98 第3次池袋カラーギャング抗争 9

小一時間ほどで池袋繁華街へたどり着いた俺達はバイクの群れと合流した。いや、合流したと思っていたのは俺だけでそれは赤い布を身体のどこかに付けた「レッドツェッペリン」のバイク部隊だったのだ。
その一人がウィンウィンとハエのような小さな音を立てて爆音を立てる本田のバイクに近づき蹴りを入れてくる。
まるで子供が駄々をこねるようだ。
ローキックも蓄積されれば多少は攻撃として表に表れるだろうが、この子供(レッドツェッペリンのバイク部隊メンバー)の致命的な失敗は反撃を受けることを想定していなかった事だろう。
小枝の棒に金属バットで対抗するがのごとく、デブ本田の大根足による蹴りがハエみたいな音を立てて近づいてきたレッドツェッペリンメンバーの身体を文字通り「バイクごと」蹴り飛ばした。
ハエ叩きよろしく叩き出されたバイク及び小さな身体はそのままコンビニのガラスを突き破って商品棚に突っ込んだ。
この本田という男、情報屋の言うとおりめちゃくちゃ強いな。
本田の強さにビビッたのか今度は俺に向かって「バールのようなもの」を振り回してくるレッドなんとかのバイク部隊。
だが変身前の状態で銃弾を弾き飛ばす動体視力を持つ俺が既にドロイドバスターに変身しているのだ。言うまでもなく「バールのようなもの」の攻撃が俺に命中するまでの時間でゆっくりトイレでオシッコをしてついでにクソしてケツを拭くぐらいの余裕すらある。
最初の攻撃を身体をイナバウワーさせて交わした俺は、2回目の攻撃は余裕で手のひらでキャッチした。グラビティコントロールを使うまでもない。このまま街の素敵な仲間達に懲らしめてもらえ!!
バールのようなものも、クソカラーギャングの身体もバイクも全部まとめてグラビティコントロールで持ち上げて「うわ!うわぁ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」という断末魔と一緒に街の素敵な仲間達(電柱)に直撃させた。バイクはプラズマリアクターが爆発して、周囲に青白い稲妻を放出させた。
「キミカの姐御ォ!!ヤバイですゼ!」
本田が前方を指さして言う。
「どしたの?」
「連中、ワイヤーを張りやがった!」
見れば遥か500メートルかそこらの電柱と電柱の間、ちょうど俺達の首の高さにカーボンファイバー状のワイヤーが引かれてるのだ。あれで首を跳ねようってのかこのヤロウゥ…エゲツナイ事を考えやがる!
「ターンしましょう!」
と本田が弱気な発言をする。
「いや、押し通る!」
俺はそう叫んで、胡坐状態からぴょんとジャンプしてバイクの上に立ち、いつでもグラビティブレードを引っ張り出せる居合い斬り体勢へ。
「マ、マジ…かよ…」
本田がビビっている。
ワイヤーに接近する俺のバイク。そしてワイヤー手前2メートルで俺のブレードがワイヤーを切断した。それだけでは宙に浮いた状態のワイヤーが俺や他のメンバーを傷つける恐れがあるので、左右にグラビティコントロールを効かせワイヤーを吹き飛ばした。
その時「パンッ!」という音の後、電信柱を支えている頑丈なコンクリートが俺のグラビティコントロールによって弾き飛ばされたワイヤーによって根元を粉々に吹き飛ばした。まるで爆弾でも爆発したかのように、俺の背後ではコンクリートの粉塵が巻き起こった。
「すげぇ!すげぇゼ!キミカの姐御ォ!!」
興奮する本田(デブ)
しかし、そうはしゃいでいたのもつかの間、一瞬で静かになり、一点を見つめる本田。俺もその視線の先を見る。
そこには一人の男が立っている。
赤い布を首につけた男。
「金ェ田ァァ!!!」
本田が叫ぶ。
「本ン田ァァ!!!」
金田と呼ばれたレッドツェッペリンの男が叫ぶ。
そして俺は数秒後にこの金田と呼ばれた男が「パワードスーツ」を着用したと言われているレッドツェッペリンのリーダーである事を知る。
何故なら男はそのか細い身体のどこにそんな力があるのかわからないが道路標識を軽々と持ち上げて金属バットよろしく振り回したからだ。しかも悪いことに興奮したデブは俺よりも前を走ってやがる。
本田の肉に標識が思いっきりめり込む。
「がはァ!!」
本田はとっさに筋肉質な腕で防御したがそれでもバイクのスピードに向けて放つ金田の道路標識フルスイングは想像するにたやすく、デブ(本田)の身体を吹き飛ばした。その巨体はごろごろと無様に転げて自販機に突っ込んだ。
それでも容赦しない金田。
「死ねェやァ本田ァァァ!!!」
道路標識を振り下ろす。
もう殺す覚悟なのだろう。
しかし寸前でピタリと道路標識は止まった。
何故なら俺が片手で受け止めたからだ。
180はあろうかという長身で細身の男、金田の振り下ろす3メートルかそこらの道路標識。標識の意味は「駐車禁止」で、それが振り下ろされた先は190はある巨大なデブ、本田。その攻撃をガードしているのが140センチほどの小柄な女の子、俺だ。
俺の握った道路標識はピクリとも動かない。
俺の体重はこの道路標識に比べたらビビたるものだろう。そして道路標識を軽々と振り回す金田にとっても俺の体重なんぞ、机の上の埃程度の重さにしかならないだろう。だがピクリとも動かない。その様子に本田も金田も目を見開いて冷や汗を掻きながら怯えている。
何故ピクリとも動かないのか?それは俺のグラビティコントロールが俺と道路標識の『重さ』を変えてるからだ。
次第にそのエフェクトはごまかせないものになり、黒い波動が周囲に現れ始めた。メキメキと音を立てて俺の手のひらにキャッチされている道路標識の棒がゆがんで凹んで深海に空き缶を沈めてペシャンコにして水圧って凄いですよねぇ…みたいな形状になっていく。
「道路標識…ガードレール…遮断機…これら街の愉快な仲間達はこれまで数多くのDQN珍走団など暴走行為を行う不埒な馬鹿どもをあの世へと送ってきた…その『神聖なる街の仲間達』をこのような『暴挙』に使うな!!この下衆ガァ!!」
そして、俺の怒りの回転蹴りが金田の腹にヒットした。
その刹那、周囲のアスファルトにクレーターが出来て、繁華街のガラスというガラスを吹き飛ばし、追いかけてきたブルーマンティスの仲間達も吹き飛ばして、俺の蹴りに垂直にヘックス状のバリアが現れた後、金田の身体を吹き飛ばした。
バリア…?
このバリアは軍の歩兵部隊が個人で形態しているプラズマディフレクターって呼ばれる奴じゃないか。俺や戦闘用のドロイドなら標準で装備されているものだ。
このパワードスーツ…個人の力を高めるだけじゃなくて、バリアの機能も持ってるって事になるのか。軍用じゃないか。