を損失させるような呪いなのか?
前回の廃病院での幽霊に乗り移られた件は?アレも呪い?
もし…もしの話だが、仮に幽霊が居たとして、それらが何を望んでいるだろうか?望んだ結果になっているはずじゃないか?
廃病院では自分が死んだと思っていない何かしらの霊が、生きている人間の身体を乗っ取ったが、それは人間の身体を器として使うためだ。だから器である身体の中に残留思念…つまり、幽霊の持っている情報が書き込まれた。しかし今回の場合はそれがない。
ここから導き出される答えは…幽霊は高倉のオバチャンの自我を停止させるか、または持っていった…?
「持っていった…持っていったんじゃない?持っていったのほうがしっくりくるよ。今、高倉さんの『自我』はあの黒くて長い髪の幽霊が持っていってるんじゃないのかな?」
「デモ幽霊ガヤル事ダカラ分カリマセンヨォ?滅茶苦茶ニシテイッタノカモ知レマセンンン…」
う〜ん…幽霊も幽霊として存在している理由はあるんだろうから何かしらの目的を持って行動するだろうけどなぁ。しかし、幽霊の気持ちになってみて考えるっていう突拍子も無いベクトルでの俺の考えがそう易々と通るような世の中ではないような気もする。得体の知れないものだからそれらが与える影響も得体の知れないものになるのかもしれない。例えば自我を消してしまったり。
「とりあえず次に何をしなきゃいけないか、それを決めないとな」とソラが言う。続いて「俺達でその答えが出せないのなら専門家に聞くしかないだろう」と言った。
専門家…。
俺はこの言葉には抵抗があるな。
少なくとも高倉のオバチャンが専門家を偽って開業してるからこの言葉に対する信憑性が俺達の中では薄らいでいるんだよなぁ。