96 アンダルシア・コンフィデンシャル 9

俺達はとりあえずは元の席に戻ったのだ。
不思議そうにユウカが訪ねてくる。
「どうして尋問しないの?」
「泳がせてみるんだよ」
「ふむふむ…本格的ね」
俺やコーネリアは電脳通信でやり取りができるので裏で「泳がせてみる」という作戦をあの間に決定したのだった。このコーネリアが提供してくれたアイテム…名付けて「孫悟空のアレ」があるのでもしコイツがこの場から逃げたとしても俺達から離れれば離れるほどアレが思いっきり締まって腕や足をちぎり取ろうとする。
コーネリアからは孫悟空のアレはプレゼントということにしている。間抜けにも額に肉って書かれてる男はプレゼントである「孫悟空のアレ」を受け取って腕につけてるのだ。いや、あの雰囲気では女の子のプレゼントを受け取らなかった場合にどんな制裁を受けるか、想像するのも恐ろしいと思ったのかもしれないな。
男はしばらくしてから店を出た。
「よし、つけるわよ!」
「待って!」
「急がないと巻かれちゃうじゃない!」
随分とやる気だな、ユウカは。
「巻かれないように策は練ってあるよ(あの孫悟空のアレ)それよりもこっちが尾行してるのがバレてアイツが本来行こうとしてたところに行かないほうがやばいってば」
「ふむふむ」
しばらく待機した後、俺達は店を出た。
相変わらずコーネリアは酔っ払ったまま、メイリンも次の店に行こうとか言い出す。マコトは酒を飲むと眠くなる人なのか、既にスヤスヤと寝息を立てていたところを無理に起こされてフラフラとしながら歩いてる。ユウカはユウカで苦虫を噛み潰したような顔でカードの残高を確認していた。これについては自業自得で。
「どうやって尾行するのよ?」
とユウカ。
「発信機がセットしてあるんだよ。ほら(と、俺はaiPhoneを見せるとそこには地図にマーキングされている)この赤いマークが発信機が付いてるさっきの額に肉の男ね」
「へぇ〜…最近はそんなものがあるのね…凄いわ」
ユウカは最近だろうが最近じゃなかろうが機械系を見るとなんでもびっくりしそうだな。俺にとってはデジモノなんて空気みたいなものだからあって当然というか生活の中になきゃおかしいってレベルだよ。
これだってaiアプリをコーネリアに教えてもらってダウンロードしたんだよ。っていうかコーネリアがあの場でドロイドバスターの能力で創りだした孫悟空のアレ(兼・発信機)が何故かMappleストアのaiアプリと連携してるってどういう事なのよ…そっちのほうがすごすぎてオシッコチビリそうになったよ。
「あ、ここって…」
俺はふと地図に見覚えがあった。
「どうした?」とメイリンが聞いてくる。
「この店ってあたしがいつも行ってる焼肉屋だ」
「2次会は焼肉屋か」
いやいやいや、そっちの話じゃないから。
ユウカがaiアプリの画面を覗きこんで言う。
「その焼肉屋の中に、あの額に『肉』って書かれてる男が入っていったの?額の文字と焼肉屋が何か関係があるのかしら…?」
「う〜ん…どうだろう」
あの肉の文字は俺が刻んだものだから特に関係はないと思うけど。
焼肉屋のなかで薬の取引が行われているのか?まさか、薬の輸入に肉を使って…そう、例えば肉の中に薬を挟んで日本に輸入してるのかもしれない、いやもっと巧妙な手段で、例えばある薬と反応して覚せい剤だかに変化するとしたら?俺は覚せい剤の変化した怪しげな物質が染み込んでいる肉を食っていた事になるのか?ッパネェ!!
そういえば以前俺はこの店でソンヒと喧嘩したな。あれから片付けられてないっぽくて、店の周囲には看板だとかガラス片だとか色々と散らばってて暴力団の抗争でも起きたのかと思わせる雰囲気だ。
「何よこれ…やばいんじゃないの?銃痕が残ってるわよ!!何?何なの?暴力団の抗争に巻き込まれてるの?!」
「さ、さぁ…?」
バレてないバレてない。そして、唯一この一件に俺が絡んでいる事を知っているマコトはスースーと寝息を立てて地面に座っている。
「では2次会を始めるか」
メイリンはそう言うとズカズカと焼肉店へと入っていった。俺もコーネリアも後に続く。
…。
店内は肉を焼いた時にでるあの煙が充満していた。それだけじゃなくて街の不良達が集まってタバコも吸っているもんだから混沌とした臭いが渦巻いている。飯食ってる時にタバコとかイライラするな、コイツ等…。グルメ通な俺に言わせればご飯食べてる横でタバコ吸うなんてカレー食ってる隣でウンコしてるぐらい失礼な事だ。
「ニダニダ!」
…ん?この声は?
「はぁ〜やっぱりキムチ鍋は美味しいニダ!冬が終わる前に一度食べておく事が礼儀ニダねぇ…。ほら、肉も次から次に焼くニダ!」
この声は…ソンヒじゃん。奴の部下と思える不良達に囲まれて幸せそうに肉やら鍋やらを楽しんでいる最中らしい。そして、案の定、発信機を付けた「額に肉」と書かれた男もそこで焼肉を楽しんでいた。
アんのやろゥ…前回の恨み、晴らさでおくべきか。
「あぁ!!キミカがいるニダ!」
ちっ…。気づかれたか。
「ぷぷぷぷ!キミカは今日はボッチじゃないニカ?ウハハハハ!!さすがに前回ボッチで来てて焼肉食ってたらウリ達にボコられて1人じゃ入ってこれなくなったニカァ?」
こンのやろゥ…許さない…。
そんな事を今ここで話すこたぁねぇだろうが!
「Hey…キミカ…マサカ…」
ほら!またコーネリアが…俺の肩を揺さぶりながら、
「マタ、キミカハボッチデ食事ヲシテルノデスカァ?Oh…My…God…ソンナ悲シイ事ヲシテイタラ霊界カラオ誘イガ来テシマイマス〜」
ヌゥゥ…。
あの額に肉が書かれた男は俺達が店に来ているのを知り、今時点では彼は有力な味方をつけていると考えたのだろうか満面のドヤ顔で、
「姉御!コイツ等ちょっとシメてくれませんかね?俺、さっきバーで酒飲んでたって言ったっしょ?その時、コイツ等に酷いことされたんスよ、なんか㍉㍉唱えられたら色々締まって…」
「に、ニダァ?!き、今日のところは大人しくするニダ…」
どうやらソンヒは最初は俺だけしか見てなかったようだが、よく見たらコーネリアやメイリンなど、ドロイドバスターが4人も目の前に現れてる事に怯えているようだ。ククク…お利行さんだね、今の状況だと思いっきりソンヒの数的な不利になっている。
「何言ってんスか?姉御、この前あのキミカをボッコボコにしてたって自慢してたじゃないッスか!!も一回暴れてみましょうや!俺も手伝いますから!あんな糞女、一捻りですよ!」
ほほぅ…。
随分と大きな口を叩いてくれるじゃないですか。
そっちが一捻りなら俺は何も捻らないで捻ってみせるぞ。
「㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉」
㍉㍉言いながら俺は近づいた。
「ヒィィィィアァァァァッ!!!」
涙をポロポロ流しながら額に肉って文字が彫られている男は叫んだ。