95 赤と青 1

少し前まではスタバでドヤ顔していたのに、今、俺は嫌々ながらに車で自宅まで移動している。車は誰が運転しているかと言えば、あのキサラの連れ(というかボディーガード)のソラっていう男だ。
あの後、キサラはどうしても俺の家(正確にはケイスケの家だけど)に行ってみたいと言い出したのだ。家の場所はもう知っているらしいから嘘を言ってもバレてしまうだろうし、俺としてはもうあの流れ的に断りようもないし、この車に乗らないという選択肢は既にその時から無くなっているのだ。こういう選択肢が削られるという状況は生粋のフリーダム人の俺からすればとても居心地が悪いんだよ。
それもこれも、全部、今、俺の隣でウキウキしているキサラとかいう金髪美少女のせいだ。あぁもう!!俺は女のこういうところが大嫌いなんだよな(あくまでキサラが外も中も女だと仮定すると)こういう男をフリ回すところがさ!!このボディーガードっていう男も随分と振り回されてるような感じじゃないか。お疲れ様です。
程なくして車はケイスケの家についた。
「あの時のまんまねー!変わってないわねー!」
とニコニコしながらキサラは車を降りる。
「外見は他の家々と変わりないが、実は怪しげな地下室が…っていうアレだよな」とソラ。こいつも色々と知っているらしい。
「ケイスケ〜!いる〜?あたしよ、あたし」
と家の入り口に向かって叫ぶキサラ。ったく、何が「あたしよあたし」だよ。オレオレ詐欺かよ。名前を名乗れ名前を!
ドアフォンからホログラムが現れてナツコの姿が見える。向こうからも怪しげな女、キサラがホログラム表示されているのであろう、訝しげにソレを見てから、
「どなたですの?お兄様のお友達ですの?」
と言い出す。
ナツコは知らないのか…。
「そうそう、お兄様の友達よぉ!」
とニコニコ微笑む。不気味な笑いだ。
「今ケイスケ、外出中なんじゃないのかなー?」
と、なかなか諦めないキサラに俺が説明するが、
「じゃあ、待ちましょ!地・下・室・で!」
と、セリフの一番後ろにハートマークでもついててもよさそうなぐらいに不気味な笑顔でとんでもないことを言い出すキサラ。
「おいおい、勝手に人の家に上がりこんで地下室で待つとか、そんな事したら怒られるぞ?あのデブに」
そうソラが言うと、キサラは振り返ってソラに向かって、
「いいじゃないのよ!あたしが作ったんだから!作った人が入っていけないなんてそれはないんじゃないの?」
「お前…なぁ…家に大工があがりこんで『作ったんだから勝手に入ってもいいだろ?』って言い出したらどうするつもりなんだ」
「もちろん追い出すわ!いや、殺すわ!」
殺すんかい。
話をしていると、車庫に車が。
「あ、ケイスケが帰ってきたみたい」
ようやく帰ってきてくれたかよ。コイツらが家に勝手に上がりこんで地下室にでも行ったらまたケイスケがキレるところだったよ、キレたらめんどくせーんだからもー…。
ケイスケは玄関で待っている俺達に気づくと、
「おおおおおおお!!!」
と驚いている。いや、喜んでいるのかな?
「おひさしぶりー!また太ったわね」とキサラ。
「おひさしぶりですォォォ!!!」と喜ぶケイスケ。
「よう、デブ」とソラ。
「二人ともこの街に戻ってきてたんですかにぃ?!」
「そうよ、久々に戻ってきたらほら、この子(俺を指さして)と出会っちゃってさ、どうしたのよもー!!ドロイドバスターを創り出すって話は本当だったのね?」
「フヒヒ…マッドサイエンティスト・ケイスケの辞書には『諦める』っていう言葉は存在しないにゃん!」
「それでぇ…あのキミカって子があなたが創りだしたドロイドバスターなの?他には?なんかあの子の言うにはこの街だけで5人のドロイドバスターがいるっていう話じゃないの?」
「あぁ。2人はこの家にあと2人はうちのクラスで受け持ってるにぃ」
「く…クラスゥ?!」
「そうですにぃ…ひょんな事からとある学校のクラスで担任を受け持ってるんですにゃん。不本意ですが〜」
それを聞いたキサラは眼を見開いて(大喜びモードで)、
「いいわね!それ!あたしもそのクラスに入れてよ!」
「はぇァ?!」
あぁ…ケイスケ…やっちまった感あるな。
「アンダルシア高校でしょ?!聞いたわよ!」
「ダメダメダメですにぃ!」
「なんでよ!」
「定員オォーバァー(白目」
「んな事気にしなくてもいいじゃないの!1人よ?1人増えるだけよ?」
「1人増えるとォ…『居ない人』を1人増やさなければ…惨劇が始まってしまうのですゥニィ…(白目」
「それは何?増えた1人を殺せば惨劇は収まるっていう話?」
「ニィィィ…(白目」
「大丈夫よ!私は強いから殺されたりはしないわ!惨劇OK!っていうかこの家にいるドロイドバスターを紹介してよ?さっき玄関のインターフォンに出た人?」
あぁ、ナツコの事か。その人じゃなくてェ…。
玄関のドアが開いた。
玄関に客人を待たせていたら外から声がして気になったのだろうか、ナツコとマコトがひょこっと顔を覗かせているのだ。
「あら、キミカちゃんおかえり。その人達は?」
「えっとねぇ…この人達は、」
と俺が言いかけると紹介を待たずにキサラは、
「超ウルトラスーパーワンダフルアルティメットスーパーウルトラアルティメットド級ドロイドバスターのキサラよ!シクヨロ!」
と握手を求めた。名前長いよ…。
「よ、よろしくお願いしますわ…」
「あなたがドロイドバスター?」
「え?わ、わたくしは違いますわ」
ナツコは握手しながら見つめてくるキサラから逃れるように目を逸らしている。ナツコはパニック障害と対人恐怖症があるからなぁ。
「妹のナツコですにぃ」
とケイスケは紹介する。
「妹がいたの?!へぇ〜…」
それからキサラはマコトと握手して、
「超ウルトラアルティメットスーパーウルトラアルティメットド級ドロイドバスター鋼の錬金術師兼現代の鍛冶屋のキサラよ!シクヨロ!」
さっきと名前違うじゃん。
「え?あぁ、シクヨロ…」
マコトとキサラが握手する。
「あなたがドロイドバスター?」
「えぇ?なんでわかったの?」
って、そりゃ2択だからな。一個ハズレりゃあと一つじゃん。
「ドロイドバスターの女の子は2次元から飛び出したような可愛さがあるから見ただけで判るわ!ボーイッシュね!一人称はボク?」
「えぇぇぇ?!なんで??そ、そんな事までわかるのぉ?!」
「なんでもお見通しよォ?!」
「あわわわわ…」
それからズカズカとキサラはケイスケの家の中に入っていった。