103 魂の在り処 3

俺達はソラと一緒に島根まで移動する。
とある精神病院に運び込まれて現在は部屋で寝ているという話はキサラが聞いていた。しかし彼女はそれでも同伴まではしなかった。それほどに出会いたくない事情があるらしい…。
ちなみにケイスケにも同伴を頼んだらしいがアニメを消化しなければならないからという理由で帰宅したのだった。ではどうやって精神病院に寝ている高倉のオバちゃんを診てあげれるのか?最近はとても便利な技術があり遠隔操作で診断が出来るらしい。
辿り着いた精神病院は山の麓にあり周囲は綺麗に整地されていて一見するとスポーツ施設の本館みたいな雰囲気がある。しかし普通なら「○○総合市民病院」だとか「○○整形外科」だとか病院名にはそこが何の病院なのかを示す文言が添えてあるのに対して俺達が辿り着いた場所にはそれらはなく「西川病院」とだけあった。西川病院が何を専門とするのか、それはここに勤務している人達と入院している人達、及び関係者しかわからないし、わかる必要もないのかもしれない。
待合室は普通の病院の待合室とは違って人でごった返していないし、用意されている長椅子が使われる機会はそれほど多いようにはみえない。そんな淋しげな待合室は人が居ないのにわざわざ電気を付けるのも勿体無いと判断されたのか節電として消灯されており薄暗い。
唯一明かりが漏れているのは受付だけだった。
「高倉さんはいらっしゃいますか?」
ソラが受付に話を聞く。
事前に高倉のオバちゃんの部下(信者)が話を合わせていたらしく怪訝な目で見られるわけでもなく俺達は病室へと案内された。途中の廊下も普通の病院と同じで決して鉄格子があるわけでもないし、病室から叫び声が聞こえるわけでもなかった。ちょっと期待はしていたけども高倉のオバちゃんの寝てる病室もそれは同じで鉄格子は無かった。
「高倉さん、俺です。ソラです…」
そう言いながらソラは病室の扉を開ける。
「うわッ」
ソラは病室に入った途端に驚きの声をあげる。
俺達は彼に続いていたので巨大な背の後ろからは何に驚いていたのかは見えないが病室はやっぱり何故か少し寒い。しかし、ひんやりとした冷たい空気が扉から俺達に向かって流れでてきてるから嫌な予感だけはしていたし、その予感が自信を持って高確率で当たる事も予測できた。
ん…?
高倉のオバちゃんは元気そう。
…じゃない!!
顔はやつれて頬骨が見えているし、目の下にはクマがあり、目の縁は真っ赤に充血していて、その気味悪い目を見開いてベッドの上で正座して身体はフラフラと前・後ろに動いている。これを本人が意識してやってるわけじゃないようなのだ。
ソラの問いかけにも答える様子がない。
「おいおいおいおい…どうなってんだよ…」
ソラが言う。そして高倉のオバちゃんの肩を掴んで揺らして、
「高倉さん?高倉さん?!」
と言うがまったく反応がない。
それを見たメイリンは教祖だった時に信者にお仕置きでやったように袖を捲って電撃を走らせて「ショック療法試してみるか」などと言ってる。しかしそれはソラによって却下された。
「とにかく、まずは調べよう」
「精神科の先生にもわからない事がケイスケ先生にわかるのかな?」
とマコトが問う。
「精神病という線で調べていたら異常が見つからないだろうな。病気ってのはなんでもそうだが、調べる対象がハッキリしている時だけ調べられるんだよ。心配すんな、生物学と魂云々の話はアイツの十八番だ。と、それよりも高倉さんの身体を運ぶのを手伝ってくれ」
検査機械が置いてある部屋まで運ぶのか。
俺はグラビティコントロールで高倉のオバちゃんの身体を宙に浮かせた。ただでさえ異様な雰囲気を醸し出していたのだ、それが宙に浮いたとなると傍から見たらそろそろエクソシストが必要なんじゃないかって思わせれる。
「検査室は…(と、ソラは携帯で地図を見ている)この下だな。2階のちょうどこの下だ。廊下を見張っててくれ」
「2階なら窓から下ろしたらいけそうだよ」
「窓からって…いやまぁ、確かにそうだが…」
俺は窓から高倉のオバちゃんを放り投げてグラビティコントロールで2階までゆっくりと降ろした。俺も一緒に。そして「誰か中から2階の扉をあけて」と言った。
「待ってろよ、よし、みんな急いで2階の検査室に行くぞ」
マコトとメイリンはグラビティコントロールが使えないのでソラについて2階へとエレベーターで向かった。一方で俺とコーネリアは窓からゆっくりと降りて2階の検査室前(想定)で待機。
「Hey、キミカ。ココニ扉作ッテミマショウ」
「え?」
コーネリアは壁に手を添えるとコンクリートだったところが光輝いてゆっくりと扉へと変貌していく。鉄の扉である。
「エクスキューズ・ミー…」
そしてその扉を開けるコーネリア。
「わうぁぉ…すごい」
物質変換の能力に驚きながらも俺とコーネリアは真っ暗な検査室の中へ、精神病院の建物の外壁コンクリートを鉄の扉へと変えたところから検査室の中へと侵入した。