98 第3次池袋カラーギャング抗争 8

首都高を爆走するバイクの群れ。
元はユマハ製のガソリンエンジンバイクだが、それらは全て違法に改造され出力をあげるためにプラズマリアクターエンジンを搭載している。元々はスピード狂がレースの為に違法に改造していたのだが暴走族やチーマーそしてカラーギャングはそれをマネて改造しはじめた。
スピードを出したかったからかと問えば答えはNoだ。
彼らは「違法な」というところに憧れているだけだ。
実際にバイク程度の重量でプラズマリアクターエンジンを本気で稼動させればもうバイクじゃなくて飛行機、いやミサイル、いや…弾丸並みのスピードが出せるだろうが、なんら調整をしていない機体なら途中で人間なんてものは骨と皮だけになってしまう。それはスピード狂であるクレイジーな連中も望んでいないことだ。
その、ただかっこいいからという理由で違法に改造されたバイクの群れが首都高を走る。
先頭には本田が、その少し後ろを俺、そしてズラズラズラとブルーマンティスのモブキャラ…じゃなかったメンバーが走り最後をジロウが運転する車が走る。
俺は腕組みをしてバイクの上に胡坐を掻いて座り、ハンドルを切るのはグラビティコントロールだ。その滑稽な運転姿勢は池袋カラーギャングに永遠に語り継がれる事であろう。
時間は既に夕暮れ時。
しかし、これからがカラーギャング達の活動時間だった。
社会の裏側の人間の活動が活発になるのは決まって夜だ。それはヤクザであり、暴走族であり、チーマーであり、カラーギャングでもあり、そしてアニオタでもある。
それがどういう理由なのか大半の人間はわかってないだろう。
古の時代から人間を含めた動物の中で繰り返されてきた理(ことわり)なのだから誰もわからないしわからなくてもいいのだ。
お天道様の下を歩けないような後ろめたさを抱いた連中は無意識のうちに行動時間を夜間へと移していく。
きっと彼らカラーギャングもまた「クールだから」という理由で行動時間を夜間へとずらしたのだろう。
「キミカの姐御ォ!!」
「どうしたぁ!」
「5キロ先でレッドツェッペリンの連中が屯ってます!」
「よぉぉし!アンタ達!『狩の時間』だ!!」
見えた。
レッドツェッペリンの連中、身体のどこかに赤の装飾をしているカラーギャングどもが首都高の非常時退避エリア(車や人に何か異常があったときに退避してレッカーや救急車を待ち渋滞を起こさないようにする為のエリア。そんなところに屯ってはならない)に屯っていやがる!!とんでもない連中だ!汚物は消毒だ!
レッドツェッペリンの連中は俺達のバイクの群れを見て「あ、ブルーマンティスの奴らだ!Heheheからかってやろうゼ!」って感じの雰囲気にはならなかった。想定外だ。
奴ら、俺達を心底ビビってる雰囲気なのだ。一言で言うのなら得体の知れないものに近づかれた時の人間の怯えようのような。
あぁ、そうか。
先頭を走るバイクには本田(顔に日本国旗のペイントをしている)が堂々たる雰囲気で乗っているからだ。こりゃ確かに怖いわ。
本田はバイクのスピードを緩めて(それでも十分速いが)腕を水平に伸ばしたまま、おたおたと逃げ惑うレッドツェッペリンの一人に狙いを定める、そしてラリアットの要領でそのひ弱そうな身体つきのレッドツェッペリンのメンバーを弾き飛ばした。
「(ごっ…)」
鈍い音が聞こえてデブ(本田)の攻撃がキマる。
それに続けと言わんばかりに次から次へとブルーマンティスの他のメンバーの攻撃がキマる。ある者は金属バットを走行中のバイクから振り回して叩き付けたり、ある者はゴルフのパターで停車中のレッドツェッペリンの車フロントのガラスを破壊したり、それに続いて同車フロントに火炎瓶を投げつけて燃やしたり、ある者は倒れて意識を失っているレッドツェッペリンメンバーの上から青のスプレーで『ブルーマンティス惨状』(字が違ってるだろってツッコミを入れたくなった)と書いたり、とにかく、そろそろラオウが出てきてケンシロウと戦ってもいいんじゃないかって言うぐらいの世紀末状態だ。
俺はせっかく武装してきたのにそれを使う間もなく、あっというまに鎮圧させてしまった。しかし、レッドツェッペリンの連中は恐れをなしたか仲間と合流するのか、数人が仲間を置いてバイクで走り去った。
「キミカの姐御ォ!奴等!街のほうへと向かいました!」
「よし。追うよ!」
再びバイクの轟音が鳴り響いた。