94 Dの食卓 4

今日もスタバだ。
さすがに2回も出会えばあの金髪美少女の顔も覚えている。
そして「そういえば『前々回』はaiPhoneを恥ずかしげもなく持ってきてて、『前回』はaiPadを持ってきてはいたが、不幸にも俺も持ってきてたのを見て、恥ずかしげもなく怒って店を出ていった美少女が貴方ですね」とでも声をかけてやろうか、なんて思えるほどにはあの女の子の印象は俺の脳裏に刻まれていたのだ。
さて。
入店してから、まずカウンター前に立って、
「メニューはいかがなさいますかァ?」
なんて声をかけられる。もうそろそろ「いつもの奴で」って話せばいつもの奴を持ってきてくれるぐらいには店員も俺の事を覚えててくれてるんじゃないかなぁ?なんちって。
では、注文をば。
「え〜っと…クワトロベンティクラシックキャラ…」
スラスラと言おうとしたら俺は途中で中断してしまった。中断せざるえなかったのだ。何故なら、あの金髪美少女が入店していて、俺の隣に立って注文を待っていたからだ。
あの金色の美しい金髪と青の花の髪飾り、そして背は俺よりも少し高いぐらいで、俺好みの美乳。サイズはEかFぐらいはありそうで細いくびれで…年齢は俺と同じぐらいなんだな。
側に立っているだけで色香でフラフラさせられそうだ。
俺と目が合うと、通常の人間が見てしまえばあまりのドヤっぷりで呆れて卒倒してしまうレベルのドヤ顔をしやがったのだ。
俺が通常の人間じゃなくてよかった。俺はそういうタイプのドヤ顔は今まで散々見てきた。そして散々負かしてきた。だから耐えれたのだ。
しかし…それにしてもこのドヤ顔の理由はなんだ?
俺は注文をしながらもチラチラとその美少女がドヤ顔で持っているモノを見た。11インチはあるであろうバッグ。
…11インチ…だとゥ?
MapBookAirが11インチだ…。
おいおいおいおい!!
MapBookAirを持ってきたというのか…?!
気がつけば俺は手にぐっしょりと汗を掻いている自分に気付いた。
まだだ…まだ『確定』はしていない。
確かに11インチだ。だけど、11インチなら他社製のノートブックでもありうる。もしそうだったら本気で失笑モノだ。何故なら、MapBookAirを持ってきているのはスタバ常連なら当然だからだ。だが今までの流れを考えればどう考えてもこの美少女はMapple教徒だ。
98%ぐらいの確率でこの美少女が持っている11インチ大のサイズのバッグの中には鋭利なMapBookAirが忍ばせてある。以前、あまりにも鋭利過ぎて一時的に警察からは銃刀法違反で捕まってしまう事件が起きたという鋭利なMapBookAirが!!
クソ…追いついてきたというのか…!!
俺に!!!
ちなみにMapple教というのはMappleの製品を全部買ってしまう人達の事である。Mappleはケータイ(スマフォ)以外にもパソコン、ノート、ホログラムディスプレイ、サーバ機器、大型演算機、コスモシュミレーターなど様々なデジモノを扱っているのだが、一般ユーザ向けの製品を全部揃えている人達をMapple教徒と呼ばれている。
世間一般の認識ではそうだが、実はそれだけではなく、Mappleストアに献花した人であるとか、ジョブズの墓をわざわざアメリカまで行ってお参りした人だとか、aiPadを遺影として使って常にジョブズのハンサムな顔をホログラム表示させたりとか時間が経てば経つほどにMapple教徒の敷居はどんどん高くなっているような気もする。
俺も自身がMapple教徒という認識はしている。
寝るときもジョブズに足を向けて寝るな、というMapple教徒の教えの一つを守っているのだから。ジョブズに足を向けるってどっちがジョブズやねん、と大阪人ならすぐさまツッコミを入れてくるだろうからあえて説明させていただくと、ジョブズアメリカで死んだので世界地図から見たら日本の右側。右と左がわからない人は東京か九州のどっちかに足を向けて寝れば大丈夫だ。嫌いな人が多いほうに足を向ければいい。ちなみに俺は北に足を向けて寝ている。
…って、そんな事はどうでもいいんだよ!!
俺は手の汗をスカートで拭き拭きしてから、注文した品が入っているトレーを持って(あぁ、クソ…トレーが震えでカタカタ動いてる、収まれ、震え!まだ確定したわけじゃないだろう!!落ち着けキミカ!)王座の隣の空いている席に座った。
しばらくすると、ゆっくりと、そして確実に、あの金髪美少女がやってくる。品物が入ったトレーと肩にはバッグ(11インチ代)を掛けて。そしてその美少女は王座の隣の空いている席に座った。
やばい。
心臓がバクバクする。
来るか…?来るのか…?
ドヤ顔で美少女はバッグの中から…
うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
『 M a p B o o k A i r』を取り出した…。
俺の視界はフラフラだ。多分、目の視点が定まらないでキョロキョロしているのだ。慌てている証拠だ、クソッ!!そんな大慌ての俺を王座を挟んだ反対側で美少女が見ている。
あの金髪の美少女がドヤ顔で俺を見ているゥ!!
やめろ!!そんな顔で俺を見るな!!
し、しかも、そのMapBookAir、通常はMapBookAirの後ろには可愛らしいリンゴのマークが光っているのだが、その美少女が持っているMapBookAirはカスタマイズモデルらしく、可愛らしいハートのマークが光っていやがる!!クッソォ!!俺は対抗してウンチのマークでも光らせてやろうかと思ったよ!
追いつかれたのだ。
あっさりと。
わずか3回の遭遇で俺は追いつかれた…。
注文したやたらと長い名前のよくわかんない飲み物を喉に流し込んだ。もうこの飲み物の名前も思い出せないや…どうでもいいや…敗北したんだ。家に帰ろう…ここでドヤっててもあんまり意味ないし。
敗者の背中にはあの美少女のドヤ顔視線を感じだ…。