96 アンダルシア・コンフィデンシャル 1

校長先生ってどうしてこう人が眠くなれるような話し方をしてるんだろうか。この先生が不眠症で苦しむ人達が床に入る前につまんない長話をしたらそれこそぐっすりと眠れそうな気がする。
というのも、今、俺は講堂での全校集会で校長先生の長話を聞かされて『スイマー』と呼ばれる人間本来の欲望を司る悪魔にやられそうになってしまうところなのである。
俺の隣にいるコーネリアもスイマーにやられそうに、っていうか既に撃沈されていてぐーぐーと小さないびきをかきながら寝ている。本当に気持ちよさそうに寝てるなぁ。
そういえば電車の中で立ったまま寝てる人を見かけたことがあるけども、あれはだらしないというよりも羨ましい。立ったまま寝れるような特技を身に着けたい。中には目を開けたまま寝るという荒業を会得するものもいるらしい。しかし目を開けたまま寝ているようでそのまま死んでしまった人もいるから要注意だ。
とにかく、コーネリアは俺と違って座って姿勢を正したままの状態でスースーグーグーと気持ちよさそうに寝れるタイプの人間らしい。俺の場合はこのまま寝るとなると前のめりに倒れて床で寝てしまうか、背もたれに身体を任せてだらんと伸ばし最終的には後ろからゆっくりと床へ墜落してそのまま寝るか、結局最後は床で寝ることになるのだ。コーネリアが実に羨ましい。
遠目に見てもまじめに話を聞いているように見えるからな。
それにしてもじつに姿勢が正しいな、外人のくせに。
おっと、こんなところでまたしても俺のレイシスト根性が現れてしまった。日本人なら姿勢が正しいなどと勝手な前提が頭の中に展開されていたのだ。いけないいけない、テヘペロ。こんなに姿勢が正しいのなら是非とも支えにもなってほしいものだ。…支え?ちょうどいい、俺も眠いのでコーネリアの肩を枕代わりにして寝よう。
…。
俺は美少女(コーネリア)の肩に頭を乗っけて眠ってみた。
ん〜…駄目だ。肩は枕の代わりにはならない。
やっぱり人間の身体は柔らかい部分と硬い部分がある。どんなに2次元から再現されたような美少女であっても骨が出ているところは硬いのだ。肩、腕、腰…などなど。女の子で柔らかいところと言えばおっぱいかお尻か太ももかのどれかである。この体勢で枕に出来そうなのはやっぱり太ももだ。
俺は女の子の太ももを枕にして一度寝てみたかったんだよなぁ…。
コーネリアのアメリカ産シャンプーの派手な匂いがプンプンしているなかで俺は彼女のスカートをちょっと捲ってちゃんと柔らかくて白い太ももを露出させた上で、そのすべすべのところに頬をくっつけて眠る。
…。
駄目だな。眠れない。
今、下手に身体を動かしたせいで頭がクリアになってしまって眠れない。眠れなくなってしまった。いや、体勢が悪いんだ。コーネリアの太ももに顔をくっつけて寝るとすれば、今度は俺の足をどうするかが問題になる。頭だけ無理に太ももに置くと俺の腰は歪に曲がってじつにアンバランスな姿勢になるのだ。
つまり、俺の頭をコーネリアの太ももに置くとなると、今度は俺の足を別の誰かの太ももに置かなければベッドにはならない。
この俺の足を隣の女子のスカートの上に乗っけて…。
「何すんのよ!!このバカ!」
という凄まじい怒声&押しで俺の身体は思いっきり宙を回転して講堂の冷たい地面に叩き落されたのだクソッタレのユウカのせいで。
「イテテテッ!」
「いてててじゃない!」
「眠れないじゃないか!」
「そう、じゃあ、永遠の眠りへと誘ってあげるわよ」
とユウカは俺の首の周りに腕を回してチョークスリーパー…!!ぎゃあああああああああああああああ!!!!
「ぎヴ…ぎ…ヴ…あっ」
さて、チョークスリーパーの件は忘れよう。
次にホームルームの時間、先生に話があります、とユウカが壇上へと上がってからクラス委員としての(こいついつからクラス委員だっけ?)役割が云々と語った。
長長しくて眠くなるので話は途中から聞いてなかったが、突然「今から持ち物検査をします」とか言い出すのだ。
「なんで今から持ち物検査なの?マジキチ」
と俺が言うと、ユウカは額に青い血管を浮かび上がらせて、
「マジキチはアンタでしょうが!今の話聞いてなかったの?」
「聞いてなかった」
「聞けよ!」
「だから何、何で持ち物検査をする運びになったの?」
「それは校長先生の話でさ、」
「それも聞いてなかった」
「聞きなさいよ!」
「寝てたし」
「」
「その顔芸やめて」
「顔芸じゃない!呆れてものが言えない時の顔よ!」
まず校長先生の話だと、最近、街で麻薬を売っている人達がいるらしい。ねずみ講のような売り方の為、売人が生徒で誰が親元なのかわからないので警察は捜査を手こずっているとのこと。ただ、それでも売ったら売ったで罪にはなる。ユウカの話はこのクラスで麻薬を売っている奴がいないかどうかチェックしたいとの事。
しかし、俺がその話を聞いてどうこう言う前に既にクラスではユウカの持ち物検査には反発する声が挙がっていた。
「麻薬持ってきてる人なんて居ないって!」「クラス委員のユウカがクラスの人間を疑うの?!」「プライバシーの侵害だわ!」などなど。それから、「前回バレンタインの時にも先生が強制的に持ち物検査したからみんな持ち物検査には嫌悪感があるんだと思うよ」という最もらしい意見もでた。ついで「麻薬は見つからなくても別のものが見つかって先生が取り上げたりするからさー!」とわざとらしくケイスケのほうをジロジロと見ながら意見を述べる生徒もいた。
ユウカは皆を鎮めるためにちょっと考えた後、
「わかった!私が持ち物検査をするから。先生は教室の外で待ってて!それから、男子も持ち物検査が終わったら教室の外で待つこと!女子の持ち物検査が終わるまでね。これでいいでしょ?」
それでもまだブーブー言う連中は居たものの、ほぼクラス全員の同意を得られたようだ。ケイスケは持ち物検査をしたくてたまらなかった感が顔にモロに出てたが渋々と教室を出ていった。