103 魂の在り処 1

インチキ霊能者高倉の信者達の集まりで色々とやらかした俺達だったが代理教祖(メイリン)とその配下の者(俺、コーネリア、マコト)が儲けた金はたいした額にはならなかった。
それでもメイリンは更衣室で巫女さんコスチュームから制服へと着替える時に儲けた金をブラの間に挟んでニンマリと笑っていた。
その時だった。
屋敷の奥のほうから叫び声が聞こえたのだ。
この声は高倉のおばちゃんじゃないか。俺達はとりあえずは急いで声の聞こえたほう、高倉のおばちゃんの寝室へと急いだ。
「入りますよ!」
マコトが先陣をきって扉を開けた。
まず見えたのは俺達が高倉オバサンの寝室に最初に来た時もそこにあった高級ベッド、そしてその上で身体を丸めて横たわる霊能者の高倉オバサンだ。ガクガクと震えて尋常ではない様子だった。
「大丈夫…ですか?」
そーっとドアを開けて周囲を警戒しながら中へと進入する俺達。しかし、コレといって誰か部外者が部屋に侵入したような形跡はない。ただ一つだけ異常をあげるとすれば部屋の温度がまるでクーラーでも効かせているかのように冷たいことだ。いや…この冷たさはクーラーなどという室温的なものじゃない。
小さい頃に風邪を引いて寝込んだ事があったが、熱が高くなる時に背筋が凍るような…身体が倦怠感に覆われるような…あの居心地の悪い寒気、それに似たものが部屋の中にあったのだ。その寒気をどう扱えばいいのかわからない。あれは自分の身体の異常を知らせるためのアラームだと思ってはいたが、それがこの高倉という霊能者の寝室と寝室前の廊下との僅かな位置関係だけで寒気を感じる・感じないという違いが出ている事は今までの人生の中ではなかったので、俺の脳はその違いに関してどう扱えばいいのかで戸惑っている。
「ナンダカ嫌ナ感ジガシマスゥ…」
と、コーネリアも異変に気付いているようだ。
しかしその一方ではマコトもメイリンも全くと言っていいほどに部屋の異常には気付いていない。マコトについては、俺やコーネリアが異変を感じてる素振りを見せるので、それにあわせて「よくわかんないけどなんかやばいそう」的な受け取り方をしてるのだろう。
「またあの女がでたのよォォォ!!!」
突然起き上がって俺達に向かって叫ぶ高倉オバサン。
血相を変えて鬼のような形相になってるから幽霊が仮にこの部屋に居たとしてもアンタのほうが怖いんだよ、と俺達は誰もが思ったはずだが、冗談でもそれを口に出せるような雰囲気ではなかった。
「どのあたりに…?」
俺が聞くと、
「枕元よ!!枕元の辺りにでたのよォォォォ!!!」
やべ…俺、今、丁度枕元に立ってた。俺は研ぎ澄まされた反射神経で素早く枕元から離れた。同時にマコトも枕元から離れる。
「そ、そういえばなんか枕元のこの辺りの空気が周囲よりも重たくて冷たいような…」と俺が恐る恐る言うと、
「うわぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!!」
とマコトは更に距離をとった。
「やばい、幽霊の一部を触っちゃったよォォォォ!!!」
俺は手を前に出してアタフタとする。メイリンはそれを見て鼻で笑い、コーネリアも少し引き攣った表情ながらも小馬鹿にしたような顔、しかしマコトだけは真剣に俺との距離をとっていた。そしてマコトを追いかける俺。逃げるマコト。
「ひぃぇへぇへぇへぇへぇ!!!」
「やめてよキミカちゃんンン!!!うわぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「はい、タッチ!!キミカ菌うつったァ!!」
触ると同時に全身の毛という毛を逆立たせて身震いするマコト。
「うわぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁああぁああ!!(俺を見てキミカ菌を返そうとするマコト)」
「ダメダメ〜!ブロック〜!他の人にうつさないとキミカ菌が1分で身体中に蔓延するよォ?!」
「うわぁぁぁあああぁぁぁぁあ!!(走り回ってコーネリアの背後から背中にべったりとキミカ菌を擦り付けるマコト)」
「Hey…」
苦虫を噛み潰したような顔をするコーネリアをよそに、マコトは一仕事終えたように額に浮き出た汗を拭って、「よかった…これでキミカ菌はボクの持ち物じゃないや」と言ってる。
コーネリアはさり気なくメイリンの制服にべっとりとキミカ菌を擦り付け「HeHeHe…コレデ、キミカ菌ハ今ヤメイリンノ持チ物デスネー」
メイリンは全く動じなかった。
「ふん、馬鹿らしい、小学生か」
「キミカ菌ニ感染スルト、ボッチニナリマーッス!」
「…」
おい…やめろ…。
……やめろ!!
メイリンは渋々、寝ている霊能者高倉の布団にキミカ菌を擦り付けた、って、
おい!!
やめろ!
まるでキミカ菌が本当に存在しているみたいじゃないか!
…やめろォォォ!!!
しかし、キミカ菌を擦り付けられても霊能者・高倉は全く動じる気配はない。メイリンよりもキモッ玉座ってるのだと思ったが…スースーと寝息が聞こえるから眠っているらしい。俺達も俺達で大騒ぎしたつもりなのだがよく眠れるなぁ。
「寝ちゃった…みたいだね」とマコト。
「あれだけ大騒ぎした、よく寝れるな」とメイリン
「さっき、枕元に幽霊が出たって、本当かなぁ?」
と俺は言う。
メイリンは鼻で笑って「フンッ!いるわけない!」と言い放つ。
それに誘われるかのようにコーネリアも「キット、ストレスガ溜マッテルノデショウ…」と言う。
しかしさっきから少しおどおどしているコーネリアを俺は見逃さなかった。奴め、何かを見たんじゃないのか?
マコトは相変わらずおどおどした様子で「幽霊が近づかないように魔よけをしたほうがいいかもしれない」と真剣な顔で言ってる。
「魔よけぇ?」と俺が聞く。
「確か部屋の隅に塩を盛ると魔よけになるらしいよ」
部屋の隅に塩…か。確か、居酒屋だとかバーだとかでもたまに店の入口に魔よけがしてある事があったっけ。
俺がついぞ最近それを見たのはちょっと前に広島のソープ街に初音ミンクが逃げ出した時の(アレは中にチナツさんが入ってたわけだけど)ソープランドの入口だった。
やっぱり歓楽街だとかは楽しい気分に釣られて他のよくない者まで誘き寄せるからそういう防壁を用意する必要があるのかもしれない。仮にもし俺がそれについて店員に詳しく聞いたとしても歓楽街のお店という楽しい事をするような場所でどうして盛り塩をするのかなんて理由を素直に教えてはくれないだろうけど。
そして部屋の隅に盛り塩をするという話も聞いたことはある。ただこれはネットの中での都市伝説になるわけだ。盛り塩は建物の入口にするという認識だった俺は、既によくないものが建物に入ってきている時にやるであろう盛り塩が部屋の隅であっているのかはちょっと自信がない。
まぁ俺の家じゃないしいっか。
そういうわけで俺達は「どうせ俺の家じゃないし」理論で信者の方を呼んで塩と皿を持ってきてもらって部屋の隅に置いた。
「盛り塩って部屋の4隅だっけ?」
俺が聞いてみるがマコトは首を傾げ「うーん、なんとなく隅っこに置いておけばよかったような…?」という。
「もっと沢山おいたほうが効力あるかもしれないよ」
という俺の思い付きにより、部屋の4隅だけじゃなく入口に2つ、壁に垂直に1つ、入口に2つ、窓に2つ置いた。これだけ置けば十分すぎるほどに結界の能力が発揮されると思われる。
とりあえず、俺達は適当に盛り塩をしてからスースーと寝息を立てる高倉を後にしてその日は帰宅したのだった。