103 魂の在り処 2

放課後、全校放送で連絡があった。
普段なら特に注意して聞くわけでもない全校呼び出しだったが、あるキーワードが伝えられた事で、もしやと思わせたのだ。
「16:00時よりデブの皆様は旧校舎デブ部室へ集まってください」
デブ…?
放送を聴いていた他のクラスメートからも「デブ?」「デブの人はデブの部室に集まるの?」「誰だよデ部ってデブ用の部活を用意した奴は?」「(クスクス)」という声がちらほらと聞こえてくる。
デブってD部の事じゃないのか。
正確には発音するのなら『ディー部』なんだけど、連絡する人が読み違えたのか…それを知っている俺達(メイリン、コーネリア、マコトと俺)は複雑な心境でその全校放送を聴いていた。
そして案の定、俺達がD部部室に向かうと部室の前にはアンダルシア学園屈指のデブが集まっていた。中にはケイスケもいる。
「これから何か始まるんですかぉ?」
「先生もデブの部員なんですか?フヒィ…」
「先生は部員じゃないですが、ひょっとしたらデブ部の催しでなんかデブを喜ばせるような食べ物とか配るんじゃないかって思って僅かな可能性に賭けてみて集まってきた次第ですにゃん」
「フヒヒ、僕も同じです、フヒィ」
などとデブ同士の会話が聞こえる。
そしてケイスケ(担任)は俺を見てから、
「キミカちゃんはデブじゃないのになんでデブ部の催しに来てるんですかにぃ?」などと言ってる。もう催しがある前提で話が進んでる。
すると部室の扉が開き、キサラがひょこっと顔を出した。そして、
「何?アンタ達は?」
「フヒィ、デブの催しに来ました、フヒィ…」
「一体どういう催しよ?!消えなさい!!」
そう言って「シッシッ」と手を振って豚でも追い払うかのように集まった暑苦しいデブ達を部室前から退けた。
残念そうに場を離れるデブ達。その間を縫うように長身の男、ソラが部室へとやってきて「だから言っただろうが、デブじゃないって。俺の記憶では『ディー部』だったんだよ」とキサラに言う。
おい…キサラが放送係に間違えて「デ部」って伝えたんかい…アンタが考えた部活名だろうが…。
俺達は部室へと入った。そして、ディー部の部活顧問キサラ先生が王座のような椅子に座って俺達に話を始めた。
「ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」
てっきり俺はコーネリアの修行についての話かと思っていたのだが、雰囲気的にはそういうものでもなさそうだ。真面目な顔でキサラは、
「アンタ達、霊能者に何かしたの?」
と言う。
「何かあったの?」
俺が聞くと、
「何かあったのっていうレベルじゃないわよ!高倉のオバチャン、黄色の救急車で鉄格子付きの病院に搬送されちゃったわよ!」
ま、マジで…?
「黄色の救急車の部分はキサラの着色だがな」とソラ。
「黄色だか白色だか白と黒のパンダ色だかどうでもいいのよ!」
パンダ色の車は病院じゃなくて留置場行きだからある意味俺達の立場がヤバイな。とりあえず俺は思い当たるフシがあったので、
「だってメイリンが、」と言いかけるも、
「私は何もしていない!」
メイリンは完全に拒否。
「なになに?メイリンちゃんが何かしたの?」
「信者から金をぼったくってた」
「…それは関係なさそうね」
ここへきてマコトが思い出したように言う。
「そ、そういえば…なんだか霊能者さん、幽霊が見えたとか言ってなかたっけ…?あの日、ボク達、帰りに塩をセッティングして帰ったよね」
その話を聞いたソラもキサラも呆れるような顔で、
「何言ってるのよ…霊能者が幽霊見えてなんで黄色の救急車で鉄格子付きの病院へ運ばれるのよ?見えて当たり前でしょうが」
う〜ん…どこから説明するべきか。
キサラはあくまで高倉のオバチャンが霊能者という前提で話をしているようだ。あの人はインチキ霊能者であって、本来なら幽霊は見えてないし、だから見えてて大慌てだったわけで。
っていうのを俺はとりあえず親切丁寧にキサラに教えた。ついでに教祖として荒稼ぎをしていた事だとかサリンを生成しようとしてた事だとか、最高裁までいっても法廷で何一つ語らなくて死刑が確定しているとか、幹部の連中は既に死刑になってるとか。
「ふむふむ…オウム真理教って怖いわねぇ…」
納得するキサラを前に、
「キミカちゃぁぁぁぁん!!話を逸らさないでよォォォ!!」
マコトが吠える。
「ごめんごめん、ついつい面白くなって」
「どこからが空想なのよ!!!」
「えっと、地下鉄サリン事件あたりからは空想」
「98%ぐらい空想じゃないのよ!!時間が勿体無いじゃないの!!」
ソラが間にはいる。
「とにかくだ、それで盛り塩をして帰ったんだな?」
「そうそう」
「盛り塩はどこにしたんだ?」
「部屋を囲むように…」
と答えた俺を見て、キサラもソラも顔を見合わせる。
「あんた…盛り塩は入り口にするものなのよ…」
キサラは冷や汗を掻いて俺にそう言う。
「あ〜、そうだと思ったんだよね〜。だってマコトが、」
「ええええええ?!知ってるなら教えてよォォォ!!」
ソラは言う。
「本来なら入り口にするはずの盛り塩を部屋を囲むように…って事は、結界を張った事になるわけだが、それは既に部屋に入ってる邪悪なものの逃げ道を塞ぐ事になるわけだから…」
それに続いてキサラが言う。
「高倉のオバちゃんが危ないわ!」
「いや、既に病院に運べれてるからな。過去形だ」
「と、言うことは、危なかったわけね」
「こら、終わらせるな」
「とにかく黄色の鉄格子のある病院へ行くわよ。高倉のオバちゃんを調べれば何かわかるかも知れないわ」
もう既に黄色と鉄格子があればキサラの中では納得らしい。素直に精神病院って言えばいいのに。
「こういう心霊ネタならあの人を呼んで調べてもらったほうがいいかも知れないな」とソラはキサラに助言する。
「あの人?あのデブ?あら、さっききてたのに」
ケイスケの事か…。