93 僕は友達がいない 2

コーネリア曰く、さっきの不良くんは悪い事をしたから許しを乞いに教会に来ているはずだ、という事らしい。
確かにうちの学校には教会はあるけども許しを乞うとそれをちゃんと受け止めてくれるかは疑問だ。
祀ってある神様は「フォーベアー」と呼ばれてる土着信仰な神様で熊の姿をしている。それを象った銅像はまさに北海道の置き土産の熊。(しかも簡単には持ち運べない部類の)犯罪を犯した系の人間が許しを乞うとかいう以前に神力を有効にする為の生贄が必要そうだ。
渋々、俺たちはコーネリアの後をついていき、教会の重たい扉を開いた。もちろん、重たいので俺のグラビティコントロールでオープン・ザ・ドアしちゃって思いっきり扉を傷つけたけどいいよね。
「出てこい犯罪者!」
と真っ先に言うのが『不良』を勘違いしてるメイリン。既に戦闘モードだ。奴が出てくるのが早いか、奴が隠れ潜んでいるところにメイリンの戦闘矛が突き刺さるのが早いか。
「Hey…メイリーーーーン…彼ハ犯罪者デハアリマセーン…」
「では強姦魔か?」
「人ハ神ノ名ノモトニ平等ナノデース…」と言いながらコーネリアは「出テキナサーイ。大丈夫。何モ怖クアリマセーン。何モシナイカラ出テキナサーイ」と、まるで隠れんぼでもしている子供を探すかのように椅子とかテーブルの下を覗いてまわる。あの不良、身長180はあるだろう巨体が隠れる場所なんてなさそうだけど…。
一方でマコトはメインホールの脇にある小さな扉を開けて、中を覗きこんで「こっちにも廊下があるよ」と言う。
随分と小さな扉だ。
隠し扉とも思える。
怪しげな扉はすぐにメイリンやコーネリアの興味を引き、彼女らは我先にとその扉の中へと入っていく。
俺もそれに続いた。
別に隠し扉でもなんでもない、中には普通に廊下が続いているだけだ。きっと、メインホールの中で行事がある際にこれらの小さな扉が裏方さんの通り道となるのだろう。
「Oh!!」
コーネリアは「それみたことか」とでも言いたそうな嬉しそうな表情で『懺悔室』って書かれたラベルが貼ってある部屋の扉の前にいる。
「懺悔室ゥ?」
「コノ中デ神ノ許シヲ乞ウノデス…」
「ほほぅ」
というやり取りを俺たちがしていたが、メイリンはさっさと犯罪者、じゃなかった、不良を見つけたいのか、
「どけ!私が奴を始末する」
などと言いながら扉を開け放った。
コーネリアが言ってる事もたまには当たるものだ…。彼女の言うとおり、部屋の中にはあの金髪の不良野郎が居た。
しかし彼の表情からは誰かが入ってきたという事に対しての「喜び」みたいなのを感じたのだ。
不良男の次のセリフが喜びを表している。
「お!入部希望者か?」
と言った男の首の5センチ手前にメイリンの矛。寸止め。
「Hey!!メイリーン!!落チ着キナサイ」
不良男は、
「」
表情を固めたまま無言。
それから、
「あッぶね!!何するんだ!!」
と飛び退いた。
「懺悔室で何してるの?」と俺が聞くと、
「いや…だから…その、ここが友達部だよ…」
「もうそのネタ十分笑ったから…次のネタお願い」
「ギャグで言ってんじゃねーよ!!」
「」
「おい!その顔やめろよ!!もぉぉ〜!冷やかしなら帰ってくれよ!俺は友達が欲しいんだよ!この学校に転校してきて、予想してた以上に男子はすくねぇわ、女子には怖がられるわ、いくら親父の都合とはいえ、また苦しい青春を送るのはまっぴらんだよ!!」
「別に友達居なくてもいいんじゃないの…?」
「」
俺の問いが衝撃的だったのか知らないけど、その不良は俺を見たまま固まってしまった。コーネリアが揺さぶって初めて意識を取り戻したみたいだ。別に深い意味は無かったんだけど…。
一息ついた後、不良は、
「友達がいるお前らには俺の気持ちはわからないだろうな!!お前ら、アレだろ?ミス・アンダルシアだっけ?揃いも揃って美人ばっかりがいっしょにつるんでて、みんなの憧れの的らしいじゃないか!!お前らみたいなのには俺の気持ちはわからねーよ!!」
不良は今にも泣きそうな顔でそう言い放った。
さっきからそういう不良をコーネリアは哀れな人間でも(実際哀れだけど)見るような顔で、
「Oh…大丈夫デス…貴方ガ寂シガッテイル事ハ神モ見テクレテイマス…ソシテ、救イノ手ヲ差シ伸ベテクレルデショウ」
と言った。
こうやって優しくすると人はつけあがるぞ。ほら、不良はコーネリアに向かって希望をめいいっぱい顔に表しながら、
「俺と友達になってくれるのか?!」と聞き始めるじゃないか。
「(コーネリア無言で手を手前で振る)」
Noかよ!!お前は友達になってあげないのかよ!!
「神ガ友達ニナッテクレルデショウ…」
神がかよ!!お前じゃないのかよ!!!
「けっ…わかってた事だ。どうせ俺なんかと友達になりたい女子なんているわけない。俺はな、前の学校でもずーーッと一人だったんだよ。俺を超えるボッチは居ない。お前らが俺と同じ状況に置かれたら多分1分持たないぞ。1分だ。1分で音をあげて周囲をキョロキョロして知り合いがいないか探しまくるだろうな!!俺はボッチで居る事には誇りを持ってるんだ!強い精神を持ってるんだよ!」
不良はそう言ってドヤ顔になった。
しかしコーネリアは、
「Ha!!」
と言って不良のドヤ顔を一蹴した。
「な、なんだよ…」
「『ボッチ』デ居ルコトヲ誇リニ思ッテイルッテイウノデスカァー?アナタハコノ世ノ中ノ全テノ『ボッチ』ヲ見テキタノデスカァ?『井ノナカノ蛙、大海ヲ知ラズ…サレド井ノ深サヲシル』デスネェ…」
「何が言いたいんだよ!!」
「アナタヨリモマダマダ上ガ居ルトイウコトデス…」
上?
コーネリアは過去にぼっちだったことがあるのかな?
なんとなくコーネリアの悲しげな表情が気になる。今はこんなに元気だし、フランクに俺たちに話をしてるけど、コーネリアが昔、男だった時は学校の友達からはイジメられてたとか。
しかしそのコーネリアの悲しそうな眼差しは…なぜか俺のほうに向けられてるn、ってえええええええぇぇッ?!俺ェェ?!
「キミカヲ超エル『ボッチ』ハ居マセンンン!!」
「いやいやいやいや!!ボッチじゃないし!!」
俺は完全否定だ。
当然だ。俺はボッチじゃない。現に今だってコーネリアやメイリンやマコトと一緒に行動してるじゃないか。
それには不良男も気付いてる。不良男は
「それは無理があるぞ、だって実際、お前達一緒にいるだろ?」
と返す。そりゃそうだ。当然だ。
「キミカノ行動ヲジット監視スレバァ…ワカリマスゥ…」
「マジで?!」と俺が叫ぶ。
「今、私達ノ前ニイルノモ、面倒クサイケド仕方ナイト思ッテイルノデス…キミカハ例エボッチニナッタトシテモ、全然平気ナノデーッス!!ソノ『ボッチ』エネルギーハ半端ナイノデス!!」
こ、こいつ…俺の心を読んでやがる!!
確かに俺はここに来るのが面倒臭かった。っていうかコーネリアとメイリンの馬鹿外人二人組みに巻き込まれるのが嫌だったのだ。もし仮に俺が本当にコイツらと居るのが嫌で一人抜けだしたとしよう。普通、そこで一人ボッチになるのが嫌になる。普通の人間なら。俺は普通じゃないからか、一人ボッチになるのが全然苦じゃないぞ!
やばい…これがボッチか…。
ボッチは一人ボッチという状況を表しているのではなく、一人ボッチになってしまう人間そのものを表しているのか!!
「そういえば…キミカちゃんは休み日とかは一人で出掛けてるね」
とかマコトが言う。
そういえば…俺は余程の事がない限りは一人だ。
「てっきり誰か友達とか恋人とか居るのかと思って尾行してみたけど結局居なかったし」って尾行したんかい。
金髪頭の不良は俺を見て、
「へッ…」
と一言。
そして、
「そんなにボッチ力が凄いのなら俺と勝負だな。今週の週末、お前の一日の行動を見させてもらう!!そこで俺が判断してやるぞ!!お前のボッチ力と俺のボッチ力、どちらが高いかを!!まさか家にずーっと引き籠って『ボッチです』って言うんじゃないだろうな?そんなのはボッチ力が高いとは言わないぞ!!」
え?
なんで俺?
なんで俺が巻き込まれてるの?!
クッソ面倒臭ェ…。
早く家に帰ってボッチになr…ゴホンッ