96 アンダルシア・コンフィデンシャル 8

既に最初からハイペースだったコーネリアとメイリンは次から次へと酒を注文しヘベレケのベロンベロンになっていた。しかも二人はその状態でじゃんけんをして負けたほうが酒を飲むという勝負をし始めたのだ。
ユウカは1杯目が終わったあたりから店員に「飲み放題」プランへと変更してもらっていたので大丈夫だったが放っておけばコイツ等はユウカを破産宣告状態に追い込む事も可能だっただろう…恐るべし…。
マコトは相変わらず酒を飲んだ時に一気に疲れが出て眠くなるパターンなのか、ソファ席を陣取ってぐったりと横になってスースーと寝息を立てて眠っている。
「あんた達!ちゃんと働いてもらいますからね!」
とユウカ。この状態で働けると…いや、ユウカのセリフを聞いていると本気で思っているのか…?本気で思っているのなら本当にユウカは幸せな性格をしていると思うよ。拍手したいぐらいだ。
「でもさっきから出入りする客を見張ってるけどそれらしき取引しているとは思えないじゃん。アレでしょ?麻薬(小声)の取引をしている人を探してるんでしょ?」
「(小声)だってあの子(少女A)の話だとここだって話だし…」
「朝礼で校長先生から話があったぐらいだから、早々に場所を変えてると思うけどなぁ…」
「まだ警察に話が言ってないと思うから、きっと連中はこの場所をまた取引場所に利用すると思うわ。だってほら…学生じゃないの?」
「学生なの?」
「年齢は若かったって話だし。もし学生だったらそういう知識にはあまり敏感じゃないだろうから、校長先生が話しようが警察の捜査が本格的に始まろうが、きっとまたここにやってくるわ」
「そうかなぁ…」
それから小一時間。
俺とユウカはさすがに今日来て今日麻薬取引が行われるなんて都合が良すぎだろう、とそろそろ帰る算段をしていた。
それを察したのか、そうじゃないのか知らないがコーネリアは突然立ち上がってから英語で何か呟いた。トイレに足を運んだ流れから「トイレに行ってくる」って意味で言ったのかもしれない。ここが日本だという事も忘れてもう既に完全英語モードになっているコーネリアだ。
この店はカウンターの一番端っこがトイレに繋がる通路となっているのだが、そのトイレから出てきたコーネリアは突然、子供が何か珍しいものでも見つけたかのような笑顔になってカウンターに座っていた客の1人に絡み始めたのだ。
英語はわからないのでなんとなくで言うと、
「Hey!!アーユーリアリー?What…The…HaHaHaHa!!!」
という感じでコーネリアはその客(男)の額を指さしながら大笑いしている。それからさっきまで一緒に酒を飲んでいたメイリンを手招きで呼んでいるのだ。超高速手招きだから本当に面白いものがあったんだろう。
それからメイリンも気になってコーネリアの側へと行き、
「(中国語で何か言いながら)」大笑いしている。
その男の客は本当に迷惑そうだ。
なんだ?なんなんだ?
すっごい気になってきた。
どうせろくでもない事だろうと思いながらも俺は近づいた。
もうその時点でコーネリアは嫌がる客の頭を引っ掴んで額の部分を指さしたり触ったりしているのだ。側で大笑いするメイリンと共に。
額に何があるんだ?
俺が近づいて額を見てみる…と、そこには…
『肉』
という文字が書かれてある。
「ぷッ…」
俺は笑った。これでも一応我慢をしているが、もう我慢の限界だ。これは面白すぎる。キン肉マンの真似でもしようとしてるのか?
「あーーーッはっっはっはっっはっは!!!」
もうだめだ、我慢の限界で俺は大笑いしてしまった。きっと酒の力も手伝っているのだ、そうに違いない。
「あぁ…テメェは…!!!クソッ!なんでここにテメェがいるんだよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
どうやら以前、ユウカが調子にのって不良狩り(アンダルシア学園の女子生徒に手を出した不良を懲らしめる)をやった時に俺達にボコボコにされた不良の1人だったようだ。
てっきりその男が胸ぐら掴んできて俺を投げ飛ばそうとでもするのかと思ったのだが心底額に『肉』と刻んだ俺の事を恐れているらしく、しかも俺以外のメンバー+αが勢ぞろいしているのを見て動物的本能に従って素早く店を飛び出そうとしたのだ。
バーの出口までダッシュした男は何故かそこで「アアアッ!」と叫んで転げて腕を抑えている。何が起きたんだ?
「どしたんだろ?」
と俺はウイスキーのグラスが入った状態でフラフラと男のほうに近づくと、男の腕には黒い腕輪みたいなのがされていて表面には電子掲示で「200kg」と表示されている。
「He…He…He…」
この笑い声は…コーネリアか。
「ソノ男ハ以前女子高生ノ誘拐レイプ事件ニ加ワッタ男デスネェ、怪シイデスゥ…キット麻薬モソイツガ絡ンデルニ決マッテイマーッス!」
そりゃちょっと考えすg…でもないか。なんか俺も確かにコイツは怪しいと思うよ。コイツがあの一件から悔い改めてマトモな人間になったとはとても思えない。人ってのは普通、恐怖心ではマトモにはならないんだよ。恐怖心は抑制にはなるけど欲望は確かにそこにあるんだからさ。コイツは怪しい、絶対に麻薬を持ってる!
で、この黒い腕輪みたいなのは?体重計か?
「コレハ、私ノ位置カラ離レレバ離レルホド強烈ニ締マル腕輪デーッス…フフフ…西遊記孫悟空ガヤッテイタ頭ノ輪ニチナンデ『禁箍(キンコ)』ト名付ケテイマーッス…HeHeHe」
「ほほぅ…西遊記孫悟空がつけてた輪っかねぇ…もしかしてこのキンコを締める呪文も存在するとか?」
「『ミリミリ』ト唱エルト締マリマス」
試してみるか。
「㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉㍉」
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
「アハハハハ!!ウケルwww」
俺達のそんな様子を見てもしかしてと思ったのか、ユウカが近づいてきて「そいつが麻薬を売ってるのね!」と目を輝かせて言い出す。
「まだ確証はないけどね、怪しいでしょ。ほら(そいつの髪を掴んで額をユウカに見せる)額に『肉』って書かれてるんだもの」
「怪しいわね!怪しい!外国人がかっこいい文字をタトゥーとして掘ってくれって言って意味がわからないけど『肉』って額に入れちゃったぐらいに怪しいわ。コイツ外国人でしょ?」
例えはアレだけどまさにそうだ。
「ち、違う、俺は、」
「㍉㍉㍉㍉」
「きゃああああああああああああああああ!!!!!」
これは面白い。