102 教祖誕生 7

グラビティコントロールによって宙に身体を浮かせるのは1回1500円。そのうち俺の取り分は500円だ。用意されたお布施用のザルには1000円札が2枚、500円玉が2枚入っていた。
会場の天井には穴が2つあいていた。
俺がグラビティコントロールによって天井に信者の身体を押し上げて頭から突き刺したからあいた穴である。信者はのち、自力で脱出して首に擦り傷を付けた。
「他にないか!!」
メイリン教祖様は叫ぶ。
「他にないか」っていうのは「他に何かしてほしいことはないか?代わりにお金をくれ」の略である。多分。
「は、はい…」
信者の1人がメイリンに近寄る。
さっきの動物霊に取り憑かれた女の人の親じゃないか。
「じつは娘が動物霊に取り憑かれてしまって、このように、猫に取り憑かれているようなのです…ずっと部屋に引き籠ってしまって学校にも行かず…お祓いで猫の霊を取り除いて貰えないでしょうか?」
などと言っている。
「一回5000円だ」
お祓いできるのかよメイリンは?
メイリンが何やら俺にグラビティコントロールを切ってくれというジェスチャーをしてくるので俺はメイリンだけ解除した。
あっさりと5000円を払う親。
「ショック療法だ!」
そう言ってメイリンは袖を捲って白くてすべすべとした腕を出し、顔の前で指をコキコキと鳴らす。するとその腕からバチバチと凄まじい電流のようなものが流れているのが俺にもわかった…。すげぇ…エナジーコントロールっていうのは電流を流す事も出来るのかよ…。
「ふぎゃーッ!」
逃げようとする動物霊に取り憑かれた娘。
メイリンは逃げ惑うその娘の服をガシッと片方の腕で引っ掴むと、電流がバチバチと流れているもう片方の腕で娘の首を引っ掴んだ。案の定、ダーリンも真っ青の凄まじい電撃攻撃が猫ムスメにお仕置きを与えた。
「わかった!わかったから、もうやめて!」
突然猫語を話していた娘は日本語を話し始めた。
って、おいおい、今まで全部演技だったのかよ!
「次のはショック療法ではない。お仕置きだ!」
さすがメイリン、容赦なく次の電流でノックアウトさせた。髪の毛がドリフのコントに出てくる『雷様』のカツラみたいになった元猫娘のぐったりした身体が横たわった。
しかし親は親で大変感謝しているらしい。
「ありがとうございます…娘が戻って来ました…(涙」
宙に浮かぶ4人、そして電撃を放ちビームを発射する教祖様を目の当たりにした信者達と俺達の関係は、もう既に教祖と信者というではなく、神と民に変貌していた。
「他にはァァ?!」
再びメイリンが叫ぶ。
もう何かしてほしいって雰囲気じゃないな。俺達に何かを願うのならどうか無事にここから帰してほしいっていうぐらい…。しかし、そんな雰囲気の中で勇気を出して一人の男がやってくる。頭に日本国旗の鉢巻を巻いてお腹には我国を想うと刺青がしてあり、背中には我国を憂うと刺青がある男である…どう考えても極右翼な人。
「神の力を使いこの国をお救いくださいィィィ!!!(血管浮」
「人間の力で何とかしろ!」
メイリンの回転回し蹴りが男の胴体にヒット。極右翼の男は「我国を想う」の「国を」のところにメイリンの足型がついた状態で玉座の間の端っこまで蹴り飛ばされた。スゲェ…スパルタ教育だ。
しかし、男は鍛えているのかメイリンの蹴り1発ではまだノックアウトはされないようで、ぎりぎりの体力を振り絞って震えながら、あの手に持っていた木刀を支えにして立ち上がった。
「しかしィ…この国を支える人間どもはァ…まったく国を憂いでおらんのですゥゥ…!!どいつもこいつも自分の事ばかり…!!どうかこの私めに教祖様の…いえ、神の一太刀を貰えませぬか!!」
男はそう言って玉座の間に備え付けてある(いつからあったのかしらないけど)木刀を一本、メイリンに向かって投げる。
「私は剣術は出来ない。剣術はキミカだ」
そう言って俺を見るメイリン。おいやめろ、俺を巻き込むな。
「どうか…どうかァァ!!お願い致しまするゥゥ!!」
俺に土下座をして哀願する男。
「キミカちゃん、一試合してあげたら…?」
とマコトまで言ってくる。
ったく、マコトは情に流されやすいな。
俺は自らのグラビティコントロールを解除、そしてメイリンの側に落ちている安っぽい木刀を拾い上げた。
武器の指定をしてきたけど、まさか持ち方まで言わないよね。ブレードを持つ時と同じ逆手持ちをし、男と対峙する。
「どこからでもかかってきなさい」
俺は木刀を腰に構えた状態で男に言う。
「手加減はしませんンンン!!」
ダンッと足を踏み込んで剣道の「面」の要領で俺に頭に向けて木刀を振り下ろしてくる男。
しかし俺はそこで木刀を引っ張りだし(0.012秒)男の持つ木刀を斬り(0.024秒)まだ木刀の破片が空中をさまよっている間に男が強く握っている根本の部分を打った(0.012秒)そして、木刀は小さなホコリをあげて文字通りに木っ端微塵になり、唯一形を保っていた手に持っていた部分も俺が打ち弾いて玉座の間の壁に突き刺さった。
「へ?」
わずか1秒足らずの間に手に持っていた武器がどこかに行ってしまわれ呆気に取られていた男だったが次の俺の一斬り(0.033秒)は男の鼻を捉え「んぶッ」という小さな叫び声をあげさせた。
鼻血を出してぶっ倒れる男。
「他にはァァァァァ!!」
叫ぶメイリン
しかしもう誰もお願いをするものはいなかった。