93 僕は友達がいない 8

夕方。
帰宅。
「キミカちゃん!あぁ…ボロボロじゃないかぁ…」
マコトは玄関で俺を待っていたようだ。
「クッソォ…ソンヒの野郎ゥ…」
さすがにカノン砲の砲弾が至近距離で炸裂したのでバリアを貫通して変身前の状態まで戻されてしまった。その時に服がボロボロになってしまったらしい。とっさにバリアで防いだのが間違いだったか…。バリアは展開までが早いから使い勝手はいいけど、防御力としてはブラックホールを作って吸い込んだほうが強いな。
「おいおい…おっぱい見えてるぞ…」
どうやら金髪くんも家で待機していたようだ。
俺はおっぱいを隠した。
すると金髪くんは俺に近づき、
「俺の負けは認めるよ。アンタは凄い。最強のボッチだ。でもなぁ…ボッチで喫茶店行ったり、ボッチで焼肉店いったり、しまいにゃ不良に絡まれて銃撃戦になったり…まぁ銃撃戦は別としても、そういうのがあるのなら、友達がいたほうがやっぱりいいじゃねーか」と言う。
「まだ友達欲しいんだ?」
「あぁ、そりゃぁな」
はぁ…やれやれ。こいつはまだ諦めてないわけだな。俺がボッチの魅力について教えてあげたのに。まだまだ友達を作るだけのレベルに到達していない。なのにボッチである事に誇りを持っていたり、チグハグなんだよなー。やってることが全部。
態度で示してわからないのなら、言葉で直接語ってやるか。
「それって、結局、1人でいるのが嫌なだけだと思うけどなぁ」
「え?そりゃぁ…そうだろ。だから友達が欲しいんだよ」
「ふ〜ん」
「な、なんだよ」
「そんな理由で友達が欲しいと思ってたんじゃぁ、もし貴方と友達になってくれる人がいたら、その『友達』は可哀想だね」
「え?…いや、だから」
と、何か反論をしようとするも、少し考えてから金髪くんは反論を喉の奥でとどめた。俺の言ってる意味を理解してくれたか。
その時、夕日に照らされながら、小柄な女の子のシルエットがこちらに向かってくる。なんか格好が…
コーネリアのコスプレェ?!
「にぃちゃーん!!」
にぃちゃん?!
「あ、ちょっ、おまっ」
金髪くんは大慌てだった。どうやら彼が「にぃちゃん」らしい。そしてこんなコスプレ妹を俺達に知られたくなかったみたいだ。
「凄い…妹さんだね…」
「いや、そのこれは。なんていうか、」
「もー!にぃちゃん!早く家に帰らないとまた叱られるよォ?」
いい年こいて金髪なのに早く家に帰らないと叱られるのか。しかも妹に迎えに来てもらって…あらあら…、という表情で俺は180センチはあるであろう不良っぽい金髪くんを見つめる。
「おい、やめろ!!そんな哀れな者を見るような目で見るな!」
しかしまぁ…凄いな。
「ドロイドバスターのコスプレ?」
と俺は小学生ぐらいの年齢に見える金髪くんの妹に聞いてみる。
「うん!ドロイドバスターのコーネリアのコスプレだよ!」
やっぱりそうかァ…コーネリアも結構知られてるんだなぁ。このコスプレに似合うであろう長い黒髪をツインテールにして、黒のドレスっぽい戦闘服を着ている。
「あー!もうわかったよ!帰るよ!お前は先に帰ってろ!」
と妹に一喝する金髪くん。
「一緒に帰ってあげなよ」
「えぇ?!」
「いやいや…『えぇ』じゃないよ」
「こんなのと一緒だったら恥ずかしくて歩けねぇよ!」
そう言うとその妹さんは悲しそうな顔をする。
ったく、俺が言ってる意味、全然わかってないんだな。
「だからさー、さっきも言ったじゃん…そういう事を言うような人の友達になる人は、可哀想だなって」
「あ…」
そう言った後、金髪くんは俯いた。
「『友達』っていうのは寂しい時の人形みたいなものなの?自分を飾る為の道具みたいなものなの?そうやって人をモノみたいに『欲しい欲しい』言ってる人は、同じように人間を道具みたいに扱う人しか寄ってこないと思うよ」
「う…」
思いっきり胸を抑えて精神的なダメージを隠している。
さらに俺は続けて、
「その子はあなたの妹なんでしょ?…キミには友達はいないかもしれないけど、家族はいるじゃん。妹もいるじゃん。何が『1人ボッチで寂しい』んだよ。別に1人ボッチじゃないじゃん」
「で、でも、い、妹だぜ?」
「はぁぁ!?別にどういう立場の人だっていいじゃん!!大切な人にいちいちフダでもつけて管理してるの?」
「いや…」
「あたしはさ…前の学校でも友達は居なかったよ。確かに。寂しくはなかった。だけど、テロに巻き込まれて親が死んで、その時、初めて寂しいって思った。今は寂しくはないよ。家族じゃないけど家族みたいな人達がいてくれるから…。友達じゃないけど、友達みたいな人達が居てもいいんじゃないの?」
「友達じゃないけど…友達みたいな人達…」
「キミはいつも『自分は1人ボッチだ!』とか『友達が欲しい!』って言うけどさ、そうやって自分が持ってないものばっかりに目を向けてないで自分が持ってるものに目を向けるべきだよ。本当に大切なものは、今、キミが持ってるものにあるんじゃないの?…そうやって持ってないものを挙げればキリがないよ」
ようやく彼は俺の言ってる意味がわかったみたいだ。
うつむく金髪くんを心配そうに覗きこむ妹。
「にぃちゃん…友達いないの?…ウチが友達になったげようか?」
そう言う妹に、金髪くんは微笑み、
「帰るか!」
と言ってその子の手をとった。
そして二人して夕日に向かって去っていく。
さっきまで周囲の奴らが全部敵だ、なんて悲壮感漂う顔をしてたのに、あの金髪、幸せそうな顔をしていやがるじゃないか。羨ましい。
兄と妹…かぁ…いいものだなー。
俺はケイスケの部屋から兄と妹ってネタで本を探せば大量の近親相姦の薄い本が出てきて、俺の中の兄と妹のイメージがそれで塗り替えられそうになってたけど、改めて純粋な兄と妹を見てたらちゃんと本来あるべきイメージで置き換えることができたよ、ありがとう神様。
とりあえず、こうしてあの金髪くんの友達募集の部はなくなった。
というのは、数日後、たまたま通りかかった部活の部員募集の掲示板を見たら彼の「友達募集」の張り紙は消えていたから気づいた。
聞けばコーネリアの話では、教会の談話室であの金髪くんや神父さんや先生が楽しそうに話していたそうだ。
まぁ、仲良き事はすばらしきことかな。
俺もソンヒにあの日、キムチを顔面に塗りたくった事を謝ろうかな。
…。
……。
なーんちって、嘘だよォォーン!!(白目・あっかんべー)
謝るわけないだろうが!!
あンのクソ野郎ゥ…いつかブッ殺す…。