96 アンダルシア・コンフィデンシャル 6

学校に麻薬を持ってきたクラスメートの女子…仮に少女Aとすると、その後、ケイスケはマジで警察を呼んでいたみたいで警官2名と刑事(ミサカさん)がやってきたのだ。
ここまで起きて初めて事の重大さに気づくユウカ。
犯罪を犯したんだから警察が来るのは当たり前だし、麻薬を持ってきているかも知れないと疑って持ち物検査をしたというのも別におかしな事じゃない。ただ、クラス委員のユウカが言い出してそれを実行したという事がどうやらユウカ的にはやっちまった感があるらしいのだ。
困惑した表情で警察官に連れて行かれる少女Aを見ている。
本当はクラスの持ち物検査をしても麻薬が出てくるなんて思わなかったんじゃないのか。ただ、潔白を証明したい為に持ち物検査をやってみたらマジで麻薬が出てきて潔白が証明できなかったのじゃないか。警察官ではないのに警察官のマネ事をしてクラスメートを警察に突き出す、という行為そのものはクラスメートが逮捕された事よりも重くユウカにのしかかっているのだろうか、俺やナノカに、
「どうしよう…」
とか言い出す始末。
ったく、どうしようじゃねーよ…。
「ユウカっちがしたい事をしたらいいじゃん」
とナノカが言う。ナノカの意見は相変わらずの直球的だ。まぁ、実際それが一番いいのだろうとは俺も思うのだけど、あんまりユウカの助けにはなってはいないかな。だから俺がそれに補足する。
「ユウカはクラス委員長なんだから、クラス委員長の自分だったらどうしたいのかって事じゃん」
ってナノカの言い方を変えただけなんだけどね。
「クラス委員長としての…やりたいこと」
「警察は犯人を捕まえるのが仕事でしょ。クラス委員長はクラスの為に行動するのが仕事だからさ…つまり、クラス委員長のユウカはクラスメートを警察に突き出したいの?それが仕事なの?」
「そうね…そうよね。私はクラスメートを信じてあげる役だよね」
立ち上がったユウカはそのまま教室を出て行った。
俺とナノカもなんかその後ユウカが何をするのかが気になって、一緒に教室を出た。多分、職員室の隣の、何に使われるのかわからない小さな部屋に連れて行かれてるんだと思う。別名反省部屋って呼ばれてるところで、アンダルシア学園ではそこが使われる事自体が珍しいのだけど、例えば万引きをしたとかで警察やらのお世話になると事情聴取だとかご両親を呼んでからの説明だとか、そういうものもその部屋で行われるのだ。だから警察=反省部屋の認識にナノカも俺もなっている。
さて。
俺とナノカはその反省部屋の前でほぼ筒抜けの部屋の中の話し声を聞いていた。やっぱり既にその部屋にユウカは来ていて警察に事情を説明している。校長の話を聞いてから持ち物検査をしようと思ったとか、自分のバッグに麻薬を入れられて、濡れ衣を着せられそうになったことだとか、何か理由があってその少女Aが麻薬を持っていたのだとか。
ひと通り話が終わってからのタイミングで俺とナノカはドアをノックする事なく部屋に入った。
「あら、キミカちゃんじゃないの」
とミサカさん。
「どうもどうも」
「キミカちゃんのクラスだったのね」
あいも変わらずしわしわのブラウスに萎れたブレザー、擦れて肌がチラチラと見えてるストッキング…などなど、疲れたキャリア・ウーマンのように見えるミサカさん。ボサボサの髪を掻き毟っている。
「私はテロ対策のほうだから麻薬取り締まり庭が全然違うのよね。っていうか、麻薬関連は警察の仕事でもなかったりするのよね」
「え?そうなんだ」
「そうよぉ〜マトリの仕事よ」
「マトリ?」
厚生労働省麻薬取締官よ」
「ほほぅ…警察じゃないんだ」
「そうそう。ま、そこに私の知り合いがいるからまわしておくわ。今日は調書を取るだけにするから。(少女Aのほうを向き)さっきの話は嘘はないわよね?これで調書とするけど」
黙る少女A。
ユウカは、
「本当に拾ったの?」と聞いている。
どうやらあの麻薬は拾ったことになってるらしい。嘘クセェ…。
「えっと…その…」
どもる少女A。
ミサカさんが言う。
「正直に白状したら罪は軽くなるわよ?どうなの?」
「バーで…買いました…」
あちゃー、やっぱりそうか。拾ったとか苦し紛れの嘘つくんじゃねーよ!小学生なら通用するけど高校生だからなー!
それからは知ってることを全部話しているような雰囲気だった。ひと通り調書を(レコーダーに録音)とったミサカさんは「後はマトリのほうでやってもらうから」と言って部屋を後にした。
その後はいつもの展開だ。
いつもの展開っていうのは、この部屋は万引きとかで捕まったバカがお叱りを受ける部屋でもあるのだけれど、その際には最終的には親が呼び出されて担任と教頭と生徒指導の先生と親と本人とで色々と話しをするのだ。ケイスケがさっきからダルそうな顔をしていたのはこれが理由か…まだまだ続くわけですね。お疲れ様。
さてと、俺達も教室に戻るかなー、とナノカと俺が部屋を出た後、廊下をスタスタと歩いてるとユウカが走って追いかけてきた。必然的に俺はダッシュで逃げ出すわけだ。追いかけてくるのだから逃げ出す、自然の摂理である。やっぱり案の定狙ってるのは俺のほうで、ナノカを通り越して俺を捕まえようと更に速度をあげるユウカ。
しかし、ごく普通の人間であるユウカが変身前とはいえ、ドロイドバスターの俺に追いつけるわけがない。
「ま、まちな、待ちなさいよ!!」
息を切らしながらユウカが精一杯の声をあげる。
「なに?なんなんだよ?嫌な予感がしたから逃げただけだよ!」
ユウカは全速力で走ったのかゼェゼェと息を切らし両足膝に手をおいて呼吸を整えながら、
「ちょっと手t」
「お断りしまーす」
俺はお断りしますのポーズをとった。
「はや…(ゼェゼェ)早いわよ…!」
「またなんなんだよ!面倒くさいなぁもう!」
「手伝ってよ!手伝いなさいよ!クラス委員長としての命令よ!」
「他の人に頼めばいいじゃん。あたしは帰宅部の練習があるから手伝えません!大会が近いんだから1分1分が貴重なんだよ!!」
「はいはい」
「そこ、スルーしちゃうの?帰宅部の練習って何をするのとか、帰宅部の大会じゃ何を競いあうのとかツっこんでくるよね?」
「もうツッこむのも体力のムダって感じがするわ…っていうか、そうじゃなくて!!他のクラスメートには出来ない事なのよ!アナタにしか出来ないことなのよ!だからアナタに頼んでるの!わかる?」
懲りてねぇなぁ!!
前回それで大変な事になっただろうに!
そのアナタにしか出来ないこと、じゃなくて正確には俺やメイリンやコーネリアやマコトにしか出来ない事でしょうに。
「コーネリアとメイリンとマコトも呼んどく?」
「いいわね!!…マコトちゃんは大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、ユウカより全然使えるって」
「あ゛ぁ゛?」
やれやれ…。