94 Dの食卓 2

スタバの中2階というか…半2階というか、階段をわずかに登った場所にある席はドヤラーの特等席になっている。
時間にもよるがMapBookAirを所持したドヤラー達に占領されて座れない事もしばしばあった。幸いにも今日は座れるので俺は背後にある本棚をバックにテーブル席に腰掛けてMapBookAirを広げた。
広げた瞬間、一斉に視線を集める。
そう、これだ。
これが最もこの店で素晴らしい瞬間なのだ。
MapBookAirを広げるべき人間が、広げるべき場所で、広げている。まさに適材適所…この椅子や本棚やテーブルもそれを待ち侘びているに決まっているのだ。俺がMapBookAirを広げる事を。
そして店内の人間も同じくそれを待ち望んでいたのだろう。
美少女とMapBookAir、その2つの組み合わせで既に店内の視線を独占した俺はさらに絵になるようにと背後にある本棚から本を一冊取り出してまじまじと見つめる。英語で書かれてあるらしくまったく読めないがきっと絵にはなってるだろう。
店内には数人のドヤラーが居たが俺の敵ではなかった。まずMapBookAirを所持していない人間は問題外として、彼等、彼女等は俺の持っているMapBookAirよりも1バージョン前のものを持っていたからだ。それではドヤれない。もう今日は家に帰ってママのオッパイでもチュチュチュチュ吸いながら明後日来やがれという話だ。
ポジション、ユーザ、そしてMapBookAirのバージョン、全てにおいて俺が優れているこの状況ではまさにこの中2階、いや、半2階はまさに玉座ともとれる。フハハ!愚民どもよ私にひれ伏すがよい!
さてと…ドヤった事だし、そろそろ今日ここにやってきた理由でもありますところの『ブログ』を書きましょうかねー!
その時だった。
ドヤ場(スタバ)の入り口の扉が開き、ここはアメリカですか?スタバの本場、アメリカですか?って思ってしまうような、金髪の美少女が入ってきたのだ。コーネリアかと一瞬思ってしまったよ。違うみたいだし、よかったよかった…コーネリアだったら「Oh!キミカ何シテルノー?!マタボッチデ喫茶店ヲ楽シンデルノー!?オ友達トモ遊ンダホウガイイデスヨォ?」って言うに決まってる。
しかしそれにしてもこの金髪美少女は可愛らしいな。
年齢は俺と同じか少し下のようにも思える。
金の髪は先の方がパーマというかウェーブというか、そういうのが少しだけかかっているようだ。花の形をした髪留めで髪を括りつけている。スタイルは申し分なくよろしく俺好みなグラマーな体型…出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。つまり、ウエストもアニメの世界から飛び出たような細さ。
きっと現実に存在する女性は「ウエスト細すぎ、ありえない」と彼女の存在を否定するのだろう、しかしそこに存在するのだ。確かに。
服装はそのグラマーな身体を隠すように白のセーター、その下には赤のネクタイとブラウス、そしてチェックのミニスカート、その間から覗かせるニーソックス。
痛いところを突いてくる、オタク達にとっての「ツボ」という名の痛いところを。分かる人は脳内で「いたたたたたた…痛い…胸が痛い、胸が苦しいなんだろうこの気持は…もしかして…フヒヒ」と思っているに違いないのだ。
ん…アニメの世界から…出てきたような?
んん?
ん〜…。
…まさかね…。
さすがの美少女の俺でもやはり日本人だ。日本人が日本のスタバに入ってきてそれがどんなに美少女だろうと、外国人の美少女がスタバに入ってきた時のインパクトに比べると目立ちはしない。
その女の子がスタバに入ってからというもののドヤラー達も一般客も目が釘付けだった。
そして金髪の美少女はカウンター越しに店員に注文する。
ドヤ場(スタバ)の客達は器用にも話をしながら、そして作業をしながら、この美少女が何を注文するのか聞き耳を立てている。
ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノをちょうだい」
あ、あれ?
あれれ…?
長いメニューだ。いや、それは置いといて、声はアニメ声で凄い可愛らしい、いやいや、それも置いといて、重要な事があるだろう。
…そうだ。
日本語ペラペラじゃん。
なんら訛りもない、発音も悪くない、むしろアニメ声である分、なんだか滑舌もよく普通の人よりも日本語が美味いようにすら感じる。
店内の客達も同じように思ったはずだ。
外人だと思ってた客が日本人かもしれない。という注目するべき話題が店内の客の間に沸き立ってくる。時々聞こえるヒソヒソ声。
くぅぅ…話題を独占されてしまった。
しかし、別にそれでも構わないよ。
俺にはMapBookAirがあるし。
パソコンオタクの自慢大会の中で美少女が現れて今までどれだけの男に愛されてきたのか、どれだけの女の尊敬を集めてきたのか、と長々と自慢話をし始めたようなものとおんなじだ。「あ、そう」で済む話じゃないか。「あ、そう」はい、おしまい。
さてと、仕事(ブログ書き)の続き。
と俺が再びMapBookAirのほうを見つめた時、その視界の隅に例のアニメ声な金髪の美少女の姿が入った。ふむ、下の段のテーブル群の一つにちょこんと腰を掛けて電源ジャックを探している…これは、もしかしてMapBookAirを使うのか?しかし…あのバッグはMapBookAirを忍ばせるにはちょっと小さすぎるような気がする(って俺は意識しちゃダメだと思いつつも金髪美少女の持ち物をまじまじと見ていた)
バッグの中から取り出したのは…aiPhone…。
うわあぁぁぁぁ…なんだか一気に身体の力が抜けた。
スタバに来てaiPhoneの充電…かぁ…。
俺は情弱を見るような目でその金髪の女の子を見た。