93 僕は友達がいない 3

週末の休み。
俺は金曜日の夜はお酒を買って帰って家でそれを飲むのだ。ケイスケもナツコも晩酌するなんておじさん臭いよって言ってるけどそんなの関係ないね!!せっかくの華のフライデー、華金だ!!
そして酔った俺はそのまま普段よりも早くにご就寝。だから土曜日の朝はわりと普通の時間に『目覚まし無し』で起きれる。
「あ、キミカちゃん」
ん?マコトかぁ。
珍しく早くに起きてるじゃん。
「おはよ〜」
「おはよ」
「どうしたの?」
「あの不良、今朝凄い早くに家に訪ねてきたよ」
「マジでェ?!」
「やっぱりキミカちゃんの今日の行動を見たいらしいよ。家の外で待ってるっぽい。後でボクも少し離れたところからキミカちゃんを見てるよ。あの不良が何かキミカちゃんに変な事しないように」
ヌゥゥ…。
アレは冗談じゃなかったのかよ…。不良のジョークは本当と区別がつかないなァ、ハハハ。って思ってたのに本当だったとは…。
「っていうか、あたしの休日の過ごし方を見たところで何にも面白くないのになぁ…別に普通だよぉ?」
「いやいやいや、キミカちゃんの過ごし方はすっごい寂しいと思うよ!ずっと一人ボッチだもん!!」
「いいじゃん…人間は一人で生まれてきて一人で死ぬんだョォ…」
「そんな哲学的な事を突然言われても」
「さて、行ってこようかな」
俺はさっきからマコトと話しながらもグラビティコントロールを使って器用に着替えていたので、話し終わる頃にはひと通り身支度を整えて家を出発した。本当なら玄関じゃなくて2階からグラビティコントロールを使ってぴょーん、って感じに飛び立つわけだけど、今日は監視の目があるから仕方ない。玄関から出よう。
リビングにはケイスケが一人。
ナツコは夜遅くまで趣味のホラー映画鑑賞やら呪術の勉強しているので朝は遅い。起きてくるのは昼過ぎだったかな。俺は居ないからナツコが起きてきたのは見たことがない。
ちなみにケイスケはなぜ早起きなのかというと、早起きなんじゃなくて昨日の夜から起きてるのだ。レッドブルっていう一本飲むと2日ぐらいは徹夜しても大丈夫なドリンクを飲んでいるから、徹夜も全然平気なのだそう。で、起きて何をしているのかと言うと、『土朝』っていう土曜日の朝に子供向けのアニメを見てる。それは大きな子供も見るみたいで大きな子供でもあるケイスケはそれを見るために土曜も日曜も徹夜するのだ。あ、ちなみに『日朝』にも子供向けアニメや特撮モノを放送している。
「フヒヒヒ!!!キュアマリンちゃーん!!ハァハァ…」
などと徹夜明けでギリギリの体力を削りながらテレビに齧り付いて見ている哀れなケイスケが俺の視界に入りそうだったのですぐに目を逸らした。可哀想な大人を見ると、将来自分がそんな大人になった時のショックが普通よりも大きい。
俺は朝食も採らず、ケイスケに行ってきますの挨拶もせずに(しても土朝に集中しているので無視されるし)玄関から颯爽と出た。
すると俺の背後には気配が。
奴め。あの金髪野郎。
ジーっと俺の後を見ているし、つけてくるな…いいだろう。俺の一日を見せてあげようじゃないか。何も変哲もない一日を。
『キミカちゃん』
突然、マコトから電脳通信が。
『どしたの?』
『ボクと金髪くんはキミカちゃんの後をついていくけど気にしないでね。もし金髪くんが変なことをしそうになったらボクが懲らしめておくから!!安心して休日を過ごして!』
『あ、ありがとう…』
と、その時、マコトの声と一緒に、
『こんな朝早くからどこに行くんだ?』
という声が。これはあの金髪の声じゃないか。
『それはキミカちゃんのみぞ知る、だよ』
とマコトの声が続く。なるほど、マコトの電脳通信で金髪くんの声を拾ってるわけか。こういう使い方も出来るとは思わなかった。
さて。
俺はバスに乗った。
『バスに乗ったぞ?街のほうに行くのか?』
『よし、ボク達も追いかけよう』
ククク…来てる来てる。
バスの後部座席の方にショートカットボーイッシュな美少女のマコトと、どこにでも居るような不良Aくんが。
『こんな朝早くに街に行って何をするんだ?』
ふッ…バカめ。
「こんな朝早くに街には行かないものだ」っていう定義を勝手に自分の中にしているな、それはすなわち、既にボッチ至上主義から離れているんだよ。カゴの中の小鳥さん。
駅前にバスが停まり、駅からまだシャッターがおりまくってる商店街の間を歩く。人は殆ど居ない。人が少ないからか冬の寒さも身に沁みてくる。しかし、全ては「コレ」の為にあるのだよ。
『喫茶店に入っていくぞ?そうか…喫茶店は開いてるな』
俺は行きつけの喫茶店の奥、テーブル席に陣取ってメニューを見る。そしてモーニングの注文を受け付けて忙しい店員に、「ブルーマウンテン、それから、トーストを」と注文する。
ようやく喫茶店に入ってきたマコトと金髪くん。
俺の席よりかなり離れたテーブル席に腰掛けると、俺のほうをチラチラと見ている。観察してるな…ククク。
『どうしたの?』
マコトは金髪くんが唸っているのを聞いて、質問したみたいだ。
『一人で喫茶店…しかも、カウンターがあるのにわざわざテーブル席に座るとか…これは難易度が高い…』
難易度?
俺がふつーにやってる事だけど、ボッチレベルが高いと自負している金髪くんにとっては難易度が高い行為らしい。確かに俺も最初はカウンター席に座るべきだと思ってたんだけど、カウンター席ってこの喫茶店のお店(個人営業)の店主と仲がいいお客さんが座るんだよね、そういう中で全然顔見知りでもなんでもない俺がドスンと座ってると、それはそれで違和感があるんだよね。無理にでも店主に話さなきゃいけない雰囲気になってしまってさ。それはフリーじゃない。
だから俺はこうやってテーブル席にドスン。
『おいおいおい…この喫茶店、だんだん客が増えてくるじゃねーか…ってか、客増えてきても堂々と4人座るテーブル席に陣取るってどういう神経してるんだ?周りの迷惑考えてねぇな…』
周りの迷惑ゥ?
なにそれ美味しいのォ?
既にその時は喫茶店に座れる席はなかった。
(俺のテーブルの席を相席にしないかぎりは)
そんな中、更に追加で客が入ってきた。
家族連れ、4人。
「すいません、お客さん、今、満員なんですよー」
と申し訳なさそうに店主が謝る。
すると、入ってきた客はじーっと俺のほうをみて、声にこそ出さないが「そこ空いてるじゃないか。テーブル席。馬鹿(キミカ)が一人でテーブル席に座りやがってるけどさ、その馬鹿(キミカ)どければ座れるじゃねーか、俺ら家族が!!」って表情で見てる。
しかしチラ見に留まり、その家族連れは店を後にした。
『おいおいおいおいおい!!今めっちゃ見てたぞ!アイツの事めっちゃ見てたぞ!!「何一人でテーブル席独占してんだこの野郎」的な目でじーっと見てたぞおいおいおい!!つか、なんでそこでドヤ顔してるんだよ!!一人で喫茶店入るのも十分勇気いるのに、しかもテーブル席、そして家族連れの客が居ても席から離れない図太い精神、そしてトドメのドヤ顔…なんていう半端ないボッチ力なんだ…』
あ、気付いたら俺はドヤ顔になってた。テヘペロ