102 教祖誕生 2

何故か俺はコーネリアと共に、霊媒師である『高倉玲子(たかくら・れいこ)』という女性に会うことになった。
キサラの言葉が俺に言ったことを要約せずに言えば、
「んじゃキミカ!部員1号として初任務よ!(任務ってなんだよ…っていうか、いつから部員になったんだよ、なんで1号なんだよ)霊媒師である高倉玲子って人に会いなさい、そして弟子にしてもらうのよ!あ、コーネリアちゃんがね。キミカが弟子になってもしょうがないわ。はぁ?『コーネリア1人で行けばいいじゃん』って?あんたはほら、その、なんていうか、アレよ、アレ、潤滑剤っていうかオイルっていうかクッションっていうか軟骨っていうか、そのアレよ、そんな感じのアレよ。そういうわけで部員はみんなの為に、みんなは部員の為にっていう感じのアレでお願いするわね!!は?なんであたしは行かないのかって?あー、なんていうかその、アレよね、アレ。家を逃げ出してきてるわけじゃない?だから都合が悪いのよ、ソラもあたしも。お父様と関係性が深いから、あの人、告げ口するかもしれないじゃない?っていうわけで、お願いね!!」
というわけで、俺は霊媒師である『高倉』の事務所にきている。
事務所…と言ってはみたが事務所っぽくはない事務所である。いったいこの建物のどこで事務的な何かが行われるのであろうか、っていうぐらいに。ちなみに場所は島根の大社が近いところにある。海に面した寂しい場所で元々は漁師町だったけど漁師さんはあくまで漁師としてこの街を支えてきて、大社のほうは観光スポットになる一方でこちらはその観光地に新鮮な魚を提供するだけの役割で発展してきたっぽい。そのせいか、今でも古臭い建物が潮風に晒されて残る、その中にまるでどこかの宗教団体の本拠地じゃないかっていうぐらいに違和感のある建物が立っている。少し周囲を竹林などで囲ませて目立たないようにしているが、きっとこれはここいら近辺に住んでる子供達の間では怪しげな宗教の儀式が行われている前提で肝試しスポットになっているはずだ。
すでにアポイントメントはキサラ経由で取られているのか、
「柏田様のご紹介ですね」
とその宗教団体の人(または高倉の部下)に俺とコーネリアが名乗ったら建物の中へと通してくれた。
仏教だかイスラム教だかキリスト教だか、とにかく統一感のない置物が沢山並べられている廊下を通って玉の間みたいなところへと通された。そこで玉座にドヤ顔で座っているのかと思いきや、いかにも教祖みたいな霊媒師さんがイソイソと動いている。何かの準備をしているっぽい。
俺達を見てから、
「柏田さんの紹介ね、ちょっと今忙しいからねー、そこで大人しく見ておいて」と言っている。なんか思いっきり俺の中での宗教団体の教祖様というイメージが崩れてしまった。普通のオバちゃんじゃん。
俺とコーネリアは積み上げられた座布団の山から2つほどとって、目立たないように柱の影にそれを敷いて腰掛けた。
「コレカラ何ガ始マルノデスカァー?」
と小声で俺に言うコーネリア。
「占いとか除霊とかじゃないかな?」
しばらくすると先程俺達が通ってきた長い廊下の奥から高倉の部下(または宗教団体の人)に連れられておどおどとした中年の女の人が入ってきた。質素な感じの服ではあるけど、アクセサリーには豪華なものがあって、なんとなく何処にでも居るようなオバちゃんではなくてどっかの金持ちの奥さんみたいな印象を受ける。
そしてここが仏教だかイスラム教だかキリスト教だかもわからないのに、有り難そうに手と手をすりあわせて教祖様(高倉)に向かって拝んでいるではないか。なんだァ?
「それではよろしくお願い致します」
と高倉は拝む。
「よろしくお願いします…」
小さな声でそのオバちゃんは拝む。
「南無阿弥陀佛…」
お経のような文言を口から垂れ流した高倉。
それから暫くして目を見開いて、
「悩みを話すがよい」
とか言ってる。
何?何かが降臨したの?
キャラ変わってない?
「じつはわたくしの夫の会社の経営が傾いておりまして、その理由として、立て続けに夫の会社の工場で事故が起きまして、これはもしかしたら祟りではないかと思いまして…」
あぁ〜、そりゃ祟りだな、儲かりすぎてバチが当たったんだよ。
「消防から指導が入り、市や県からも操業を中断して原因解明に務めるようにと。これ以上工場を止めてしまうと会社も潰れてしまいます」
あぐらを掻いて座っている高倉はさっきから動物霊にでも取り憑かれたんじゃねーの?っていうぐらいにグラグラと身体を前後に揺らして、俺が客だったら「ふざけてねーで人の話を聞けやコラ」って怒鳴り散らすところだったが今日は見学なので黙ってみている事にした。
「そなたの夫は最近、よくないものとつるんでいる」
「よ、よくないもの?それは幽霊か何かでしょうか?」
「よくないもの…それに霊がついておる。穢れに触れれば己も穢れる。そなたの夫が清められるには、まずよくないものと手を切れ」
「あぁ…もしかして…、新しい取引相手の事でしょうか?」
「よくないものはこの国のものではないようだ」
「あぁぁぁ!!やはりそうなのですね!取引相手は中国の企業です!」
「人と人の相性というのがあるように、霊と霊の相性もある。相性の悪い属性同士が重なり合えば、不幸が訪れる事になる」
「ありがとうございますッ!」
よくわかんないけど、そのオバちゃんは大変感謝しているようで感謝のお辞儀だけでは飽きたらず、桐の箱に入っている何かを手渡した。
それから何度もお辞儀をして出ていった。
霊が居たというのだろうか?
俺には何も見えなかった。
「コーネリア、なんか見えた?」
「No…ケバイオバハンガ見エマシタァ…」
俺も見えたよケバいおばはん。何か怖いものが見えたか?って聞かれたらケバいおばはんが見えたって答えるよ。目を瞑ってもそこら中に防カビようのキツい臭い(香水か?)が漂ってきて存在感を主張するから幽霊よりかタチが悪いっていう。
そのお客さん(オバハン)が完全に事務所から出ていってから、ようやく足を崩して高倉が桐の箱をパカッと開いた。
…マジ…で?
そこには札束が入ってた…。
2束入っているから200マン…か…?
俺とコーネリアはサバンナで空腹状態のチーターが遥か遠くにカゼルを見つけたようなギラついた目をした。