96 アンダルシア・コンフィデンシャル 5

要注意人物であるコーネリア、メイリン、マコトの3名の外国人と俺(何故俺が要注意人物一覧に入っているかは実に疑問だが)の捜査が終わったので後は残りの女子の持ち物検査である。
特に目ぼしい発見はなかった。
目ぼしい発見というのは、例えばエロ本が出てきたりとかオナニー道具が出てきたりとかコンドームが出てきたりとかそういうイベントはなかったのだ。一人ぐらいは学校にピンクローターを持ってきてもいいと思ってはいるのだがどうだろうか、この純潔具合は。
ただ、女の子の日の為のナプキンやらアレに突っ込んで中で膨らむアレとか替えのパンツだとかいわゆる「男子を教室の外に出してまでも女子の持ち物検査をした理由」的なものが出てきた。
コーネリア、メイリン、マコト、そして俺の「姿は女の子だけど中身は男の子」組については、そういう様子を決してニヤニヤしながら見ていたわけではない。
こういう局面に出くわせば意外と渋い顔でそれら「女の子の影の部分」を見ている自分たちがいるのだ。
例えばこういうのを見て「あぁ、女の子は綺麗に着飾っていても所詮は動物なのだなぁ、人間の文明がどんなに発達しててもナプキンを用意して定期的に訪れる排泄物をキャッチしなければならないのだなぁ」なんて苦虫を噛み潰したような顔で見る。
女の子も男の子に知られたくない事であり、そして、男の子も女の子のそういう部分については見たくない。生理が来た女の子を前にして「あぁ、それは定期的に来るものだよね」と冷静な反応をするよりか、そんなものは無かった事にして目の前の可愛い女の子の部分だけを見ていたい、と、それが例えガキっぽい要求だとしても…男という生き物はそういうものなのだ。
だから無理矢理にでもナプキンやらアレに突っ込んで押し出して中で水分を吸い取って膨らむアレとかを見せられた俺達は、サンタクロースは居ないんだよって人生最初のクリスマスに大人に聞かされた時の子供のような何とも言えない渋い顔をしていた。
「さて、これで全員終わったかな」
どうやら終わったようだ。
ユウカが清々しい顔をしている。
一仕事終えた後の顔だ。
しかし、よくよく考えるとまだ一人だけ持ち物検査をしていない人がいるぞ。つまり、ユウカ自信だ。
「ユウカ、これだけ他の人達のプライベートを覗きこんでおきながらまさか自分は持ち物検査しないってオチじゃないでしょうね?」
と俺が聞く。
「あぁ?私は潔白よ?どうぞ、お好きに見てくださいな」
まぁ多分潔白だろうとは思うけど、俺の期待はユウカのバッグの中から何かとんでもないものが出てくる事だ。例えばぁ…。
と俺はユウカのバッグを教卓の上でひっくり返すと、白い粉みたいなのが入った小さな袋がポトポトポトと落ちた。
「はぁぇぁ?何これ?」
とすっとぼけた声を出したのは誰であろう、ユウカ自身だ。
「小さな袋に白い粉…」
一つは4センチぐらいの透明な袋に入った小さじ1杯にもみたない白い粉。砂糖のような色ではなくて透明な色で大きさも疎らだ。
「あぁ〜、これってお菓子のアレかな?」
と俺が聞く。
「いや…私、別にお菓子の乾燥剤だっけ?…乾燥剤なんてバッグに入れてないし、それに密封されてたら効かないじゃん」
「じゃあこれなんなの?」
「さぁ…?」
いやいや、さぁ、じゃねーだろ、なんなんだよこの変な袋は!!
俺はジト目でユウカを見つめた。
「ちょっ!ち、違うわよ!私は何も…これなんなのよォォ?!」
「せんせー、ビッチさんが麻薬持ってきてまーす」
「ビッチじゃぁねぇッつゥの!!」
俺はケイスケをチラッと見た。
早い。
既にケータイでどこかへ連絡している。「あぁ、警察ですか?今すぐ来てくださいにゃん!」とか言ってる。早い。早いぞおい。
みんなも俺やユウカや先生の様子がおかしいことに気づいた。
「ねぇ?もしかして…」「え?マジで?」「ユウカがラリってんの?」「クラス委員なのにねー、マジキチ」「アレってアレに塗ってからセックスすると気持ちいいらしいよ」「マジキチ」「麻薬をヤってるユウカはなんて呼べばいいの?ビッチじゃだめだよね」
と、ヒソヒソ声レベルを超えてクラス中でユウカというキーワードが人気上昇中だ。検索ワードにユウカ・麻薬って入力したらサジェスト機能で最後に「ビッチ」って自動で現れそうなぐらいに。
そんなヒソヒソ声の中で一人だけ周りとちょっと違う話をしているのが俺の耳に聞こえたのだ。それはメイリンの声だ。
「アレはみんなのバッグに入れるのか?私のバッグに入れないのか?高く売れるのか?」と、メイリンの前の席の女子の袖をクイクイ掴んで何か問いただしている。袖を掴まれてる女子は凄い迷惑そうだ。
メイリン、どしたの?」
と俺が聞く。
「私の席の前、コイツ、ユウカのバッグの中にあの袋、入った麻薬みたいなもの、入れてた」
クラスメートの視線が一斉にその女子に集中する。
そりゃそうだ。
今のメイリンの話が本当なら自分が持っていた麻薬っぽい怪しげな袋を持ち物検査で見つかる前に、ユウカのバッグの中に忍ばせ、罪を擦り付けたのだから。十分に睨まれる権利と義務を持っている。
キッと周囲を睨んだ後、その女子は素早く立ち上がって教室の出口へと走りだす。…が、このまま逃すと面倒な事になる。
俺はグラビティコントロールで教室の出口の扉を閉めた。
自分で扉を開けて廊下へと出ようとした瞬間に俺のグラビティコントロールが作動して扉がしまったものだから、その女子としては、後は目の前の扉に思いっきり顔面をぶつけるぐらいしか選択肢はない。
(パーンッ!)と気持いい音がしてからドアのガラスにちょっとだけヒビが入り、「んブッ!」と小さな悲鳴を上げてその女子は後ろにひっくり返った。
三者から見たら自分で開けたドアを自分で閉めた後にそこに体当たりをしていった、というマヌケに見える。気絶したその女子…仮に少女Aとすると、その少女Aを逃げ出さないように俺やマコトでロープで手足を縛って、身体の方はコーネリアが亀甲縛りをしていた。
かくして、まさかの持ち物検査での麻薬摘出な大手柄をユウカは成し遂げてしまったのだ。