93 僕は友達がいない 5

俺はイライラしていた。
タクシーの乗車拒否というのは、タクシーの運ちゃんが金を稼ぎたいが為に距離の短い客は乗車を断るというもの…。「あぁ?そんな短い距離にタクシー使うんじゃねーよ!歩け!」というアレ。そして今しがた俺が受けた行為は「乗車拒否」ならぬ「来店拒否」だった。
俺は中華料理店のテーブル席で食べようと思っただけなのだ。
テーブル席しかないのだからテーブル席で食べるのが普通だ。
しかし、中華料理店のクソ店主は客が1人で回転テーブル席(10席)を占有するのはコストパフォーマンスを大きく下げるのだと言ったもどうぜんだ!!なぜなら、いそいそと「予約席」のプラカードを回転テーブル席に設置して俺が入るのを防いだのだ。
「許せない…」
ブツブツと言いながら白目を剥いて俺はフラフラと商店街の道行く人達の流れをかき分けながら歩いていた。
お腹が減った。
どうしてこんな目に合わなければならないんだ!俺は…俺は…ただお腹が減っているというだけなのに。
その時だ。
「ぷっ…(クスクス)…ねぇあの人、白目剥いてるよぉ」
「うっは!!なんだアレ、ウケる!」
と俺の前10メートル先ぐらいに歩いてこちらに向かってくるカップルのうち、女のほうが俺を見ながらそう笑い、隣の男も合わせてそう言ったのだ。許さない。許されざるカップルだ。
『うわ…きっつ…いな…。ボッチじゃなければこんな事言われる事は無かったと思うぞ』と金髪くんが言いやがった。
そんなにボッチが悪いのかよぉっ!!
『ボッチが関係あるの?』とマコトが質問。
『そりゃあるだろ。人間っていうのは集団の中にいるだけで自分が強くなったような気になるんだよ。だから集団と個が出会えばそれ相応の結果にはなる。集団っつても相手はカップル2名だけどな』
けッ…!
集団と個なら集団のほうが強いだってェ?
どっちが強いかわからせてやろうじゃんンン?これだけ許されざるカップルなら…壊し甲斐もありますからねぇ…。
俺はスレ違いざまにそのカップルの男のほうの腕をぎゅっと握ってから「この前は指名してくれてありがとー!」
と微笑みながら言う。
男はそれだけでパニック状態だ。
「え?なに?意味わかんねーし!!(苦笑い」
「え?なになに?今日は彼女と一緒なのぉ?そっか〜!!そういう事なんだァ…ま、彼女とエッチする時はちゃんとコンドームつけなよォ?あたしの性病が伝染っちゃうよォ?んじゃ、頑張ってネ!」
と相手に反論の好きを与えずに全てを言い切った。
『な、なんちゅう事を!!』
『キ、キミカちゃん?!まさか…風俗に…』
『いや、今のは演技だろ…』
俺はそそくさとそのカップルを後にしたが、後ろのほうで思いっきり音が聞こえたから、多分キレた彼女が彼氏の顔を手に持ったバッグでひっぱたいたんだろう。ザマァァァwwww
『女ならではの武器だな…これは可哀想だ』
いやいや、ボッチの防衛本能だよ。こっちはただ歩いていただけなのに、ちょっと白目は剥いてたけどさ、普通にちょっと白目剥くことだって人間ならあるじゃん。授業中とか眠い時にさ。それなのにカップル二人の間で話題に詰まってたからかしらないけど、俺をバカにして時間を埋めようとか卑劣極まりないじゃないか。ボッチはあんたらの暇つぶしの為に存在してるんじゃないんだよ!!!
まぁ気分もすっきりした事だし、今日はあそこにいくかな。中華がダメなら朝鮮料理ですね!
という事で、俺は商店街に昔からある焼肉屋に到着したのだった。
『一人焼肉…だと…?!』
『さっきまで1人で回転テーブル(10人分)を占有して中華料理を楽しもうとしてたキミカちゃんだからね…一人焼肉なんて赤子の手を捻る程度じゃないのかな…ボクはできない』
しかしそれにしても、1人じゃメシも食うことができないっていう人間も哀れなものだなぁ。
気兼ねしない仲間と食事を楽しむのはそれはそれでいいものだとは思うけど、食事っていうのは死ぬまでの間永続的に採らなければならないものなんだよ。その大切な時間を「1人の時はコンビニで済ませよう…」って感じで選択範囲が狭まってしまうってどうなのよと。1人じゃ食事もろくに選べないのかよっていう。
店内に入ると客はまばらだった。学生らしき連中がギャハギャハ笑いながら肉を食っている。後はサラリーマンが昼間っからビールを飲みながら上司と部下という関係でダラダラと話をしている。
俺が普段から愛用している一番奥のテーブル席は開いていた。俺はスタスタと進んで席にどっかりと座った。4人テーブル席に俺1人が座るという満足感。これもこの店がカウンター席をボッチ用に作らないのが悪いんだ!いや、悪いニダ!謝罪と賠償を要求するニダ!
なんて俺が朝鮮人のマネを脳内でしていると店主のババア(在日朝鮮人)が「てめぇまた来たのかコラ」とでも言いたそうに、汚らしいコップをトンッと力強く俺の座るテーブルへと置く。
「ナムル1とカルビが2、ネギ塩タン1、ホルモン2、ネギ飯」
と俺が注文を言う。
メモを取るわけでもなく、その店主のババアは奥にいる自分の息子(ここで働いてる)に朝鮮語でニダニダと指示を出している。
愛想は中国人の経営する店よりも悪い。
しかし味は保証しよう。
どんなにマズイ肉でもこの朝鮮人の味付け(謎)であっという間に素晴らしい焼肉へと変貌する。ただし肉が古いやつが混じっている時があって、その時は昔はお腹を壊してたっけ…今は平気だけどね。
さてさて、注文から3分立たないうちに肉が届きましたよッと!
『普通に美味そうだ』
と電脳通信が入る。
どうやら金髪くんとマコトは店内に入りテーブル席から俺の様子を見ている。そして俺が焼肉を焼いてるのを見て「普通に美味そうだ」と感想を述べたのだった。そうだ、それでいい…。
俺はこの店にただ食事をしにきたのだ。
それだけだ。
ボッチはそういうものなのだ。
目的を持ち、目的を目指し、目的を果たす。ただただ純粋に、下心などなく、俺は肉を味わう。それは誰かと誰かが一緒に居なければ出来ないとか、1人でそれをすると周りの視線が…とか、そんな事はぜーんぶ脇にどけて、純粋に楽しむものなんだ。
もともと動物とはそういうものだった。
だけど、人間だかサルだか、集団行動を歩む動物はその行為を「誰か」と一緒にしなければならなくなった。肉食獣に狙われる可能性があるからだ。しかし、この都会に肉食獣がいるのか?なぜそんなものも居ないのに誰かと一緒に食事をしなければならない?
ただ進化の過程の古い名残…例えばサルから人へと変わる過程で退化してしまった尻尾などに固執するように、いつまでもグチグチと集団欲求に固執するのはあまりよろしくない。
使わない機能は退化して当たり前だ。
だからボッチであっても、なんら恥ずかしい事ではない。ではボッチな人間とボッチではない人間が混在しているのは何故か?
それはボッチではない人間は本当に弱い人間だからだ。まだ進化の過程の途中にある、弱い存在。だから彼等、彼女等は1人にはなれない。1人になれば死んでしまう可能性があるのだ。
などと俺は思いながら次から次へと肉を平らげていった。
モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ…本当に美味しいなぁ…。
『あぁ…やべぇ…俺も腹が減ってきた』
『ぼ、ボクはお金はないよ!』
『俺も…』
クックック…。