96 アンダルシア・コンフィデンシャル 7

「ここが噂のバーね」
ユウカは繁華街の一角にあるバーの前で仁王立ちになって客が入るのを邪魔している。そう、俺達(コーネリア、メイリン、マコト)もそのツレとしてユウカの腰巾着のようにバーの入口に屯してる。
ジーニアスバー」と汚らしい時でペイントされた木の看板が店の入口と思しき場所に立てかけてある。客層は…女性客が多いようだ。最近はこういう風な女子会に利用されそうな感じのバーが乱立してるなぁ。こういうところにくる女の子はお酒が飲めないから、店はお酒をあんまり揃えてないんだよね。あってもアルコール度数が低いカクテル。
ユウカは少女A(仮)に麻薬をどこで受け取ったのかを既に聞いていたようだ。少女Aによって同じ情報が警察に与えられているであろうし、そうなればこの店には警察が来たことだろうし、もしかしたら売人が逮捕されたかもしれない。そんな状況で今更にも俺達がこの店で何をしようっていうのか。何ができるっていうのか。
答えは何も出来ない。
警察のマネ事をするのならせめて警察よりも早く動かないと。
「さ、帰ろっか」
と俺。
「ちょっ、何言ってんのよ!これからでしょ?!」
ユウカに当然のように引き止められる。
これから何なんだ?!これから何をするつもりなんだよこのバカは!
「せっかくきたんだからお酒飲みたい」
と言い出すのはメイリン
あぁ、始まってしまった。
俺は早く家に帰ってゲームとかして遊ぶっていう目的からどんどん遠くなっていくのを肌で感じていた。
「ユウカノ手伝イナラ、ユウカガ酒ヲ奢ルベキデスネー!」
なるほど、全くそのとおりだ。
「わ、わかったわよ…一杯だけだからね」
「一杯…イッパイ…So much…!!」
よくわからんけどコーネリアは大はしゃぎで店の中に駆け込んだ。メイリンもクールを装いながらもコーネリアのはしゃぎ具合からユウカがタダで酒を浴びるほど飲ませてくれるものだと理解し、ニヤニヤが止まらないらしい。
一方で唯一外国人チームのなかで日本人に近いマコトは、
「なんかコーネリアさん、一杯を沢山と勘違いしたっぽいよ」
「ちょっ…なんですってェ?!」
「マコト英語わかるの?」
「わかるよ!キミカちゃん!ボクはじつは中国語と英語と日本語の3ヶ国語が話せたりするんだよ!!フッフッフ…」
ま、マジで?!
「凄い…」
バイリンガル・マコトと呼んでいいよ!」
「えっと…周りに誰も人が居ない時にそう呼ぶよ…」
俺達もバーへと入った。
さて、中の雰囲気は…。
本当にもう、俺の中のバーっていう印象をとことんぶっ壊してくれるような雰囲気だよ。バーっていうのは最低でも暗いはずなんだよ、薄暗い店内のカウンターやテーブルなど局所的に光源があってさ、ロマンチックな気分になれるところ…それがバーじゃないか。これじゃ喫茶店だよ。喫茶店。しかも雰囲気がない系の喫茶店だ。
めちゃめちゃ明るい昼みたいな喫茶店の店内にはところどころに植物が植えられてて小鳥の鳴き声が(もうそれも問題外)響きわたって、水槽やらには魚が泳いでいる。『普通の』バーでもそういう演出はするけども水槽は下から光を照らすとかしてエキゾチックな印象にするはずなのだ。なんだこの理科室においてあるような水槽は…。「置いてみました」的なのやめてほしい。
さらに最悪なのは、そこにいる客達。
パンからソーセージを焼いた「モーニング」っていう喫茶店で出してるような料理を食べながら何を飲んでいるかっていうとミルクやらトマトジュースやら…喫茶店でよくね?それってバー違わね?お酒出す店で何を求めてるの?っていうか店も店でバーって名乗るのやめてよ!
しかし、ここで俺にとっての救世主が現れたのだ。
このバーの雰囲気をちゃんとしたものにする客が。
「Hey!!!Orderオネガイシマース!」
「あ、はーい」
「ビール、ウイスキー、ソーセージ、ミートボール・スパゲティ、ナッツ盛リ合ワセ!〜メイリンハ何ニシマスカァ?」
「私は、一番高い酒を頼む。あと一番高い料理を頼む」
きたきたきたきた!
コイツらがこの喫茶店みたいな糞バーをビアホールにするぞ!!
「ちょっ、一杯だけっていっt」
とユウカが言いかけるがコーネリアに制される。
「キミカー!!!何ニシマスカァァァ?!」
俺は高速でコーネリアとメイリンが確保しているテーブルに腰を掛けて、「えーっと、ペペロンチーノ、とりあえずビール、それから…日本酒の…五橋を熱燗で。あとサーモンマリネに香菜サラダ」
と注文。その最中もマコトを手招きして今度はマコトの注文を促す俺。オラオラオラオラオラオラオラ!!容赦しねぇぞオラァ!
「あ、お金はあの女の子が払いますから(ユウカを指さして店員に説明する俺、カッッケー!俺カッケー!!)」
「そんなにお金持ってきてないわよ!!!」
ユウカが怒るが、
「ユウカはカード持ってるじゃん、ほら、アレだよアレ」
「え?いや、あのカードはd」「カードをお預かりします」
前にも食い逃げされたのだろうか、店員はカードの話を聞くとすぐさまユウカに手を差し出してカードくださいのポーズだ。いかにも怪しげな集団に見えたのだろう。そりゃそうだよな、外国人3名に日本人2名でしかも学生だからな。
もうユウカにはカード渡すしか選択肢はなかった。
「ヌゥゥ…(白目」
渋々カードを店員に渡すユウカ。
乾杯をする俺達。
ところでここに何しにきたんだっけ?