93 僕は友達がいない 4

さて、喫茶店では俺は既に朝食であるトーストとブルーマウンテンのセットを平らげて2杯目のコーヒーであるマンデリンを嗜みながら、お気に入りのMapBookAirを広げているのだ。
カチャカチャとキーボードを叩く。
何をしているかって?
ブログを書いてるのさ!!
人間は朝起きてから2時間程度、脳の効率がとてもいい時間となる。この時間は通常の3倍から4倍の処理速度になるのだから、早く起きて何かをするっていうのがとても『人生』にとってはいい事なのだ。
起きた時間が既に12時を過ぎてて、まぁ、それだけならいいけど12時を過ぎてるわけだからお昼ごはんを食べたくなるじゃん?そうするとお昼ごはんを食べて脳に血液が行かなくて(胃に集まって)脳が活性化しない。だから朝早くに起きて目覚めの軽い食事を摂ることで身体を睡眠モードから覚まして、そして活性化した脳を使うのだ。
朝の2時間は昼の6時間分に匹敵する。
つまり、そういう事だね。
そしてこのマップル社のMapBookAirがあれば、脳の活性化は更に2倍。つまり、2時間×3倍×2倍=24時間分の脳の活性化を体験できるんだよ!!!凄いじゃないか!!さすがだよ!マップルは!
『すげぇな…さっきから周りが気にならないのか。随分と人が出入りする喫茶店で…ってか、店主も「朝食食べ終わったんだからさっさと店でてくんねーかな、この客」って目でアイツの事見てるじゃねーか。よくまぁこの威圧感に耐えられるよな…』
ふッ…他人が何を考えていようと、俺には関係ないね。
誰の人生なんだ?俺の人生は誰にとっての人生なんだ?あぁ?俺の人生は俺にとっての人生なんだよ!!!!そんなに店を出ていって欲しければ「おいてめぇ、朝食食ったんだったらさっさと店出ていけよコラ、こちとら回転率上げて金稼ぎしてーんだよ、空気読めやコラァ」とでも言ってくれてもかまわないのですよ?
だからと言って出て行かないけどォァヘァ(白目
『あ…キミカちゃんの隣のおじさん…』
ん?隣のおじさん?
俺は一瞬だけ、視界の中に隣のおじさんを入れた。
その隣のおじさんは家族連れで来てる。そして子供の前で「キーボードを叩くようなフリ」をして子供の笑いをとってる。でも「キーボードを叩くようなフリ」だけで笑いなんてとれるかァ?何が面白いんだ?…って気付いたんだよね、俺…。
そう、俺の真似をしてるんだ。
茶店にぼっちで来る美少女がクソ真面目にキーボードを叩いてるっていう状況がその家族にとっては珍しいし面白いんだ。だから子供のウケ狙って親父が俺の真似をしてるんだよ。
『おいおいおい…これはキツすぎるだろ…俺だったらキレてるぜ、キレて、「おいてめぇ、何真似してんだコラ」って胸ぐら掴んで脅すぜ…。どうするんだ?アイツ』
『キミカちゃんはそんな不良みたいな事はしないよォッ!』
っていうかさっきからマコトの電脳通信の電源入りっぱなしで声筒抜けなんですけど。
俺が何をするかって?
俺は今までにもこういう事はあったんだよ。別に今日が初めてってわけじゃない。だからと言ってカラカイに慣れてるわけでもないし、耐えてるわけでもない。そういうカラカイに対して何ら怒りなどを振りまいて周囲を冷めさせるわけでもない。
俺は次にそのオッサンが俺の真似をしたタイミングで、じーっとおっさんを見つめた。見つめただけだ。怒ったわけでも泣いたわけでもないし、寂しそうな顔をしたわけでもない。ただ無表情で。
すると、オッサンの正面に座っていた子供がそれに気づいて「おい!やめろ親父!!見られてる!気付いてるぞ!!」って顔の表情だけで知らせたのだ。オッサンはそれに気づいて素早く支度をして店主に向かって「ごちそうさま!!」といい、家族を連れて店を出た。
ふッ…。
これが俺の眼力だ。
あのオッサンに不幸が訪れますように…心から願い、俺もそろそろ店を後にしようと思う。そろそろ昼食の時間だ。
店主は「やっと出ていってくれるか」とでも言いたそうな表情で俺のコーヒー代とトースト代合計700円を受け取った。700円で朝7:30から12:00まで時間を潰しちゃったよ、テヘペロ
『お、店を出るみたいだな。飯を食いに行くのか?』
『そうみたいだね』
『飯っていうと定番はラーメンとかナクドナルドかな?』
『それはボッチでも入店できる店?』
『俺だったらそうだな…。それでも家族連れとか恋人連れが来ることがあるからなぁ…正直、ああいうボッチ向きの店には誰かと一緒に来るとかやめてほしいと思ってるんだがなぁ…』
というマコトと金髪くんの会話がダダ漏れ状態。
ラーメン屋ァ?
ナクドナルドォ?
そんなところに行くわけないじゃん…何が悲しくて食べたいものを我慢してそんな店に行かなきゃいけないんだよ!!!!!!
そりゃラーメン食べたいだのテリヤキバーガー食べたいだの、そういう欲求があるのなら別に行っても構わないよ?食べるものは自由だしさぁ。でもな、人に見られるのが恥ずかしいからとか、自分はここは場違いじゃねーのかとか、そんな風に思って入店する店を変えるっていうのは、何か人生を損してる気がするんだよね。誰一人として「お前はボッチだからラーメン屋に行け!」とか言ってないのに。
俺は商店街の途中にある中華料理店の前で中華料理のホログラムを眺めていた。歴史ある中華料理の店である。ホログラムにはテカテカ綺麗な油で光っている肉や野菜がある。とても美味しそうで見ているだけでお腹が減ってくる。さてと、今日は何を食べようかな?
『お、おいおい…中華料理店に入るぞォォ!!!』
電脳通信から金髪くんの叫び声が聞こえる。
ククク…奴には難易度が高すぎたかな?
『そ、そうみたいだけど、何が問題なの?』
『いや、何が問題かって…その…。じゃあお前に問うけどさ、中華料理店で一人でご飯食べてる奴をお前は見たことあるのか?』
『え…?』
『あのタイプの中華料理店は大衆食堂のソレとは違うんだよ。回転テーブルってやつかな、5、6人が座る巨大なテーブルがあって、』
『あ!あぁ…そうだった。そうだよ。台湾でも高級なほうの店はそういう造りだった!一人で食べてる人はいないよォ!』
『ちょっ、ちょっとまて、さすがにやばい。俺は止めてくる』
『えぇぇ?』
ふっ…バカめ。
既に遅い。
俺は既に店の扉を開けて中へと入った。
店内は家族連れや恋人同士で来ている者達、友達同士で何か「女子会」みたいな事をしている人達…とにかく、一人で来ている者は誰一人としていない…!!しかし、今ここに猛者が現るゥ…(白目
「お客さん、何人アルかぁ〜?」
チャイナドレスの店員の女の子があまり流暢ではない日本語で俺に聞いてくる。何人かだって?見てわからねぇのか?!俺の背後に背後霊でもいるっていうのかァァァ〜ん?
「 一 名 で す 」
俺は、悪ぶるわけでもなく、かといって怯えるわけでもなく、ただ落ち着いて、したたかに…今俺を含めて1名である事を伝える。
「い、い、一名…アルか…」
そのチャイニーズは無謀にも背後を振り返った。
「無謀にも」って俺がモノローグを垂らしたのには理由がある。何故なら、こういうタイプの中華料理店にはカウンター席なんて無いのだ。だから「無謀にも」…つまり、このチャイニーズはこの店にカウンター席が無いなんて百も承知なのだが、とりあえず店内に座るところがあるのか、演技として俺にみせた上で、「スイマセンー!お客さん、今はボッチ用の席はありませーん!」(直訳ではない)と俺を追い返そうと思っているのだ。
「スィま」
「空いてますよね…ほら、あのテーブルが」
言わせるかYo!!
俺は10人が座れるであろう回転テーブルを指さした。
「しょ、しょしょーお待ちください!」
チャイナドレスの裾をひらひらとさせながら大慌てでそのチャイニーズの女店員は店長らしき男に話をしにいったみたいだ。
1人で来た客を10名テーブル席に案内させるかどうか…。それはこの店の従業員がそれだけの「広い器」を心の中に持っているかどうかを試している事にもなる。
早口の中国語でペラペラと店主らしき男が店員の女の子に何か言ってる。俺は中国語はわからない。だから、今、ここにメイリンが居て翻訳してもらわなくてよかったと思っている。
明らかに店主は日本人とわかる俺を見て「コイツには中国語はわかんねーだろ」って安心しながら「ハァ?1人で中華料理店に来てるバカがいるだとゥ?さっさと追い返せそのバカを!!追い返した後は塩でも撒いとけ!」(中国語)って言ってるに決まってるのだ。さすがに俺も面と向かってそれを聞いてしまったらちょっとだけ動揺する。
『え、ちょっ…な、なんだよ…これ…』
って電脳通信が。これは金髪くんか。
どうやらマコトと二人、中華料理店に入って『俺』の置かれている立場を理解したようだ。
店の入口、レジの近辺に俺は立たされていて、店の奥のほうでは店長らしきコックがチャイナドレス姿の女の店員に対してまくし立てるように中国語で何か言いながら、時々俺の方をチラチラと見ている。そして店内では客達が俺を見ながらクスクスと笑っているのだ。
「ねぇ、あの人、1人でお店にきてるゥゥ〜!マジウケルww」「バカだよねー!!中華料理店で1人で来てるとかさーww」「恥ずかしいー!っていうか、寂しいーww」「彼氏とか居ないのかな?」って、聞こえる。聞こえるぞ…俺には聞こえる。連中の罵詈雑言が!!
しかし、俺は、屁でもない。
「屁」でもないのだ。
罵詈雑言<<<<(超えられない壁)<<<<屁。
「おい、いくらなんでm…」
と俺を止めようとした金髪。
と、同時にさきほど店の奥に行っていた店員のチャイナドレスが俺の元へと駆け寄ってきて息を切らしながら、
「お客さーん、ゴメンナサーイ、あの回転テーブルは予約席なんでーす!ゴメンネー!」と言ってきやがる。おいおいおい!!予約席は「予約席」ってカードを置くはずだろうが!!
「『予約席』ってカードが置かれてないですよ?」
「あ!!!ゴメンナサーイ!(いそいそとどこからか『予約席』カードを持ってきてテーブルに添える)」
ヌゥゥ…。
予約しているのなら仕方ない。
俺は店を後にした。
すぐさま金髪の電脳通信が。
『お、おいおい…やっぱり予約っていうのは嘘みたいだぞ。今「予約席」カードをテーブルからどけやがった…』
『き、キミカちゃん…ぼ、ボクの胸で泣いてもいいよ…』
ヌゥゥゥゥ…(白目