102 教祖誕生 3

一仕事終えてからご満悦な表情の高倉。
ご満悦って何にご満悦かっていうと、そりゃ2束積み上げられてるおそらく合計200万円ぐらいの札束が目の前にあるからだ。
「で?私に何を教えてもらいたいの?なんだか柏田さんところのご紹介だかなんだか知らないけどねぇ…そりゃお金を貰ったんだから教えてあげるにはあげるけど。でもねぇ…アンタ達はまだ高校生ぐらいじゃないの?こんな業界に転がりこんで何をするの?若いのに」
すると、やっぱりそうきたか、っていう感じにコーネリアはあの独自の土下座、プロレスラーがジャーマン・スープレックス・ホールドを掛けられてマットに首を沈められているような体位でパンツ丸出しにして「私ニ幽霊ニツイテ教エテクダサーイ!」
とやったわけだ。
「ちょっ、何やってんのよ!女の子がパンツ丸出しで!あーもう、外人さんは日本の文化がわかってないわねぇ!土下座っていうのはそういうのをやるんじゃないの!こうよ、こう」
と高倉は三つ指を床について深々と頭を下げた。これだよ、これ、これが本当の土下座だな。コーネリアのジャーマン・スープレックス・ホールドのほうが本当の土下座よりもインパクトはあるけど、土下座するほうが土下座されるほうよりも誇らしげっていうか権威がありそうにも見えてしまうからマズイか。
「それにしても、幽霊?幽霊について教えて欲しいの?」
「Yes!」
「それなら『本当にあった呪いのビデオ』でも見てればいいんじゃないの?最新刊が出てたわよ」
「アレニハ『ヤラセ』ガ入ッテルカラ駄目ナノデーッス!」
「まぁ、私のもヤラセみたいなものだけどねぇ」
「What?!」
どういう事なんだろう?
さっきあの金持ちそうなオバハンの夫に不幸が訪れたという話だったが、あれはどうなるのだろうか?中国の企業と取引をしているっていうのをまるで千里眼のように当てたみたいだったけども。
「例えばさっきの社長夫人の方が言ってた『工場で事故が多い』っていうのは、事前に調べたんだけど、どうやら発注が多くなって人員を増やす暇もないから残業させて過剰に労働させてたっぽいのよね。事故が起きた時間が16時だとか深夜だとか、睡眠不足の人が活動中にミスを起こしやすい時間だったから過剰労働の線で調べてたらそうだったわけ。で、発注をしまくってたのが中国の企業だから…」
「ナルホド…」
幽霊とは全然関係ないじゃないか。
「幽霊と全然関係ないでしょう?」
「Y…Yes…」
「アンタ達がどういう目的なのかは知らないけど、幽霊を信じているんだったらそれは間違い。霊能者の私が言うんだから。いい?幽霊はこの世にはいません。死んだ人間は決して現世との繋がりはないのよ」
札束をパンパンて手で叩いてニンマリとして笑う。
そして、
「それでも人は何か不幸な事が起きたら『幽霊』のせいだとか言い始める、自分に非がないと信じ切ってるから。暗闇で何かを見たら『幽霊』を見たと言い始める、暗闇には何か怖いものがいるに決まってるって信じ切ってるから。私がやってるのはトンデモな事が起きて本人にそれはトンデモだからって教えてあげるんじゃなくて、トンデモな前提にして本人にとって最適な対処を教えてあげるって事なのよ。だからお祓いだとかお清めだとか除霊だとか、そんなものは私はしない。だって清めたりお祓いしたり、除霊したりする対象がいないんだもの?」
なるほどぉ…霊媒師ってこういう風にお金を稼いでいるのか。幽霊だとか信じちゃってるバカな人はバカな人のままで、その人が幸せになるのはどうすればいいのかを別の方向から提示してあげるのか。
まるで宗教団体の教祖様みたいだな。
コーネリアもその話を聞いて、
「ソウデスネェ…ヤッパリ幽霊ナンテ居ナイノジャナイカナト思ッテイマシタァ!!」とさっきまでの暗い顔はどこへやら、パァっと明るくなっていきいきとした表情で教祖様こと高倉の話を聞いている。
「でもまぁ、柏田さんからお金も貰ってるからねぇ…。アンタ達が学びたい事じゃないかもしれないけど、しばらく仕事に付き添ってみる?世の中の裏側がわかるわよぉ?」
そう言って札束をニヤニヤしながら手に持った。
世の中の裏側…か。
よくまぁこんなくだらない事にお金が出せるなぁ。しかも、あの金を稼ぐために、工場で事故が起きて従業員が怪我したり、ひょっとしたら死んでいたりしてたらって思うとなんだかやるせない気持ちになる。だからか俺はもうさっさと帰りたい気持ちになっていた。が、コーネリアは俺と違って興味があるようで、まだ高倉の話を聞いている。
…?
しかし、あれだけペラペラと話していた高倉は突然話を止めて、あの長い廊下の奥のほうをじっと見つめてから、
「誰?誰かいらっしゃるの?」
と聞くのだ。
俺には何も見えないが…。
「ドウシタノデスカ?」
「ん?今ね、お客が来たのかと思ったわ。何かが見えた気がしたのよ。気のせいかしらねぇ…最近ちょっと疲れてるのよね、私」
と言った。